42話 荒野の宿場
――カイ視点
荒涼とした大地が果てしなく広がる荒野のただ中、一行は細い大陸道路を行軍していた。前夜の小さな村での休息を経て、満身創痍ではあるが、それぞれが新たな覚悟と疲労を胸に抱えている。カイは剣を背に担ぎ、剣先から滲む蒼光を頼りに視界を確保しながら足を進める。ルクスの刃は夜明け前の薄明かりにかすかに反射し、まるで「次の試練はここだ」と囁いているかのようだ。
「見えるか? 向こうに小さな宿場があるはずだ。あの高台に見える建物が休憩場所になる」
カイは手にした地図を確認しながら、砂埃が舞う荒野を見渡した。その先には石造りの小規模な門と木製の看板がかすかに見え、宿場の存在を確信させる。周囲には乾いた草が生え、時折吹き抜ける乾風が顔に刺さるように冷たい。仲間たちは各自、最後の力を振り絞りながら前進している。
「ここから先は物資も限られている。宿場で補給と情報収集をしなければならない。魔王本陣への遠回りとなるが、今回の戦いでは物資の枯渇が命取りになるかもしれない」
カイの声は決然としており、仲間たちはそれに頷いた。リリアナは杖を胸に抱えつつ、瘴気を遠ざける蒼光を荒野の先に向けて放っている。マギーは巻物を手に呪文の確認を続け、ガロンは剣を握ったまま足元の岩を警戒し、ジークは短弓を構えつつ周囲を見渡す。セレスティアは杖を前に掲げ、仲間たちに癒しと祝福の祈りを捧げている。その祈りの光は薄暗い荒野にわずかな彩りを与え、旅路を照らし続けている。
■ ■ ■
リリアナ視点
カイの先導で荒野を進む中、リリアナは杖に集中しながら瘴気の反応を探していた。荒野とはいえ、魔王軍の残滓や瘴気の痕跡は消えておらず、慎重な魔力操作が必要だ。リリアナは杖先から蒼光を放ち、瘴気を浄化しながら砂塵を払いのけるように視界を確保する。
「この辺りの瘴気は濃度が低いけれど、乾燥地帯特有の気配に混ざって得体の知れない邪気が残っている……気を抜けないわ」
リリアナは低く呟き、杖を小刻みに揺らして結界を強固にした。その光が荒野に影を落とすと、周囲の草は一瞬だけ輝きを取り戻すように見えた。リリアナは砂埃で揺れる髪の束を払いながら、仲間たちの背中を見つめていた。特にカイの背中は揺るぎなく、大きな頼もしさを感じさせる。
「カイ様は本当に頼りになる……私がいないときでも、皆を導いてくれる。私も早くこの力を安定させて、皆を支えなくては」
リリアナは剣士たちの連携を心の中で祝福しつつ、自分の呪文を詠唱し続けた。その詠唱は荒野にわずかな響きをもたらし、次の目的地である宿場への到着を支えているように感じられた。
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マギー視点
リリアナの浄化の光のもと、マギーは巻物を握りしめて進んでいた。彼女は次の行き先である宿場についての情報を頭の中で再構築し、呪文使用のタイミングと必要な薬液の配布を計画している。荒野に建つ小さな宿場は、商隊がまれに通過する場所であり、物資と情報が得られる数少ない拠点だ。
「この宿場は以前、商人たちが交易所として利用していたらしいわ。ただし、瘴気に侵された魔物や盗賊が跋扈する危険もあると聞いている。情報をよく集めて、安全策を練らなければ」
マギーは静かに呟き、巻物を小さく膝に置いて呪文項目を確認した。次に必要なのは「瘴気抑制の祝福」と「未知魔物識別の結界」だ。マギーは詠唱の構成を頭の中で練り直し、呪文の詠唱時間を最小限に抑える方法を検討した。
「リリアナの結界がある間に詠唱を終えれば、侵入してきた瘴気魔物を見破ることができるわ。そこから先はガロンとジークの力を借りて一気に撃退すれば、宿場までの道は安全になるはず」
マギーは巻物をしまい込み、小瓶を取り出して仲間に配る準備を整えた。荒野を進む間にも目まぐるしく状況は変わるが、マギーは冷静さを失わずに自身の知識を仲間の盾となるように注ぎ込んでいく。
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ガロン視点
