41話 聖女の真意
セレスティア視点
深い森を抜けた先に広がる草原の中央で、セレスティアは静かに目を開いた。朝陽が雲間から射し込み、草原の緑を淡く照らしている。その光はまるで祝福のように優しく、彼女の心に安らぎをもたらす。しかし、その頬にはかすかに疲労の色を宿しており、剣士たちと共に歩んできた日々の過酷さを物語っていた。杖を両手でゆっくり抱え、セレスティアは呼吸を整えながら、自身の胸に深い葛藤を抱えていた。
「私は……この旅で、何を守り、何を捨てるべきなのか」
セレスティアは小さく呟き、杖先に宿る淡い光を見つめた。その光は彼女の魔力が源であり、仲間たちを癒す力となっているが、同時にそれがセレスティア自身の命を削り続ける代償でもあった。昨夜の戦いでは、瘴気の渦を浄化するために全精力を注ぎ込み、仲間たちを鼓舞しながらも、自らのエネルギーが限界に近いことを痛感した。だが、仲間たちの笑顔を守りたいという強い思いが彼女を突き動かしている。
「私の力を借りなければ、仲間たちはもっと苦しむ。だから……私は祈り続ける」
セレスティアは杖を掲げ、再び祈りの言葉を紡ぎ始めた。その声は静かで柔らかく、草原を渡る風に溶けるように広がっていく。杖先からあふれ出る光は、仲間の背中を包み込み、癒しと守護のヴェールをかけていく。彼女の周囲には、聖なるエネルギーが渦を巻きながら静かに空を漂っていた。
■ ■ ■
――カイ視点
セレスティアの祈りに導かれ、カイは杖を担ぎ替えたまま草原の縁に立っていた。剣を腰に収めた彼は、荒れ地へと続く道を見据えながら、「聖女の祈り」が渇いた大地に一筋の光を投げかけるのを感じていた。仲間たちは皆、疲労を抱えつつも、次の戦いへ向けて精神を研ぎ澄ませている。リリアナは杖を高く掲げ、マギーは巻物を開いて呪文を確認し、ガロンは剣を肩にかけながら周囲を警戒し、ジークは短弓を軽く握り直し、セレスティアは祈りを捧げ続けている。
「皆、ありがとう。セレスティアの祈りが道を照らしてくれている。お前がいなければ、俺たちはここまで来られなかった」
カイは深く息を吸い込み、仲間たちへ微笑みかける。その表情には疲労がにじみつつも、一筋の決意と優しさが溢れている。ルクスを背に担いだまま、カイは一歩前へと踏み出した。
「さて、進もうか。あの荒れ地を超えれば、魔王軍の前線拠点があるはずだ。強大な瘴気と魔獣が待ち受けているが、俺たちなら乗り越えられる」
カイの声が静かに草原に響き、仲間たちは各自の役割を再確認しながら頷いた。リリアナは杖をしっかり握り、マギーは呪文の詠唱準備を整え、ガロンは剣を鞘から抜きかけ、ジークは矢を番えて、新たな戦いに備える。
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リリアナ視点
カイの言葉を聞いたリリアナは、杖を胸に抱えたままそっと目を閉じた。セレスティアの祈りが彼女の心を落ち着かせ、瘴気を纏う荒れ地へ向かう勇気を与えている。リリアナは自分の魔力を確かめるように深呼吸し、静かに呟いた。
「私は……仲間のために、どこまでも魔力を注ぎ続ける。どんな瘴気も、光で打ち払う」
リリアナは目を開くと、杖から放たれる蒼光をより強く光が宿るように集中させた。その光は霞みかけた朝霧の中を裂き、荒れ地を包み込むように広がっていく。リリアナは剣士たちの背中を見守りながら、瘴気の侵入を警戒した。
「皆さん、私が瘴気の結界を張っている間に進んでください。瘴気に呑まれずに進めるよう、全力を尽くします」
リリアナは杖を大きく振り、その力を草原の縁へと放った。瘴気の影が薄れ、足元の草がわずかに揺れた。リリアナは祈りを込めた眼差しで前方を見据え、仲間が安全に先へ進めるよう光の結界を維持し続けた。
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マギー視点
リリアナが結界を張る中、マギーは巻物を片手に持ち、呪文を詠唱し続けている。今、必要なのは瘴気をさらに抑えるための上位防御術だ。マギーは古代文字を指でなぞりながら、次の呪文を練り上げている。
「瘴気支配陣……この呪文が完成すれば、瘴気の濃度を五分の一に抑えられるはず」
