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40話 新たな旅

――カイ視点


薄曇りの朝霧が峡谷の底を満たし、微かな冷気が肌を刺す中、一行はゆっくりと谷を抜けて新たな大地へと足を踏み出していた。昨夜の激戦を終えてから一息つく間もなく、仲間たちと共に魔王本陣への道を再開する。ルクスの蒼い光を帯びた刃先は、静かな決意の炎を映し出しているかのように揺らめいていた。カイは深く息を吸い込み、剣を肩に担いだまま仲間たちを振り返る。


「皆、お疲れ様だ。昨夜はよく戦った。だが、この先にも困難は続く。今ここから新たな戦場へ歩み出す」

カイの言葉を合図に、一行は肩を落とすことなく前へ進み始めた。リリアナは杖をそっと地面に触れさせ、瘴気の残滓を浄化しながら周囲を見渡す。マギーは巻物を抱え、地図と現状を照合しながら、次の目的地を定めるべく魔力を巡らせている。ガロンは剣を構えたまま、背後の安全を確保しつつ険しい山道を見つめている。ジークは短弓を肩に掛け、敏捷に足を運びながら前方の視界を探る。そして、セレスティアは杖を胸に抱え、仲間の歩みに祝福の光を注ぎつつ静かに祈りを捧げる。


峡谷を抜けると、目の前には広大な渓谷が広がっていた。霧が立ちこめるその谷間には細い川が蛇行し、その先には森が深く茂り、遠くの山並みがかすかに霞んでいる。カイは剣を握る手を強くしてから声を張り上げた。


「ここが次の試練の地だ。瘴気は減ったが、魔王軍が完全にいなくなったわけではない。警戒を怠るな」

その声は低くも力強く、仲間たちの耳に深く刻まれた。リリアナは杖を高く掲げ、蒼い光を周囲に放ち、瘴気の侵入を防ごうとする。マギーは巻物を広げ、次なる防御結界の図形をなぞるように指を動かしながら詠唱準備を整えた。ガロンは剣を握り締め、片目を細めて視界の隅々まで警戒を続けている。ジークは短弓を引き絞り、影から魔物が飛び出す可能性を探るように周囲を見渡す。セレスティアは祈りを込めた瞳で一行を見つめながら、光の帯を再び仲間に注ぎ込んだ。


一行が渓谷の岸辺を進む中、カイは剣先を川面に映してみせた。水面に映る自分の姿は、昨夜の戦いで見せた深い傷と疲労の跡をまだ残しつつも、剣を握る瞳には確かな覚悟が宿っている。カイは軽く息をついて剣を鞘に納め、仲間に目配せを送った。


「皆、ここで小休止を取ろう。私たち全員が限界を超えずに進むことが重要だ。傷の手当はもちろん、心も整えろ」

その言葉に仲間たちは頷き、ひとまず川辺の平らな岩に腰を下ろした。カイは剣を脇に置き、深く息を吐きながら周囲を見渡す。


■   ■   ■


リリアナ視点


渓谷の岸辺で小休止を取る中、リリアナは杖を脇に置き、川のせせらぎを耳にしながら湧き出る思いを整理していた。昨夜は魔剣ルクスの力を借りて戦いの先陣を切ったが、そのたびに自身の魔力が限界に近づくのを感じた。仲間たちの戦いを支えたいという思いは強いが、体力と魔力のバランスを保たなければ次の試練に臨めない。リリアナは深く息を吸い込んで杖を扱う指先を温めた。


「私がしっかりしないと……仲間の支えになれなくなる」

リリアナは小さく呟いてから、杖を立て、蒼い光をゆっくりと大地に広げた。その光は小さな結界となり、峡谷の空気を浄化しながら仲間の疲労を少しでも癒すように働いている。リリアナは眼を閉じ、心の中で仲間一人ひとりの顔を思い浮かべた。カイの剣を振るう背中、ガロンの盾のごとき頼もしさ、マギーの巻物に込められた知恵、ジークの的確な矢、セレスティアのやさしい祈り。


「私も皆の力になれるように、この浄化の結界をさらに強化しよう」

リリアナは杖を握り直し、再び魔力を詠唱に注ぎ込んだ。蒼い光がより大きく強く広がり、仲間たちの周囲を包み込む。リリアナは視線を仲間たちに向け、温かな微笑みを浮かべた。


■   ■   ■


マギー視点


リリアナが浄化の結界を展開する中、マギーは座ったまま巻物を開き、次なる予定地に関する情報を確認していた。マギーの巻物には、魔王本陣へ至る迂回路や小さな村、物資補給の拠点となる廃墟などが詳細に記されている。マギーは仲間たちが休息を取る合間にも情報を整理し、必要な呪文と薬液の配布を考えていた。


