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37話 リリアナの苦悩

リリアナ視点


薄曇りの空が夜明けの気配を僅かに覗かせる頃、リリアナは一行から少し離れた場所で立ち止まっていた。背後には古い城壁の残骸と振り返ることのない道が続き、前方には魔王本陣の尖塔が遠く暗闇の中に浮かび上がっている。周囲の空気は冷たく、瘴気の残滓がまだ微かに漂っているが、その中でもリリアナの胸の内には深い葛藤が渦巻いていた。


「私が……もっと強くなれたなら。セレスティア様を守るだけでなく、皆と共に戦い、傷つく仲間のそばに寄り添いたい」

リリアナは杖を胸に抱え、深い呼吸を繰り返しながら自身の弱さを噛み締めた。先日、魔王軍の影と対峙した際、自分が仲間を十分に支えられなかったことが頭を離れない。リリアナの魔力は確かに強力だが、瘴気の結界の前では思うように浄化の力を発揮できず、仲間たちの負担を増やしてしまったという罪悪感が彼女の内心を締め付けている。


「どうして私はもっと役に立てないの……?」

リリアナは小声で呟き、杖先から蒼い光を放って地面を照らした。その光は瘴気を浄化しながらも、リリアナ自身の心に届くほどの温かさを帯びている。彼女はその光に自らを委ねるように、ゆっくりと祈りの言葉を紡いだ。


「聖なる光よ、私の足りない力を補い、仲間を護るための勇気を与えたまえ。どうか、私の弱さを赦し、強さを授け給え」

詠唱の声がかすかに震えながらも確かに響き渡り、杖から放たれた光は瘴気を払いのけ、リリアナの苦悩を少しだけ和らげるかのように周囲を包み込んだ。しかし、その祈りが終わると同時に、再び仲間たちを想う不安がリリアナの胸を締めつけた。


――仲間たちにはどれほどの覚悟があるのか。私は、その覚悟に応え続けられるのだろうか。


リリアナは目を閉じ、再び深い呼吸を整えた。視線を上げると、魔王本陣へ向かう橋の入り口でカイやガロン、マギー、ジーク、セレスティアがそれぞれの役割を果たすために動いている姿が見えた。彼らは一瞬たりとも気を抜かず、まるで固い意思を持つ彫像のように揺るぎない覚悟を胸に秘めている。その姿はリリアナにとって憧れであり、同時に自分の弱さを突きつける鏡だった。


「私も……もっと強くなるべきだ。だから、あの人たちと同じ場所に立ちたい」

リリアナは涙をこらえつつ杖を握りしめ、ゆっくりと仲間たちのもとへと歩き出した。その足取りは決して軽くはなかったが、一歩一歩進むたびに内なる葛藤が少しずつ薄れていくのを感じた。


■   ■   ■


ガロン視点


ガロンは剣を背に担ぎ、リリアナの背後からそっと見守っていた。ガロン自身も数々の戦いを経験し、そのたびに心身を鍛え上げてきたが、リリアナの苦悩を察するにつけ、自らの誇りに深い意味を見出していた。ガロンは剣を軽く握り、冷たい夜風が頬を撫でる中で自らの役割を改めて心に刻んだ。


「リリアナはまだ幼い。だが、心は強い。あの光を放つ姿は、仲間を守る誠実さそのものだ」

ガロンは呻くように呟き、剣を肩に戻して振り返った。カイたちが橋の向こうで敵の配置を探り、セレスティアが祈りの力で背後から仲間を支える中、ガロンはリリアナが抱える弱さを盾で受け止める覚悟を固めた。


「俺が剣で道を切り開き、リリアナが光を注ぐ。その力が合わされば、どんな瘴気にも打ち勝てる」

ガロンは静かに言葉を胸にしまい、再び剣を握り直した。剣先からはかすかな蒼光が漏れ、ガロンの意志とリリアナへの思いが光となって表れているかのようだった。


■   ■   ■


マギー視点


マギーは巻物を胸に抱えながら、リリアナの祈りを遠目に見守っていた。マギー自身も情報と呪文の力で仲間を支えてきたが、リリアナが抱える葛藤を肌で感じ取り、胸を痛めていた。マギーは静かに深呼吸をし、仲間たちが戦場で抱える重圧を再確認する。


「リリアナは自分を責めすぎているわ。彼女の魔力は十分に仲間を守れるものなのに、自分の限界を恐れてしまっている」

マギーは巻物に記された次の呪文を確かめながらつぶやき、自身の魔力を集中させて瘴気をさらに抑え込むための呪文を準備した。


「私が瘴気を食い止めてみせる。リリアナが心配を覚えずに力を発揮できるように、私ができる限りのサポートをするわ」

マギーは自らに言い聞かせるように言い、その言葉が仲間たちに届くことを願って巻物をたたんだ。小瓶を取り出し、リリアナにそっと手渡す。マギーの表情には揺るぎない決意があり、リリアナの心を少しでも軽くしたいという思いがにじみ出ていた。