マギーの計画を聞きながら、ガロンは剣を肩に担いだまま周囲を警戒していた。荒野の視界は広い反面、影や砂塵に紛れて敵が潜みやすい。ガロンは剣先から蒼光を放っており、その光が周囲にある瘴気の痕跡を浮かび上がらせている。ガロンは常に最前線を歩き、仲間の背中を護る盾として立っているのだ。
「ここで一瞬でも気を抜いたら、仲間を守れない。剣は盾となり、斧となる。俺がこの眼前の脅威を引き受ける」
ガロンは剣を軽く握り直し、砂埃を払うように表情を引き締めた。次の瞬間、遠くの岩陰から瘴気を纏った小型の魔獣が飛び出してきた。ガロンは躊躇なく剣を振り下ろし、一閃で魔獣を仕留めた。膝にぶつかった砂が舞い上がり、ガロンの剣先から蒼光が伸びて周囲の瘴気を薄めた。
「動きは素早いが、これで仲間は安心して進める」
ガロンは深く息を吐き、再び剣を肩に担ぎ直した。その背中には揺るぎない信念が映し出され、仲間たちの心に安心感を与え続けている。
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ジーク視点
ガロンの猛撃を見届けたジークは、短弓を肩から引き下ろし、矢を番えた。小型の魔獣が倒されたとはいえ、荒野にはさらなる魔獣が潜んでいるかもしれない。ジークは狙いを定め、次の襲撃に備えている。
「ガロンの爆発的な剣撃が合図だ。俺は後方で仲間たちを守る。誰かが襲われそうになったら、その矢で助ける」
ジークは低く呟き、視界を草むらと岩陰に切り替えた。やがて、大きな影が次の魔獣を示すかのように草むらを揺らした。ジークは素早く矢尻をつがえ、一気に放った。矢は夜明け前の薄明かりを切り裂き、魔獣の胸を貫いて命中した。
「これで二体目か……仲間の背中を守るのは、やはり俺の役目だ」
ジークは短弓を再び肩に掛け直し、仲間が先へ進むのを静かに見守った。
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セレスティア視点
荒野の小道で、セレスティアは杖を胸に抱えたまま祈りを捧げ続けている。杖先から放たれる光は仲間たちを包み込み、瘴気を払う結界となっているが、その力は限りあるものだ。セレスティアは自らの命が魔力と深く結びついていることを痛感しながら、心の中で静かに祈った。
「愛と慈悲の光よ、仲間たちの心を守り給え。疲れを癒し、力を与え給え」
セレスティアの祈りの声が荒野に溶け込み、杖先から放たれる光が荒涼とした大地に淡い温もりを与えている。セレスティアは目を閉じ、再び祈りを続けた。その祈りは仲間たちに伝わり、リリアナの結界やマギーの呪文と重なることで、魔獣の侵入をさらに防ぐ効果をもたらしている。
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――カイ視点
やがて一行は荒野に建つ小さな宿場の門へとたどり着いた。木製の門扉は朽ちかけており、看板には「風見宿」とかすれた文字が描かれている。宿場の周囲にはわずかに茂る木々と、小さな水場が設けられていた。カイは剣を鞘に納め、仲間たちを見渡した。
「ここが次の拠点だ。物資と情報を集めつつ、魔王本陣への道筋を確かめる。戦闘が再び起こる可能性は高いが、まずは少し休息をとろう」
カイの声に仲間たちは頷き、疲労を癒しながら周囲を見回した。リリアナは杖を下ろし、水場で手足を清め、マギーは巻物を整理しつつ宿場の構造を確認した。ガロンは剣を背に担いだまま警戒を緩めず、ジークは短弓を携えて門裏へと気を配り、セレスティアは杖を胸に抱えたまま静かに祈りを続けている。
「まだ試練は続くが、一歩ずつ確実に進んでいる。仲間と共に、この旅を終えるその日まで、決して諦めるな」
カイは剣先から蒼光を放ち、仲間たちに向かって微笑んだ。その背中には、荒野を越えた先に待つ試練への覚悟と仲間との絆が深く刻まれている。
こうして、「荒野の宿場」の章は、荒涼たる大地を抜けた先に見つけた小さな宿場で、仲間たちが再び力を蓄え、新たな情報と物資を得るために集う場面で幕を閉じた。彼らの心には揺るぎない絆と希望が宿り、どんな困難が待ち受けていようとも、共に歩む覚悟を胸に抱き続ける――。
42話終わり
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