「ここから先は森が深く、魔王軍の襲撃が予想される。瘴気を抑えるだけでは不十分かもしれない。防御呪文の準備をもう一度確認しよう」

マギーは手元の巻物を見つめながら、古代文字で書かれた呪文を心の中で唱え、次々と頭の中で構造を組み立てていった。マギーが最も懸念しているのは、瘴気を帯びた呪術師が待ち構えている可能性だ。呪術師が瘴気を操れば、結界は一瞬で破られる恐れがある。マギーは巻物を慎重にたたみ、小瓶を取り出してリリアナのもとへ歩み寄った。


「リリアナ、これを」

マギーは瘴気抑制薬液の小瓶をリリアナに差し出した。その中には瘴気の浄化を助けるための特別な薬液が含まれており、飲むことで一時的に魔力の消耗を抑えられるという。リリアナは薬液を受け取り、感謝の意を示すようにうなずいた。マギーは仲間全員に必要な分の薬液を分配し、再び巻物を胸に仕舞い込んだ。


「必要なら使ってほしい。この先の戦いで、私の知識が役に立つよう願っている」

マギーは静かに言葉を添え、仲間たちが再び立ち上がる準備を整えるのを見守った。


■   ■   ■


ガロン視点


マギーとリリアナが協力して支援を行う中、ガロンは剣を肩に担ぎ、険しい視線で渓谷の先を見据えていた。ガロンの胸には、仲間への信頼と共に守るべきものへの強い思いが宿っている。ガロンは剣先を地面に突き刺し、剣の柄を握り直した。


「カイが選んだ道は間違っていない。俺はこの剣で仲間の盾となり続ける」

ガロンは低く呟きながら剣を揺らし、蒼光の刃先が一瞬だけ鋭い閃光を放った。その光景はまるで二度と倒れぬ砦のようで、仲間たちはガロンの背中を見つめながら自分たちの覚悟を再確認していた。ガロンは剣を再び鞘に納めず、構えたまま立ち上がり、一行に合図を送った。


「行こう。俺たちには、まだ行くべき場所がある」

ガロンの声を合図に、一行は渓谷の谷底へと足を踏み出した。ガロンはその背中で仲間たちの安全を確保しつつ、前方の森へと向かっていった。


■   ■   ■


ジーク視点


ガロンの合図と共に、一行は渓谷を抜けて深い森へと進み出した。ジークは短弓を肩に掛けながら、周囲の気配に細心の注意を払っている。森林の中は視界が狭く、どこから魔物や呪術師が現れてもおかしくない状況だ。ジークは矢を握り、仲間たちが進む背後を見守った。


「仲間の背中を守るのは、やはり俺の役目だ」

ジークは低く呟き、短弓を引き絞って狙いを定める。遠くからかすかな唸り声が聞こえ、ジークは次の行動を探るかのように視線を動かした。やがて、木々の間を瘴気を纏った小型の魔物が跳び回りながら一行に向かってくる。ジークは瞬時に矢を番え、正確にその魔物を貫いた。


「これで少しは安心できる……だが、気を抜くな」

ジークは短弓を肩に戻し、再び仲間たちの背中を見守る覚悟を固めた。


■   ■   ■


セレスティア視点


森林の中を進む一行を、セレスティアは祈りの声で見守っていた。杖を胸に抱え、僅かな光を放ち続けるその姿は、まるで闇の中を歩む仲間たちに灯火を与えるかのように揺らめいている。セレスティアの祈りは、瘴気に侵された木々をやわらかく包み込み、仲間の心に安らぎを与える。


「愛と慈悲の光よ、我らが歩む道を照らし、試練を乗り越える力を授け給え」

セレスティアの言葉が夜の静寂に溶け込み、杖先からほのかな光が森林の奥へと広がっていく。その光は魔物や呪術師の目にも小さな違和感となり、攻撃の機会を逸させる効果をもたらしていた。セレスティアは目を閉じ、仲間たちの無事を祈り続けた。


■   ■   ■


――カイ視点


深い森を抜けた先に、ようやく小さな集落の廃墟が見えてきた。かつては賑わった村だったというが、瘴気と魔王軍の侵攻によって廃墟と化し、かすかに風に揺れる草むらがその痕跡を物語っている。カイは剣を鞘へ納め、仲間たちと共にその廃墟の入口まで進んだ。


「ここで少し休息を取り、物資を探そう。魔王本陣へ向かうには、まだ長い道のりが待っている」

カイは仲間たちを見渡し、深く息を吐いた。リリアナは杖を胸に抱え、マギーは巻物を取り出しながら物資の確認を始め、ガロンは剣を構えたまま周囲を警戒し、ジークは短弓を肩に掛け直し、セレスティアは杖を優しく掲げて祈りを続けている。


一行は魔王本陣への道を再び歩み出す。新たな旅のはじまりを告げるこの瞬間、彼らの心には疲労とともに希望の光が宿り、どのような闇が待ち受けていようとも、揺るぎない絆と覚悟が彼らを導く――。


40話終わり

お読みいただきありがとうございます。

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