■   ■   ■


ジーク視点


ジークは短弓を肩に掛けたまま、リリアナの背中をじっと見つめていた。かつては自分も弱さを抱えた盗賊だったが、仲間たちと共に戦うことで誇りを見出し、それを胸に戦場を駆け抜けてきた。リリアナの苦悩を見て、ジークは自分の過去を思い出し、心の中で静かに手を差し伸べる決意を固めた。


「リリアナ、お前は一人じゃない。俺たちがいる。お前の魔力は仲間を救うための翼だから、自信を持て」

ジークは低く呟き、杖を抱えたリリアナに近づいた。リリアナは苦悩の表情のまま俯いていたが、ジークの声を聞くと目を細めて顔を上げた。ジークは短弓を背に掛けたまま優しく手を差し伸べ、その手には瘴気抑制の薬液を包んでいた。


「これを使ってくれ。瘴気の毒を少しでも和らげられるはずだ」

ジークの言葉に、リリアナは涙をこらえながら頷き、小瓶を受け取った。その瞳には感謝と葛藤が入り混じり、ジークはそっと微笑んで再び仲間へと視線を戻した。


■   ■   ■


セレスティア視点


リリアナの苦悩を感じ取ったセレスティアは、自らの塔から杖を抱えて駆け下りてきた。夜の光が淡く照らす中、セレスティアは杖を胸に抱えながらリリアナの元へ歩み寄り、優しい微笑みを浮かべた。その灯火のように温かな眼差しはリリアナの心をひとときでも平穏へ誘おうとしているかのようだった。


「リリアナ、あなたは一人ではありません。私の祈りと共に、あなたの心も癒されるように願っています」

セレスティアはそっとリリアナの肩に手を置き、そのまま祈りを捧げるように杖を掲げた。周囲に広がる光は、一瞬で瘴気の影を追い払い、リリアナの瞳に安堵の色をもたらした。その祈りの光はまるで母の愛のように優しく、リリアナの心の痛みを静かに包み込んだ。


「私の祈りが届いているかしら……あなたが抱える痛みを忘れるほどの光を、届けたい」

セレスティアの詠唱に呼応するかのように、杖先から光の粒子が溢れ、リリアナを包む。その光は冷たい夜気を一瞬で暖かい風に変え、リリアナの胸から冷えた灰を一掃していくように感じられた。


■   ■   ■


再びリリアナ視点


セレスティアとジーク、マギー、ガロンの言葉と光に支えられたリリアナは、深く息を吸い込み、再び胸の奥の痛みと向き合った。その痛みは決して消えるものではないが、それを乗り越えようとする意思がリリアナの中で少しずつ燃え上がってきた。


「ありがとう……皆、本当に……」

リリアナの声は震えながらも確かな感謝を帯びており、彼女は杖を強く握り直した。リリアナの周囲では、マギーの呪文が瘴気をさらに抑え込み、リリアナ自身の浄化の光と重なり合ってより強固な結界を作り出している。


「これから先、どんなに苦しくても、私は挫けずに光を放ち続ける。カイたちを信じ、自分の魔力を信じて」

リリアナは小さく呟き、剣士たちのもとへと歩き出した。その歩みはかつての不安に満ちた足取りではなく、自らの弱さを認めたうえで強く前へ進む一歩となっていた。


周囲で再び仲間たちと視線を交わし、リリアナは再び杖を高く掲げた。その光が夜空に届くかのように煌めき、仲間たちの背中を照らし続ける。カイは優しく微笑み返し、ガロンは剣を掲げて励まし、ジークは短弓を軽く掲げて応え、マギーは巻物を胸に抱えながら静かにうなずき、セレスティアは再び祈りの光を仲間に注いだ。


「皆と共に、この世界に光を取り戻すために――私はもっと強くなる」

リリアナは決意を胸に刻み、仲間たちと共に再び魔王本陣への道を歩き始めた。その背後では、瘴気が少しずつ消え、新たな夜明けが訪れようとしている。リリアナの苦悩は完全には消えないが、その痛みを胸に抱いたままでも、仲間と共に戦う覚悟と信念が彼女の内で芽生えたのである。


こうして、「リリアナの苦悩」の章は、リリアナが自身の弱さと向き合い、仲間たちの支えを受けて再び覚悟を新たにする場面で幕を閉じた。仲間たちの絆と信頼が、リリアナをさらなる強さへと導き、やがて訪れる魔王本陣での最終決戦への光となる――。


37話終わり

お読みいただきありがとうございます。

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