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24話 封印の試練

――カイ視点


神殿の奥にある巨大な扉を開いた瞬間、カイは一瞬目を閉じた。湿った石の匂いと、古代からの魔力が混ざり合った空気が呼吸を圧迫し、胸の内をひんやりと満たす。扉の向こうには、崩れかけた石の祭壇と、その周囲に刻まれた無数の紋様が暗闇の中でぼんやりと浮かび上がっていた。リリアナが杖先で魔力の光を照らすと、淡い蒼光が壁に反射し、封印の間と呼ばれる空間はまるで息を潜めるかのような静寂に包まれた。


「ここが封印の間……」

カイは小さく呟き、剣を背に担いだまま一歩を踏み出した。ルクスの刃先から伝わる冷たい鼓動は、まるで今から始まる試練への招待状のように強く打ち鳴らされる。その鼓動を感じ取るたびに、カイの胸の奥底には一抹の不安と、しかしそれ以上の覚悟が渦巻いていた。


「カイ様、魔力がわずかに乱れているわ。封印の力がまだここに生きている証拠ね」

リリアナは杖を高く掲げ、魔力を巡らせながら声をかけた。その瞳には柔らかな光が宿り、封印の間に漂う瘴気を浄化しようとする意思が強く感じられる。カイはリリアナに向かい深呼吸を返しつつ、剣の柄を鞘から引き抜いた。


「わかっている。行こう、リリアナ。俺はこの剣と共に、封印を打ち破る」

カイは低く答え、リリアナは微かにうなずいた。仲間たちはそれぞれの位置に構えており、ガロンは剣を構え、マギーは巻物を広げ、ジークは短弓を肩に掛け、セレスティアは祭壇の前で祈りを続けている。カイは軽く頷き、祭壇へ向けて歩を進めた。


■   ■   ■


リリアナ視点


カイの背中を見守りながら、リリアナは静かに詠唱の続きを紡いでいた。封印の間には古代の符号と瘴気の影が渦巻き、魔力を吸い込むかのように重く、冷たく押し付ける。リリアナはその瘴気の波動を感じ取りつつ、杖先から放たれる蒼光を強めた。その光が壁の模様や床の紋様に触れるたび、わずかな振動が走り、封印の結界はかすかに揺らいだ。


「カイ様、瘴気が強まっています。封印に飲み込まれないよう、常に魔力で周囲を浄化し続けて」

リリアナは小声で囁きながら、目を閉じて魔力を集中させた。すると、杖先から放たれた光はまるで導きのように封印の紋様をなぞり、その縁を浄化していく。だが、封印の闇は深く、その力は容易には崩れない。リリアナは胸の奥で祈りを新たにし、カイが前に進むたびに魔力を注ぎ続ける覚悟を固めていた。


■   ■   ■


ガロン視点


ガロンは剣をしっかりと握りしめ、祭壇の手前で佇んでいた。その背には、いくつもの傷が刻まれているが、その瞳は揺るがない意志で輝いていた。封印の紋様を見つめながら、ガロンは奥底に潜む守護者の存在を感じ取り、身構える。


「俺たちをここまで導いたメンバーを、一人も欠けさせるわけにはいかない」

ガロンはつぶやき、剣の鍔を軽く叩いた。その音は周囲の静寂に反響し、まるで封印を解放するための合図のように響き渡った。ガロンは剣を掲げ、封印の間の奥に潜むであろう守護者の動きを待ち構えた。


「カイ、お前の背中は俺が守る。行け!」

ガロンは低く叫び、カイの背中を後押しする。カイは大きく息を吸い込み、剣を祭壇に振り下ろした。


■   ■   ■


マギー視点


マギーは巻物を胸に抱え、壁に刻まれた古代文字を再確認していた。その文字は封印の細かな手順と、もし試練を乗り越えられなかった場合の救済措置が記されている貴重な情報だ。マギーは慎重に一行の配置を確認しながら、仲間たちが封印の間でどんな危険に直面しても即座に対処できるよう、準備を整えた。


「リリアナ様の浄化魔法が切れる前に、必ず封印を崩せるように数を数えて……」

マギーは巻物を畳み、 小瓶から瘴気抑制の薬液を取り出した。薬液を手の甲に少量落とし、その気配が漏れると一瞬だけ紫色に染まった。マギーは小さく息を吐き、肘に薬液を塗り込んで瘴気に対する耐性を強化した。再び巻物をポーチにしまい込み、目を閉じて仲間たちの行方を見守る。


