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36話 魔王軍の影再び

――カイ視点


夜闇が深く街を包み込む頃、一行は古びた橋の袂に差し掛かっていた。魔王本陣へ続く唯一の道を守るこの橋は、崩れかけた石柱と草木に侵食された路面が視界に映るだけで、かつて多くの戦士たちが命を賭して渡った場所だということが容易に想像できた。カイは剣を背に担ぎ、剣先から漏れる蒼い光を橋上へと注ぎ込む。


「ここを越えれば、いよいよ魔王本陣へと続く最後の区間に入る。一瞬の隙も見逃せない」

カイは低く吐息を漏らし、冷たい夜風に揺れるマントを静かに押さえた。ルクスは刃先をわずかに震わせ、かすかな囁き声で「覚悟を持て、お前のすべてを示せ」と迫るように響いた。カイはその囁きに呼応するかのように剣を握り直し、周囲へと視線を巡らせた。


街の灯が遠くに滲み、川面には月明かりが逆さまに映る。だが、その静寂を破るかのように、暗闇の向こうからかすかな唸り声が聞こえ始めた。

「魔王軍の先遣部隊か……いや、昨夜とは違うタイプの瘴気を感じる」

カイは刹那、剣筋を整えながら仲間へ声をかける。ガロンは剣を構え直し、ジークは短弓を肩に引き寄せ、リリアナは杖から放つ蒼光をさらに強めた。マギーは巻物を手のひらで温めるように持ち、セレスティアは微かな祈りの声を紡ぎながら光の輪を繰り返し描く。


暗闇から、漆黒の甲冑を身にまとった魔王軍兵士たちがゆっくりと現れた。その背中には瘴気の結界を示す暗い紋様が浮かび上がり、甲冑の隙間からは赤い光が漏れている。兵士たちの足元には小型の魔物たちが蠢き、鎖音とともに唸り声を上げながら橋の中央へと進んでくる。


「皆、覚悟しろ! 一気に抜けるか、それともここで殲滅か……俺はどちらでも構わない。お前たちと一緒なら、必ず道を切り開く」

カイの声が仲間たちを鼓舞し、その瞬間、ガロンは地面を蹴って前に飛び出した。剣を大きく振りかぶり、甲冑兵士の最前列を豪快に打ち据える。甲冑が砕け散り、背後の瘴気が一瞬だけ後退する。リリアナは杖を高く掲げ、魔力を前方へと注ぎ込み、瘴気の結界を一気に抑え込もうとする。


「瘴気を浄化します! 皆、前進を続けて!」

リリアナが叫ぶと、杖先から放たれた蒼光が瘴気を裂き、歩を進める仲間たちにわずかながら安息を与えた。ジークは短弓を構え、一斉に矢を放ちながら敵の数を削っていく。その矢は瘴気を貫き、甲冑兵士の隙を突いて正確に命中し、次々と戦線を崩していく。マギーは巻物を取り出して呪文を詠唱し、瘴気の結界が再び貼り直されるのを阻止しながら味方の士気を高める防御呪文を解き放った。セレスティアの祈りが一行の背後を包み込み、どんなに濃い瘴気も一瞬のうちに浄化されていく。


「ガロン、俺の背中を頼む!」

カイは強く叫び、一隊の兵士を一閃で斬り伏せたまま更に前に進む。ガロンは剣を振り回して護りを固めつつ、次の敵へと向かう。ジークの矢は尽きることなく放たれ、リリアナの魔力は瘴気を押し流し続け、マギーの呪文は戦線を支え、セレスティアの祈りが一行を包み込む。


橋の中央を抜ける頃には、多くの敵が討たれ、かつてないほどの光の奔流が暗闇を切り裂いていた。だがその先にはさらに強力な瘴気をまとった魔王軍の尖兵が控えており、闘いはまさに佳境へと突入しようとしていた。


■   ■   ■


リリアナ視点


カイたちが橋上で前衛を切り開く中、リリアナは杖を高く掲げたまま祈りを続けていた。瘴気の結界は強力で、何度貼り直されても一瞬で裂かれるが、そのたびにリリアナは詠唱を加速させ、光の刃を放出し続ける。杖先から放たれる蒼光はまるで刃のように瘴気を切り裂き、仲間たちの前進を助けると同時に敵の動きを鈍らせている。


「瘴気を浄化します……この光が皆の背中を包み、暗闇を払う」

リリアナの声が震えながらも確実に響き渡り、杖の光が一瞬だけ全身を包み込む。リリアナは自らの魔力を引き絞るように集中し、余すところなく瘴気を浄化し続けた。その結果、敵兵の甲冑から漏れ出る瘴気が急速に弱まり、攻勢を緩める隙が生まれた。


「皆さん、今です!」

リリアナは仲間たちに向かって合図を送り、カイは剣を振り上げて一気に攻め込んだ。リリアナの光はさらに強くなり、杖の根元から全身へと魔力が満ち溢れるように感じられた。


