27話 ルクスの真なる力
――カイ視点
夜明けの光が薄く射し込む霧の中、一行は魔王本陣へ向かう旅の途上、小さな山岳集落に立ち寄っていた。ここにはかつてルクスの封印を研究したとされる古の賢者の記録が残されていると言われており、マギーがそこから得た情報を元に、カイはルクスの真なる力の秘密を探る意志を固めていた。集落の中央には朽ちかけた石造りの塔が聳え、その内部には古代文字が刻まれた書物や魔剣に関する伝承が数多く残されている。カイは剣を腰に収め、深呼吸を一つしてから塔の入口に足を踏み入れた。
「ここが賢者の塔か……なんとも厳かな雰囲気だな」
カイは静かに呟きながら、周囲に漂う古代の魔力を感じ取った。その魔力はまるで風の音のように耳に届き、彼の胸の奥に存在するルクスとの絆を揺さぶるかのように囁いている。カイは剣を背に担ぎ直し、仲間たちを振り返った。ガロンは剣を構えたまま入口を見下ろし、リリアナは杖を手に魔力を巡らせ、マギーは巻物を広げて古の記録を確認している。ジークは廃材に身を隠しつつ、警戒を怠らずに辺りを見渡している。セレスティアは入口の前で再び祈りを捧げる姿勢を保っていた。カイは剣の柄に手をかけ、ゆっくりと階段を降りていった。
■ ■ ■
――リリアナ視点
カイが塔の入口へと進む姿を見守りながら、リリアナは杖の先端から放たれる淡い蒼光をさらに強めている。古の賢者が残した伝承には、ルクスが持つ「真なる力」は魂を試すとも記されており、その代償がいかに大きいかを警告しているという。リリアナは仲間たちの無事を願い、心の中で祈りを捧げた。
「カイ様がルクスの力に飲み込まれないよう、私は常に魔力で支えます」
リリアナは低く囁き、杖を胸の高さに掲げた。その杖から繰り出される光は、塔内部の薄暗い石壁を照らし出し、古代文字や魔剣の図が刻まれた壁画を浮かび上がらせていく。リリアナは目を閉じ、魔力を集中して光の輪を広げ、カイが進むべき道を示し続けた。
■ ■ ■
――マギー視点
マギーは巻物を胸に抱え、足元の古びた階段を慎重に降りていった。巻物には賢者が残したノートが綴られており、そこにはルクスの魔剣が「かつて人の魂を宿していた存在」と書かれていた。マギーは薄い声でその内容を呟く。
「ルクスは“魂の刃”だったか……。つまり、真なる力を引き出すには、魂の一部を歪めるか捧げる必要があるということかもしれない」
マギーは巻物をたたみ、ポーチにしまうと、仲間たちの動向を注意深く見守りながら、塔の奥へ向かって進み続けた。足元には失われた古の魔力が微かに粒子となって漂い、その飛沫がマギーの手に触れた瞬間、微熱が走った。
「覚悟を決めなければ……」
マギーは自分に言い聞かせるように低く呟き、再び仲間たちのもとへと歩み寄った。
■ ■ ■
――ガロン視点
ガロンは剣を柄に触れたまま、先頭を進むカイの背中を見守り続けていた。塔内部には幾重もの結界が張られており、それを解かない限り先へ進めないようになっている。ガロンは剣の鍔を軽く叩きながら、その結界を破るべく刃を研ぎ澄ませていた。
「カイ、お前の剣は一度封印を解いたときに見せた力以上のものを発揮するのか?」
ガロンは剣先を揺らしながら聞きかけると、カイは一瞬視線を向けて微かに笑った。
「よくわからん。ただ、ルクスはまだ本気を出していない。塔の奥で賢者の残した情報を得て、真なる力の引き出し方を探ってみるつもりだ」
カイは低く答え、ガロンは深くうなずいた。剣の刃先からはかすかに瘴気を帯びた蒼光が漏れ出し、壁に反射して一瞬だけ赤い影を映し出した。ガロンはその影を見逃さず、剣を握り直してさらに先へ進む準備を整えた。
