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39話 ベルナールの挑発

――カイ視点


薄曇りの朝霧が峡谷の奥深くを白く覆う中、カイは剣を背に担ぎながら山肌に刻まれた古い祠の前に立っていた。昨夜、魔剣ルクスの真なる力を解放し、代償を払いながらも仲間とともに次の道を切り開いたが、その戦いの疲労が肉体と魂に深く刻まれている。しかし、眼前にはいまも冷たい風が瘴気を運び、木々の影が揺らめく。カイは剣を握る手に力を込め、前方へと歩を進めた。


「ここが……ベルナールの仕掛けた罠の前の最後の休息地か」

カイは低く呟き、剣先から放たれる蒼光を足元に投じた。先導するガロン、ジーク、マギー、リリアナ、セレスティアはそれぞれの武器や魔力を整え、警戒心を強めている。カイは仲間の背後に延びる長い影を視線でなぞりながら、ベルナールが再び姿を現す気配を探った。ルクスの刃先はわずかに震え、瘴気を漂わせながら「覚悟を問う時が来た」と囁く。


一行が古びた祠を越えた直後、目の前の狭い沢沿いの道を裂くように、ベルナールの冷たい声が霧の中から響いた。


「ようやくここまで来たか。カイ、お前は所詮、異界の亡霊にすぎぬ。俺にすべてを奪われる未来を受け入れろ」

その言葉とともに、霧がゆっくりと晴れ、ベルナールが薄い黒いマントを風になびかせながら立っている姿が浮かび上がった。長い銀髪が暗い闇に溶け込み、冷酷な眼差しがカイたちを射抜く。背後には瘴気をまとった魔物が数体控え、不気味な唸り声を漏らしている。カイは剣を抜き放ち、ルクスの刃先をベルナールへ向けた。


「ベルナール……お前は何度も俺たちを邪魔してきた。だが、俺たちは闇に屈しない。お前の言葉など耳に入っていない」

カイの声は静かだが確かな怒りを帯びており、ベルナールの嘲笑をかき消すほどの重みがある。ベルナールは指先をかすかに動かし、背後の魔物たちを一斉に襲撃させる構えを見せた。


「ほう、覚悟を示すのか? ならば見せてもらおう、お前の“チート”なる力の真価を」

ベルナールが冷たく笑うと、魔物たちは黒い瘴気を引き連れ、カイたちへ一気に飛びかかってきた。


「皆、構えろ!」

カイの号令とともに、一行は瞬時に戦闘態勢へ入った。ガロンは剣を振りかざし、最前列の魔物たちを豪快に打ち砕く。剣先が瘴気を断ち切り、鋭い金属音が峡谷内に響き渡る。リリアナは杖を高く掲げ、蒼光の結界を展開して瘴気の結界を薄める。光の輪が仲間たちを包み込み、瘴気を抑え込む役割を果たしている。マギーは巻物を広げ、「瘴気縛陣」の呪文を詠唱し、瘴気の流入を一時的に食い止めた。ジークは短弓を引き絞り、同志を援護するように次々と矢を放ち、魔物の数を減らしていく。セレスティアは杖を胸に抱え、祈りを込めた光を放ち続け、仲間たちを癒しながらだが、意志を強く感じさせるその光が瞼を揺らす。


■   ■   ■


リリアナ視点


「瘴気を浄化します! 皆さん、私に続いてください!」

リリアナは杖を振り上げ、蒼光を脈打たせるように周囲へ飛ばした。その光が瘴気を塗りつぶすように忍び寄り、魔物の淀んだ瘴気を引き剥がしていく。リリアナは流水のように詠唱を続け、瘴気を彼方へ振り払う。


「この瘴気の渦、ベルナールの呪詛が込められている……でも、私は信じる。仲間と共に道を切り開く」

リリアナの声がかすかに震えながらも確かな強さを帯び、杖先から放たれた光は次第に大きな円を描き始めた。その結界は瘴気をガードする盾のように周囲を包み込み、仲間が深く息を吸い込む余裕をもたらす。


■   ■   ■


マギー視点


リリアナの結界に呼応し、マギーは巻物を再び取り出して呪文を紡いだ。「瘴気追放陣」――瘴気を強制的に押し戻し、呪詛を解除するための上位呪文だ。マギーは古代文字を一字一句確かめながら、一気に詠唱を加速させる。


「瘴気を追放し、ベルナールの呪詛を解き放つ!」

マギーの詠唱が完了すると、泉の対岸から強烈な波動が押し寄せ、瘴気を瞬時に嘗め取るかのように吹き飛ばした。瘴気が渦巻いた空気が裂かれ、短い静寂が訪れる。その隙に、ガロンとジークが攻撃の手を緩めず、次の敵へと突進していった。マギーは呪文を唱え終えた余韻を感じながら、数秒間だけ目を閉じて深く息を吸い込み、次の支援に備えた。


■   ■   ■


ガロン視点


マギーの呪文とリリアナの結界によって瘴気が薄まり、ガロンは剣を強く握りしめた。剣先から放たれる蒼光は、まるでガロン自身の戦いの精神そのものを映し出すように激しく煌めいている。ガロンは一気に魔物たちの群れへと飛び込むと、盾のように剣を構え、次々と襲いかかる魔物を一閃で切り裂いていく。