■   ■   ■


マギー視点


リリアナが瘴気を浄化する中、マギーは巻物を開いて新たな呪文を読み上げた。それは「瘴気縛陣」という強力な結界で、瘴気を収束させて敵の動きを一時的に封じ込める呪文だ。マギーは空中に魔法陣を描き、両手から呪文の光を注ぎ込む。魔法陣が完成すると、瘴気はまるで糸で縛られたかのように動きを止め、暗闇を支配する勢いを失った。


「瘴気を縛りし結界、展開完了。これで敵の動く範囲が制限されるはずよ」

マギーの呟きに応えるかのように、森の暗がりから現れた尖兵たちは動きを止め、まるで時間が止まったかのようにその場に立ち尽くした。マギーは巻物をたたみ、小瓶を取り出して仲間へ配った。


「必要に応じて薬液を使ってください。瘴気による毒堕が始まる前に対処を」

マギーはそう呼びかけ、次の呪文準備を整えた。その背後にはセレスティアの祈りの光が揺らめき、マギーは仲間たちの安全を強固にするべく、冷静に状況を見つめ続けた。


■   ■   ■


ガロン視点


マギーの結界が瘴気を封じ込めた瞬間、ガロンは剣を大きく振りかざし、その勢いで瘴気を纏った尖兵の御頭を吹き飛ばした。剣の虎徹げた刃先は、瘴気を一瞬で切り裂き、その切っ先は闇を断ち切る光となった。ガロンのその一撃で敵兵は崩れ落ち、瘴気を放つ体が砕け散った。


「よし、これで敵の勢いは止まった。皆、後続を抑えながら前に進め!」

ガロンは剣を鞘に収めずに構えたまま後方を大声で呼びかけ、仲間たちを鼓舞した。その背中には揺るぎない誓いが宿り、まるで山となって仲間たちを護り続けるかのように動じない。ガロンは剣先を下げず、次なる敵を見据えながら確固たる足取りで前進を再開した。


■   ■   ■


ジーク視点


ガロンの一撃を見届けたジークは短弓を引き絞り、次の標的へと矢を放った。狙いを定めた先には瘴気の結界に囚われた敵兵が浮かび上がり、その胸部を貫いた矢は深い裂傷を残して瘴気を爆発させた。瘴気が一瞬だけ拡散して森の空気が歪む中、ジークは再び矢を番え、連射の要領で次々と敵兵を仕留めていく。


「ここで退けば、仲間を置いてきぼりにすることになる。俺は徹底的に援護するからな!」

ジークは低く呟きながら矢を放つ手を止めず、敵の隙を逃さぬよう鋭い眼差しを巡らせる。リリアナの光が敵の動きを鈍らせ、マギーの呪文が瘴気を縛りつける。ジークはその合間をぬって正確無比な射撃を続け、仲間たちの背中を一瞬たりとも見捨てない覚悟を示した。


■   ■   ■


セレスティア視点


瘴気を抑え込むマギーの呪文とリリアナの浄化の輝きに応えるべく、セレスティアは夜空を見上げながら祈りを込めた。杖を胸に抱えたまま両腕を広げ、心の奥底から湧き上がる慈悲の光が仲間たちへ降り注がれる。


「光の息吹よ、闇の淵を切り裂き、この心を護り給え。仲間たちが倒れることなく、進み続けられますように」

セレスティアの詠唱が暗闇に溶け込むと、彼女の周囲に光の結界が展開され、瘴気を纏う敵兵が近づくたびにその瘴気が浄化され、光の矢の形となって森の奥へと帰っていく。それはまるで無数の小さな希望の灯火が一斉に灯るかのようで、仲間たちの士気は一層高まっていった。


■   ■   ■


――カイ視点


瘴気を抑え込まれ、周囲が一瞬だけ静寂に包まれる中、カイは剣を高く掲げた。ルクスの刃先から迸る蒼光が暗闇を切り裂き、橋の向こうに続く森の小道を浮かび上がらせる。その先には、瘴気が渦巻く魔王本陣への入り口が瞠目のごとくそびえ立っていた。


「これで、橋は制圧できた。ここから先は……最後の区間だ」

カイは深く息を吸い込み、仲間たちを見渡した。全員が剣や杖、短弓を握りしめ、疲労と覚悟が交錯する目で彼を見つめ返す。カイは剣を胸に寄せ、その鼓動に呼応するかのように改めて決意を口にした。


「皆、ありがとう。お前たちと共にこの道を歩んできたからこそ、ここまで来られた。さあ、最後まで――魔王本陣への道を切り開こう!」

カイの声が暗い空気を引き裂くと、仲間たちは一斉に剣を握りしめ、杖を高く掲げ、短弓を携えて前へと進み出した。その背後では、倒れた魔王軍の兵士たちが朽ち果てた瘴気と共に静かに消えていく。だが、一行の心には新たな光と希望が溢れ、どのような闇や困難が待ち受けていようとも、決して挫けることのない熱い覚悟が宿っていた。


こうして、「魔王軍の影再び」の章は、橋を渡り切り、再び魔王本陣への最後の道を示す場面で幕を閉じた。仲間たちの絆と覚悟は、闇を打ち砕き、新たな未来を切り開く力となって輝き続ける――。


36話終わり


お読みいただきありがとうございます。

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