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31話 盗賊の再会

――カイ視点


朝靄に包まれた草原の小道を進む中、カイは剣を背に担ぎながら足元に目を落としていた。昨夜、魔王軍の総攻撃をはね返し、深い眠りについてから間もない。仲間たちの無事を確認し、皆が傷を癒す間もなく再び旅を続けているとはいえ、カイの心にわずかな安堵が芽生えつつあった。ルクスの刃先からは依然として瘴気を浄化する蒼光が滲み出し、カイの胸に勇気と覚悟を与えてくれている。


「昨日の激戦を乗り越えた今だからこそ、仲間と共に歩みを進める意味がある」

カイはそっと息を吐き、剣を握る手に力を込めた。前方に広がる草原の向こうには、わずかに青い空が覗き始めていた。魔王本陣へ至る道は険しく、瘴気が再び立ち込める可能性もある。しかし、カイは昨夜の勝利を胸に、新たな出会いが待つかもしれない小さな村へと向かっていた。そこにはかつて盗賊団の頭領として命を懸けていたジークが拠点を築いているという情報をマギーから得ていたのだ。ジークはかつての戦いの中で仲間となり、その後も何度も共に戦った仲間だ。今はかつての荒んだ姿は影を潜め、人々を守るために新たな道を歩んでいるという噂を信じ、カイは再会を心待ちにしていた。


「ジーク、お前は今どんな顔をしているんだろうな。あの頃とはまるで別人のようになったと聞くが……」

カイは剣を握りしめつつ、茂みの向こうに目を凝らした。朝日を背に受け、仲間たちの影が長く伸びる。その先に小高い丘があり、丘の上には木で組まれた見張り台がぽつんと立っている。ジークがそこで見張りをしているのかもしれない。カイは軽くうなずき、仲間たちに合図を送った。


「皆、ここで軽く休息を取ろう。ジークとの再会に備えて準備を整えるんだ」

ガロンは剣を柄に戻し、マギーは巻物をしまい込み、リリアナは杖を胸に抱えたまま微笑んだ。セレスティアはゆっくりと立ち上がり、祈りの余韻を胸に刻んでから仲間たちのもとへ歩を進めた。カイは視線をジークの拠点があるであろう丘へ移し、剣を腰に戻して軽く息をついた。


「行こう、皆。ジークとの再会は、俺たちの旅に新たな力をもたらすはずだ」

カイは剣を持ち直し、仲間たちと共に丘へ向かって歩き出した。その背には、昨日の勝利を糧に互いを信じ合う仲間の姿があった。


■   ■   ■


リリアナ視点


カイに導かれて進む一行の中で、リリアナは杖をそっと握りしめ、周囲に漂う魔力の気配を探っていた。小道の両脇には野花が咲き乱れ、朝露が葉先に揺れている。風に揺れる草むらの奥からは、鳥のさえずりが優しく響き、昨夜の激戦が嘘のように静かな朝を演出していた。しかし心のどこかでリリアナは、不意に訪れる戦いの気配や瘴気の残影を警戒している自分にも気づいていた。


「小さな村というけれど、人々の生活があるに違いない。ジークはかつて盗賊団の頭領だったけれど、今は人々を守るために立ち上がったと聞いている。その思いを無駄にしないよう、私も魔力でできる限り守りたい」

リリアナは杖先を地面に固定し、微かに蒼い光を放った。その光は瘴気を浄化する結界のように草原を包み込み、刹那的だが確かな安心感を仲間たちに与えた。カイはその光を感じ取り、軽く頷いた。


「リリアナ、ありがとう。その光があれば俺たちはさらに進める」

カイは静かに礼を言い、リリアナは照れくさそうに杖を小さく揺らした。その優しい光のおかげか、仲間たちの表情には心の平安が見え隠れしている。セレスティアは小道の脇で再び短い祈りを唱え、穏やかな笑みを浮かべた。リリアナはそんなセレスティアの姿に目を細め、再び周囲を見渡した。


「皆が安心して再会を迎えられますように……」

リリアナは心の中で静かに祈り、仲間たちと共に丘への一歩を踏み出した。やがて丘の麓に近づくと、小屋の残骸のようなバラックと、簡易な見張り台が目に入った。そこには見張りをする人影がひとつ、朝露に濡れた刀を手にして立っている。リリアナはその人物の雰囲気をじっと見つめた。


「やっぱり……ジークね」

リリアナは小さく息を吐き、杖を握る手を強くした。そして、仲間たちに視線を向けて静かに合図を送り、再会の瞬間に備えた。


■   ■   ■


マギー視点


マギーは巻物を片手に丘を見上げ、古代文字で書かれた呪文や調査メモを思い返していた。ここはかつて魔物が絶えなかった土地で、ジークが盗賊団を率いて村を守っていたという伝承の残る場所だ。その伝承によれば、ジークはかつて仲間を失い、自らの罪を償うために盗賊団を立ち上げ、人々を守る道を選んだという。マギーはその話を胸にしまい込むと、仲間たちのもとへ向かって歩いた。