■ ■ ■
――ジーク視点
ジークは剣士たちの後方で短弓を構えながら、塔内部の薄明かりの中を進んでいた。閉ざされた扉や神殿のような石壁には古の魔物が潜んでいる可能性があり、ジークは矢筒を軽く撫でながら常に警戒している。時折、足元の石版から漂う瘴気の気配を感じ取り、矢を一本抜いて弓弦を弾いて確認する。矢先がほんのわずかに紫色に染まると、それが瘴気の痕跡であることを示している。ジークは素早く矢を戻し、再び仲間たちに遅れぬよう追いついた。
「瘴気の残滓はまだ消えていない。賢者の結界を完全に解除しなければ、塔の奥へは進めないな」
ジークは低く囁きながら、足を止めて壁に刻まれた古代文字を確認した。文字には「覚悟と犠牲を捧げし者のみが、真の刃を手にする」と書かれており、ジークは短く息を吐いた。剣士たちが先へ進む中、ジークは再び弓を肩に掛け、暗闇の中で仲間を支える覚悟を胸に歩み続けた。
■ ■ ■
――カイ視点
塔の最深部へと続く石の大扉の前にたどり着くと、カイは剣を抜いて踏み込んだ。大扉には古代文字が深く刻まれており、その文字は賢者たちが最後の結界として設えた「魂の試練」を示している。文字を読み上げると、扉の周囲に刻まれた紋様が徐々に光を帯び、瘴気の影がうごめき始めた。カイは深く息を吸い込み、剣先を地面に一度突き立てた。
「ついにここまで来た……ルクス、お前の真なる力を見せてもらうぞ」
カイは低く呟き、剣を強く握りしめた。その剣先からは瘴気を浄化する蒼い光が迸り、大扉に触れた瞬間、文字が光と共に浮かび上がった。カイは剣を大きく振りかざし、文字を斬り裂くように一太刀を放った。剣気が大扉を震わせ、瘴気が一気に吹き飛ぶと、封印は音を立てて崩れ、奥へと続く暗い階段が露わになった。
■ ■ ■
――リリアナ視点
カイの剣が大扉の封印を解いた瞬間、リリアナは杖から放たれる光をさらに強め、瘴気を一掃しようと詠唱を加速させた。光の粒子は階段を下るごとに瘴気を吸い込み、静かな浄化の波動となって暗闇に広がる。その光が一行の足元を照らし出し、リリアナは深く息を吐いた。
「これで大扉の封印は完全に解除されたわ。カイ様、どうか無事に階段を降りて」
リリアナはカイに向かって微笑みかけ、杖を握り直した。その視線には揺るぎない信頼と、これから先に待ち受ける困難に立ち向かう覚悟が宿っている。
■ ■ ■
――マギー視点
マギーは巻物を返信しつつ、塔内部の奥へ続く階段を見つめていた。足元には古代の文字が散らばり、瘴気の痕跡がちらほらと残っている。マギーは小瓶の瘴気抑制薬を手に取り、仲間たちが階段を降りる前に少量を手の甲に垂らして自らを強化した。
「この先には、賢者が最後に封じた“魂の試練”が待っている。ここを超えられなければ、真なる力を手にすることはできない……」
マギーは低く呟き、仲間たちのもとへと歩み寄った。古代文字をたどった結果、この試練は「覚悟の一閃」を証明せよというものであり、それを満たせばルクスの全力がカイに委ねられるという。マギーは巻物をたたんで背負い直し、仲間を見守る覚悟を再度固めた。
■ ■ ■
――ガロン視点
ガロンは剣を握りしめたまま階段を降りていく先を見つめていた。暗闇の中に浮かび上がる霧の向こうには、闇の炎がゆらりと揺れるかのような光景が広がっている。その奥深くには、まるで魂を試すかのような視線を感じさせる異形の影が漂っていた。ガロンは剣を腰に一度戻し、深く呼吸を整えた。
「ここで最後の試練か……カイの覚悟を俺は信じる。もしものときは、俺が盾となろう」