■   ■   ■


ジーク視点


封印の間の入口付近で短弓を構えるジークは、岩壁の影を警戒しながら息を潜めていた。試練の間に潜む幻影や瘴気の魔物を見逃さぬよう、常に警戒を怠らない。だが、ジークはそれだけではない。彼の目には、封印の間で仲間たちがどのような戦いを繰り広げているかを見届け、必要があれば駆けつける覚悟が映し出されている。


「何が起ころうと、俺はここで待つ。カイが助けを求めるその瞬間まで」

ジークは短く胸を張り、的確な射撃で仲間たちをサポートできるように矢を一本一本確認した。暗闇の中に潜む影が、小さく動くたびに矢の先端が微かに光を反射し、狙いを定めようとするジークの技量を感じさせた。


■   ■   ■


――カイ視点


祭壇の中央に立つカイは、剣を深く握りしめ、「神よ、我が剣に力を与えたまえ」と心の中で祈りを捧げた。そのとき、封印の紋様が震え、剣先に宿る蒼い光が一段と強く輝き出した。カイは目を開くと、祭壇の奥に立つ巨大な石像がゆっくりと動き出すのを感じた。その石像はかつて神殿を守護していた「神殿の守護者」、レオンハルト騎士団長の像だった。全身を覆う甲冑や剣の装飾は風化の影響を受けながらも、その威圧感は薄れていない。


「封印の守護者……レオンハルトか」

カイは呟き、剣先を構え直した。リリアナが魔力の光を注ぎ込み、ガロンが剣を構え、マギーは巻物を握り締め、ジークは短弓を肩に浮かべた。セレスティアは祭壇の前で最後の祈りを捧げ、光の輪が石像の周囲を包み込んでいる。腐食した瞳の部分からわずかに紅く光が漏れ出し、やがて像全体が動き出した。その甲冑の軋む音が、封印の間の静寂を切り裂いた。


「我が名はレオンハルト。この神殿を死守する者なり。来る者に試練を与え、その覚悟を計るのが役目。カイ――お前の剣は確かに力を持つ。されど、その先にある覚悟はどうだ?」

レオンハルト騎士団長の像が低く唸り声を漏らしながら問いかける。カイはその問いに応えるように剣を一閃し、石像に向かって突進した。石先が剣を受け止め、火花が散る。鋼の衝撃がカイの腕に伝わり、その重さはまるで鎧をまとった騎士との真剣勝負を彷彿とさせた。


「俺の覚悟は、仲間を守り、この世界を救うことにある!」

カイの声が響き渡り、その一言に応じるようにレオンハルト像は一歩踏み出し、剣を抜いて斬りかかってきた。その刃先は荒古の魔力を帯び、瘴気の影すら切り裂く勢いがあった。カイは馬上の勘を応用するように体をひねり、剣を巧みに交わす。鋭い金属音と共に、二人の剣が幾度も打ち合う。


「お前の剣技は優秀だ。しかし、試練は技量だけでは越えられぬ。お前の心を試す!」

レオンハルトの像が言い放ち、剣を地面に突き立てると、封印紋様がさらに光を帯び始めた。地面が振動し、無数の杖や剣の幻影が空間に浮かび上がる。カイは剣を地面に逆さに突き立て、剣の柄に両手を添えて杖や剣の幻影を斬り払った。幻影は消え去ったかに見えたが、霧の中から幼い頃の母の幻影、そして師匠マークスの幻影が次々に現れた。


「なぜ自分がここに立つのか……それが理解できぬのか?」

母の幻影が静かに問いかけ、カイはその問いに応えるかのように剣を握り直した。


「俺は……弱き者を守りたい。仲間の笑顔を失いたくないと願っている」

カイは低く答え、師匠の幻影が頷いたかのように微かに笑う。その瞬間、封印の紋様が再び揺らぎ、レオンハルト像は鋭い剣を振り下ろした。カイは剣をひねりながらその斬撃を受け流し、剣同士がぶつかり合う火花の中で自らの決意を揺るぎないものとして示した。


■   ■   ■


リリアナ視点


リリアナは杖を抱えたまま固唾を飲んで見守っていた。カイがレオンハルト像と真正面で剣を交える様子に、リリアナの胸には緊張と感動が交錯している。魔力の浄化を止めるわけにはいかないため、杖から放たれる蒼光を封印紋様に向けて送り続けた。かすかな魔力の波動が、封印の結界を瞬時に緩め、カイにわずかな隙を与えた。リリアナはその狭間を狙って祈りを込め、魔力の粒子を空気中に舞わせる。その粒子は幼い母の幻影を揺らし、カイが迷うことなく師匠の声に従って剣を振るう力となった。