「俺は盾となり、槍となる! お前たちの暴虐はここで終わりだ!」

ガロンは剣を旋回させ、瘴気の影に光を放ちながら、仲間たちが安全に前進できるように道を切り開いた。その猛々しい剣撃は重厚な金属音を響かせ、魔物の群れを一気に後退させた。ガロンの視線が固く、背筋を通る覚悟がまるで山を揺るがすかのように揺るぎない。


■   ■   ■


ジーク視点


ガロンが切り開いた疾風のような戦線の後ろで、ジークは短弓を手に構え、狙いを定めた。矢先には瘴気を濾過する結界がかすめることなく突き刺さり、そのまま魔物の要害を貫いた。ジークは矢を放つたびに冷静さを保ち、次の標的を次々と選び出す正確無比な射撃を見せた。


「一発でも多く! ガロンの盾が破られないように、俺が援護する!」

ジークの矢は一瞬たりとも無駄になることなく飛び、瘴気の奥から現れる魔物の群れを撃ち抜いていく。矢が命中するたびに瘴気が一瞬揺らぎ、魔物の動きが鈍る。その隙を見逃さず、ガロンやカイたちは切り込む。ジークは腰に当てた矢筒を軽く叩き、次々と矢を番えていった。


■   ■   ■


セレスティア視点


瘴気を抑えるマギーの呪文とリリアナの結界、ガロンの剣撃、ジークの射撃が織りなす戦場の中で、セレスティアは深い祈りを捧げ続けていた。その祈りの光は暗闇に包まれる峡谷に小さな灯火を灯し、戦いの激しさをやわらげるように揺らめいている。


「愛と慈悲の光よ、この戦場に集う者たちの心に響き給え。傷ついた魂を癒し、我らにさらなる強さを授け給え」

セレスティアの詠唱が夜空を溶かすように広がり、杖の先からほのかな光が地面に降り注ぐ。その光はガロンの剣に宿り、カイの剣に重なり合い、リリアナの結界とマギーの呪文をさらに強固にする。ジークもその光を浴びて矢先を研ぎ澄ませ、最後の一撃を仲間と共に見届けようと息を整えている。


■   ■   ■


――カイ視点


一行の連携によって魔物の群れは次第に数を減らしていき、ベルナールの嘲笑が再び辺りに響いた。霧が晴れる中、ベルナールは薄く笑みを浮かべ、瘴気に満ちた掌をかざして挑発する。


「愚か者ども……お前たちの絆など、一瞬で粉砕してくれるわ!」

ベルナールは揺らめく瘴気を一度手のひらで集めると、黒い稲妻を伴った一条の瘴気の矢をカイに向けて放った。その矢は瘴気を帯びて蠢きながら飛翔し、カイの胸へと迫る。


「皆、守りを固めろ! この瘴気はベルナールの呪詛だ!」

カイは剣を掲げ、ルクスの蒼光を前方へと注ぎ込んだ。その光が瘴気の矢を弾き返し、一瞬だけカイの前に虹色の光輪を描いた。リリアナは杖を振り下ろし、瘴気を再び浄化する結界を広げる。マギーは次の呪文を繰り出し、瘴気の奔流を逆流させる。ガロンは剣を揺らしながら盾となり、ジークは矢をカイとリリアナを守る角度で放つ。セレスティアは深い祈りを捧げ、瘴気を癒しながら仲間を鼓舞する。


一行が一致団結して湧き上がる瘴気を断ち切ったその瞬間、ベルナールの影が薄らいでいく。束の間の静寂が訪れ、先ほどまでの嘲笑は消え去り、代わりに冷たい風だけが峡谷を吹き抜けた。


「これで奴の挑発は……終わりか?」

カイは剣を握り直し、深く息を吐いた。その姿勢は揺るぎなく、剣先から漏れ出る蒼光が周囲を照らし出す。ベルナールは影のごとく姿を消し、残されたのは一行と峡谷に漂う瘴気の気配だけだった。


「皆、まだ気を抜くな。この先の道には、さらに強大な瘴気と魔王軍の尖兵が待っている。だが、俺たちの絆は誰にも砕けはしない」

カイは仲間たちを見渡し、剣を高く掲げた。その眼差しには自信と覚悟が宿り、先ほどまでの苦戦を糧にさらに強く歩む意思が滲んでいる。リリアナは杖を握り締め、マギーは巻物を胸に抱え直し、ガロンは剣を構えたまま力強く頷き、ジークは矢を短弓に番えて仲間に背を向けず、セレスティアは再び優しい微笑みを浮かべた。


こうして、「ベルナールの挑発」の章は、ベルナールからの嘲笑と瘴気の襲撃を仲間の連携で跳ね返し、さらなる決意を胸に魔王本陣へ向かう場面で幕を閉じた。一行の絆は深まり、どのような闇に襲われても、新たな光となって世界を照らし続ける――。


39話終わり


お読みいただきありがとうございます。

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