ガロンはその言葉を胸に刻み、仲間たちと共に階段を一歩ずつ下りていった。剣先からはかすかに瘴気を浄化する蒼光が漏れ、闇の試練を打ち破る一筋の希望の光となって足元を照らしている。
■ ■ ■
――ジーク視点
ジークは短弓を肩に掛け、階段の一番後ろから一行の動向を見守っていた。暗闇の中でも目だけは赤く光り、瘴気の影がどこに潜んでいるかを探知している。時折、階段を下りる仲間に応じて矢を一本抜き、弓弦へと乗せながらもその先を見据えている。
「この先は魔物や幻影だけではない。カイが己の魂を賭ける試練が待っている。俺はここで見守るだけだ……だが、その覚悟を最後まで信じる」
ジークは小さく胸を張り、仲間たちを見守る覚悟を胸に抱えながら、階段を降りる足音を静かに聞き続けた。
■ ■ ■
――カイ視点
深部へ続く暗い石段を降りきった先に、一面を覆う闇の中に佇む水晶のような結晶体が見えた。その結晶はかすかに赤黒く輝き、周囲には瘴気が渦巻いている。カイは剣を抜き、両手で柄を握りしめた。ルクスの鼓動はいつになく強く、カイの心臓と共鳴するように高鳴っている。
「これが……賢者が“魂の試練”と呼んだものか」
カイは低く呟き、水晶の結晶に向かって一歩踏み出した。すると、突然床が震え、結晶の表面がわずかに波のように揺れた。やがて、結晶から巨大な影が浮かび上がり、その輪郭は人の形をしているが、瘴気に覆われた異形の存在だった。
「我が名は“闇裂きの影”――真なる力欲しき者よ、その覚悟を示せ! 刃を振るい、魂を捧げる覚悟があるのか!」
闇裂きの影が低い声でカイに問いかける。その声は空気を重たくし、闇の中で鼓動するように響き渡った。カイは剣を握りしめ、深く息を吸い込んでから力強く応えた。
「俺の覚悟は――この剣と仲間たちの想いを背負い、魔王アズラエルを討つことにある! お前がいかなる試練を示そうとも、その覚悟は揺るがない!」
カイの言葉に応じるように、ルクスの刃先から迸る蒼光が強く輝き、闇裂きの影を照らし出す。影はひび割れた瞑った目を開き、その瞳には冷たくも暖かい光が混在している。
「ふむ……その覚悟、ただの言葉ではないようだな。ならば、真なる力を示そう」
闇裂きの影が低く唸り声をあげると、その場にあった瘴気が渦を巻きながら結晶体の周囲を包み込んだ。やがて、結晶体が砕け散り、瘴気の中心から無数の黒い触手のような影が蠢き出した。それはカイの周囲を一瞬にして取り囲み、剣士の心を試すかのように襲いかかろうとしている。
■ ■ ■
リリアナ視点
カイの前に立ちはだかる瘴気の怪物群を見て、リリアナは駆け寄った。杖を大きく振り上げ、詠唱の声を張り上げる。
「カイ様、私が瘴気を抑えます! どんなに強固な闇でも、私の祈りと魔力の光が貴方を守り抜きます!」
リリアナの詠唱と共に杖先から放たれた蒼光が、触手状の瘴気を一度に両断したかのように炸裂し、闇裂きの影の攻撃を寸断した。だが、その力も長くは続かず、触手は再び結晶の残滓へと吸い込まれるかのように集結した。
「リリアナ様、ありがとう!」
カイは剣を構えながら深く一礼し、次の一撃に備えた。リリアナは杖を抱きしめるようにして微笑み、再び魔力を注ぎ続ける。彼女の蒼光は、闇裂きの影が示す最強の攻撃を一瞬だけ止めるほどの力を持っている。
■ ■ ■
マギー視点
封印の最深部で繰り広げられる戦いを目の当たりにしたマギーは、巻物を手に祈りの言葉を唱えながら呪文を紡いでいた。司祭のように静かな声で詠唱を続け、その魔法の効果は仲間たちの攻撃を強化し、闇裂きの影の瘴気を弱める波動となって仲間たちに届いている。
「カイ様、ガロン様、リリアナ様、ジーク様……皆の力を一つに結集してください!」