マギーは深呼吸をすると、一気に呪詠を加速させた。その瞬間、巻物から放たれた光が地面を照らし、瘴気が渦巻く草原内で強力な結界を形成した。結界は視界を少しだけ明るくし、瘴気の瘴気を一時的に圧縮して仲間の進路を確保した。マギーは巻物をたたみ、小瓶を取り出してリリアナに渡しつつ、剣士たちが無事に通過するのを見守った。
「これで少しは楽になるはずよ。リリアナ、薬液も活用して」
マギーは仲間たちが結界内を進む姿を見つめながら、自らの知識が仲間の背中を支えることに静かな満足を覚えた。
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ガロン視点
ガロンは剣を軽く肩に担ぎ直し、仲間たちの背中をそっと見守りながら、ゆっくりと足を踏み出した。マギーとリリアナが結界を展開している間、ガロンは最前線へと立ち、万が一の敵襲に備える。剣先からは蒼光が漏れ、その光が荒れ地に一筋の希望を灯すかのようだ。
「泥の中で爪跡を残す瘴気の魔獣どもよ、俺が盾となる。お前たちを一切通さない」
ガロンは低く呟き、歩みを止めずに前進を続けた。荒れ地には大小さまざまな瘴気の穴が点在し、時折地面が不気味に揺れるたびに瘴気の魔獣が潜んでいる可能性を示している。ガロンは剣を構え、どの方向からでも襲撃を受け止められる構えを見せた。
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ジーク視点
ガロンを隣に見ながら、ジークは短弓を肩に掛け、周囲の気配を鋭く探っていた。リリアナとマギーが張った防御結界がわずかに効いている間に、ジークは前方を警戒しつつ、次の狙いを定める準備を整えている。心臓の鼓動が高鳴り、誰よりも緊張は高いが、ジークは冷静さを保とうとしている。
「瘴気魔獣が現れるのはいつか……だが、一瞬でも気を抜けば、この短弓で護るべき背中が切り裂かれる」
ジークは低く呟き、深呼吸をすると、次の一歩を踏み出した。草むらの中で何かが動いた気配に、ジークは矢を番え、その先端をゆっくりと草むらに向けた。魔獣が現れれば、的確に狙いを定める覚悟は揺らがない。
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セレスティア視点
セレスティアは杖を胸に抱えたまま静かに祈りを唱え続け、仲間たちの心に安らぎと勇気を灯している。その光は夜明けの薄明かりと溶け合い、やわらかな祝福となって荒れ地を照らしている。セレスティアは視線を仲間たちに向け、ひとりひとりの顔を思い浮かべながら、祈りの言葉を心に刻んでいった。
「愛と慈悲の光よ、我らを導き給え。試練に挑む心に揺るがぬ光を授け、友の背中を守る力を与え給え」
セレスティアの詠唱が草原に溶け込み、杖先からほのかに光が滴り落ちる。その光はリリアナとマギーの結界と重なり合い、さらに強固な防御層を形成している。セレスティアはふと目を閉じ、深く息を吐いてから再び仲間へと視線を戻した。
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――カイ視点
リリアナとマギーが張った結界のおかげで、荒れ地を一行は無事に横断し終えた。瘴気の魔獣も数体現れたが、ガロンやジークの連携、リリアナの浄化、マギーとセレスティアの祈りが一丸となって応戦し、一体残らず排除された。その戦いの中で、仲間の結束がさらに深まったのをカイは肌で感じていた。
「皆、よくやった。この先に見えるのは、小さな村と廃墟だ。その村が最後の補給拠点になるかもしれない。次はそこで休憩を取る」
カイは剣を腰に納め、仲間たちを見渡した。リリアナは杖をそっと休め、マギーは巻物を慎重になおし、ガロンは剣を鞘に収めつつも警戒を緩めず、ジークは矢を短弓に仕舞い込んでいる。セレスティアは杖を抱えたまま満足そうに微笑み、仲間の無事を祝福している。
「さあ、進もう。この旅もいよいよ後半戦だ。魔王本陣はもうすぐそこにある」
カイの声が静かに草原に響き渡ると、一行は再び歩みを進めた。その背後には、朝陽が荒れ地を照らし、谷を包む霧がわずかに晴れていく光景が広がっていた。仲間たちの心に宿る希望と覚悟は、どのような闇が立ちはだかっていようとも、決して揺らぐことのない灯火となり、世界を照らし続けるだろう――。
40話終わり
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