「ジークがどれだけ成長したのか、そして私たちに何を伝えてくれるのか……非常に興味深いわ」

マギーは巻物をしまい込み、小瓶をポーチに納めた。その小瓶の中には瘴気を抑える薬液がいくつか入っており、必要なときに仲間たちに配るつもりだった。マギーは村の入口に近づくと、石畳に刻まれた古い魔法陣の破片を見つけ、膝をついてそれを調べた。


「ここでジークが守ってきた人々が、どれだけの犠牲を払ったのか……この魔法陣の痕跡が、そんな歴史を物語っているのかもしれないわ」

マギーはそうつぶやきながら、破片を慎重に扱い、再び立ち上がった。その背後には仲間たちが並んで立っており、マギーは深呼吸をして準備を整えた。やがて、丘の上に立つジークの姿がはっきりと目に入る。彼は刀を持ったまま、風に髪をなびかせている。その姿はまるでガロンと並ぶ剣士のように凛々しく、かつての盗賊の影はまったく感じられなかった。マギーは驚きと感動に胸を震わせ、仲間たちと共に丘を登り始めた。


■   ■   ■


ガロン視点


ガロンは剣を柄に戻して鞘を締め、仲間たちと共に丘を登っていった。険しい傾斜を一歩一歩進むたびに剣の柄が土を擦り、冷たい感触が手に伝わってくる。その剣に込めた決意を思い返しながら、ガロンは視線をジークへと注いだ。昔のジークは盗賊団の頭領として粗野であったが、今はその姿はまるで別人のように毅然としている。


「ジーク、お前は何者だ? 盗賊団を率いてこの土地を守っていたと聞いているが、どれだけの闘いを経て今の姿になったのか……俺も興味がある」

ガロンは仲間たちに声を掛けると、軽く剣を振りかざして悪霊でも切り払うかのような仕草を見せた。その動作は力強く、カイとリリアナが微笑むきっかけになり、ジークの姿を前にした高まる緊張を少しだけ取り除いてくれた。やがて丘の頂にたどり着くと、ジークは刀を鞘に収め、剣を構えたままガロンを見つめ返した。


「ガロンか……久しぶりだな。お前がいてくれて嬉しいよ」

ジークは刀を片手で軽く撫でるようにしながら静かに言った。その声にはかつての荒みはなく、慈しみと覚悟が込められていた。ガロンは剣を鞘に収め直し、静かにうなずいた。


「ここまで来た以上、お前の力が必要だ。魔王本陣へ向かう俺たちを力強く支えてくれ」

ガロンの言葉にジークは小さく笑みを浮かべ、仲間たちのほうを見渡した。その瞳には確実な信頼が宿り、ガロンはその視線を受け止めるかのように剣を構えた。


■   ■   ■


ジーク視点


ガロンの言葉を受けて、ジークは刀を軽く振って草原の風に研ぎ澄まされた刃先をさらしながら口を開いた。


「お前らは俺の生きる理由だ。かつては俺が人を恐れ、俺自身が恐れられていた。だが今は違う。仲間を守るために剣を握る、その覚悟が俺にはある」

ジークの言葉は静かだが、確かな熱を帯びていた。カイはその言葉を真剣に受け止め、剣を握りしめて深く頷いた。


「俺たちは共に魔王アズラエルを討つ。お前と共に戦うことが、この世界に希望をもたらす」

カイの言葉を受けて、ジークは刀を片手で掲げ、力強く頷いた。その姿にはかつての盗賊ではなく、一人の守護者としての誇りと覚悟があふれていた。


「よし……なら、お前らの背中を俺が必ず守る」

ジークは静かに宣言し、短弓を背に掛け直して剣を構え直した。その表情には微かな微笑みが浮かび、ガロンとカイはその微笑みを見て再び胸を熱くした。


■   ■   ■


――カイ視点


ジークとの再会を果たし、仲間たちの絆が深まったことを実感したカイは、剣を腰に戻しながら周囲を見渡した。遠くに見える魔王本陣の門へ向かって瘴気が再び立ち込め始めているが、カイの胸には不安よりも確かな決意が宿っている。


「皆、ここからは最後の道だ。お前たちの力を信じて、俺は剣を振るう」

カイは静かに声を張り上げると、仲間たちはそれぞれの武器を構え直し、最後の行軍へと歩を進めた。剣を背に担ぐガロン、杖を手に魔力を巡らせるリリアナ、巻物を抱えたマギー、短弓を肩に掛けるジーク、そして杖を胸に抱えて祈りを続けるセレスティア――彼らの背中には、数々の試練を乗り越えてきた固い絆と、世界を救うという揺るぎない使命感が刻み込まれている。その姿は、暗き瘴気の先に待ち受ける最終決戦を前に、すべての不安を打ち払うほどに強く、美しく輝いていた。


こうして、「盗賊の再会」の章は、ジークとの再会を果たし、仲間の絆と覚悟を改めて確かめ合った一行が、魔王本陣へと続く最後の道へ歩を進める場面で幕を閉じた。これから先に待ち受ける戦いは苛烈を極めるだろうが、一行の心はひとつに結ばれ、どのような闇も打ち払う光となって世界を導いていく――。


31話終わり

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