マギーの声が響き渡ると、闇裂きの影の周囲にあった瘴気がちらつき、一瞬だけ形を崩した。その隙にガロンは剣を振り下ろし、影を真っ二つに斬り裂いたかのように大きな効果音が鳴り響いた。
「やったか……?」
マギーは息を呑みつつ巻物をしまい込み、動揺しつつも次なる展開に備えた。その顔には勝利のほのかな兆しが浮かんでいた。
■ ■ ■
ガロン視点
マギーの詠唱に合わせて、ガロンは剣を強く振り抜いた。剣先から放たれた硬質な蒼光が闇裂きの影を捉え、闇裂きの影は一瞬たゆたったかのように見えた。しかし、影から漏れ出る瘴気の渦が再び剣を濡らし、影は再生し始めている。
「まだ終わらんか……だが、我らの力を侮るな!」
ガロンは剣を腰に収め、一度深く息を吸い込んだ。その間に仲間たちの姿を見渡し、リリアナの魔力が徐々に回復しているのを感じ取った。ガロンは深く頷き、再び剣を抜き放った。
「カイ、お前が乗り越えるその試練、俺が背中を守る!」
ガロンは大きく叫び、剣を横に振り抜いた。その刃は空気を切り裂き、闇裂きの影の横腹を抉ったかのように深い傷を刻んだ。影は呻きながら虜囚のように倒れ込み、その瘴気は底が抜けたかのように後退していく。
■ ■ ■
ジーク視点
ガロンの一撃とマギーの呪文によって闇裂きの影が膝をついた瞬間、ジークは迷うことなく短弓を構え、一気に引き絞り、闇裂きの影の眼を狙って放った矢を撃ち放った。その矢は闇裂きの影の瞳を貫き、影は最後の呻きを上げて砕け散った。瘴気の渦は消え去り、結晶体の残骸が床に沈んでいく。
「これにて“魂の試練”は終了だ。カイが真なる力を手にした瞬間を目撃したぞ……」
ジークは息を整えながら短弓を背に戻し、そのまま仲間たちの元へ駆け寄った。その顔にはまだ興奮が残っているが、それ以上にカイの覚悟とルクスの力を目の当たりにした喜びが浮かんでいた。
■ ■ ■
――カイ視点
闇裂きの影が砕け散った瞬間、カイは剣を収め、深く胸の内で拳を握りしめた。剣先からは瘴気を完全に浄化した蒼光が溢れ、まるで聖なる剣が昇華したかのように強く輝いている。その光は鋼のように硬質でありながら、どこか温かさを帯びている。カイは剣を掲げて大きく深呼吸を一つし、仲間たちを見渡した。
「見たか、これがルクスの真なる力だ……俺の魂を燃やし尽くして、仲間の想いを乗せるこの剣は、どんな絶望も討ち滅ぼす」
カイの声は震えるほどの熱意と確信を帯びており、その言葉が仲間たちの胸に深く響いた。ガロンは剣を鞘に収めたまま深く頷き、リリアナは杖を抱えながら優しく微笑んだ。マギーは巻物をたたみながら目を輝かせ、ジークは短弓を下げたまま拳を握り締めた。セレスティアはその場に崩れるように膝をつき、自らの祈りが真なる力の開放を導いたことに感謝の涙を流している。
「皆、お前たちのおかげでここまで来られた。この力を持って、明日、魔王アズラエルの本陣へ最後の一撃を放とう」
カイは剣を肩に担ぎ、仲間たちを見つめながら再び決意を口にした。その揺るぎない覚悟は、夜明けの光と共に彼らを包み込み、暗い夜を明るく照らし出すかのようだった。
こうして、「ルクスの真なる力」の章は、試練を乗り越えたカイが剣の真の力を解放し、仲間たちと共に魔王本陣へ向かう覚悟を新たにする場面で幕を閉じた。次なる章では、魔王アズラエルを目の前にして、一行の最終決戦が始まる――。
27話終わり
お読みいただきありがとうございます。
よろしければ、下の☆☆☆☆☆から評価を入れていただけると大変励みになります!
他にもたくさんの作品を投稿していますので見て頂けると嬉しいです
https://mypage.syosetu.com/2892099/