「カイ様、己の心を信じて! 私はあなたを信じています!」

リリアナは詠唱に全身を預けながら叫び、杖先から放たれた魔法の光が空間を貫いた。その光はカイの背中を照らし、レオンハルト像の力をわずかに削ぐ効果をもたらした。リリアナは目を閉じ、さらに深い祈りを捧げる。その祈りの声は封印の結界に届き、ようやく封印が完全に崩れ去る一歩手前の段階へと導いたのだった。


■   ■   ■


マギー視点


マギーは祭壇脇から戦況を見守りながら、巻物を何度も確認していた。封印紋様が崩壊する瞬間を逃すわけにはいかないため、必要な呪文の詠唱タイミングと魔力の注入量を正確に判断しなければならなかった。マギーは枯れた声で古代文字を読み上げ、霧がかった空間に向かって呪文を唱えた。


「封印の紋様よ、力を解き放て。光の刃を導き、闇を切り裂くがよい」

呪文を終えると同時に、巻物から小さな護符を取り出してカイの剣に向かって投げつけた。護符は剣に吸い込まれるようにくっつき、ルクスの瘴気を一時的に中和する効果を発揮した。マギーは胸の奥で安堵しつつ、次の行動に備えて目を光らせている。


「これでルクスの力が暴走するのを最小限に抑えられるはず……さあ、あの像が崩れれば、次は魔王本陣への鍵が手に入るはずよ」

マギーは巻物をポーチにしまい込むと、仲間たちの動向を注意深く見守った。


■   ■   ■


ガロン視点


カイがレオンハルト像と激しく剣を交わしている間、ガロンは切り札として待機していた。像が刃を振るうたびに大地が震え、瘴気の影が巻き上がる。そのたびにガロンは剣を構え、必要ならば剣先で瘴気を受け止める覚悟で立ち尽くしていた。だが、封印の間が崩れかける瞬間、像が最後の一撃を振り下ろそうとしたとき、ガロンはその隙を見逃さなかった。


「今だ!」

ガロンは一歩前に踏み出し、剣を振り上げた。その剣先が像の甲冑に突き刺さると、雑音のように崩れる音と共に像は粉々に砕け散った。ガロンが力強く剣をひねると、その瞬間、封印紋様が一斉に光を放ち、瘴気の残滓を一掃した。


「封印、完全に崩壊した!」

ガロンは剣を地面に突き立て、胸の内で深く息を吐いた。剣の鼓動は一段と強くなり、まるで次なる戦いへの合図を送るように高鳴っている。ガロンは胸を張りながら仲間のもとへ駆け寄り、その表情には深い安堵と、これから迎える大いなる決戦への覚悟が交錯していた。


■   ■   ■


――カイ視点


封印の像が砕け散ると同時に、神殿内の天井が震え、石の破片が降り注いだ。カイは剣を鞘に収め、リリアナの元へ駆け寄った。リリアナは杖から放たれる光を弱めながらも微笑み、カイに小さくうなずいた。その先には、祭壇の奥に隠されていた古代の扉がゆっくりと開かれている。扉の向こうには漆黒の影が広がり、その中心には漆黒のクリスタルが巨大な存在感を放っていた。


「このクリスタルこそが、魔王本陣への鍵……だろうか?」

カイは扉の向こうを見据え、古代文字が刻まれたクリスタルの周囲には無数の線が光を帯びていた。その光はゆっくりと波紋を描き、周囲の空間を浄化しながらも妖しく揺らめいている。カイは剣先をそっとクリスタルに触れようとしたが、リリアナが手を伸ばして制した。


「カイ様、慎重に。これは魔王本陣への扉を開くための焦点となる『黒き宝玉』。この力を制御しなければ、逆に瘴気に飲まれてしまうかもしれません」

リリアナの言葉に、カイは剣を収めて深く頭を下げた。その視線は盟友を信頼しつつも、自分の中にある恐れと覚悟を見つめ直しているかのようだった。


「わかっている、リリアナ。お前と共に、この力を制御してみせる」

カイは静かに答え、リリアナは杖をもう一度掲げた。仲間たちは祭壇の周囲に輪を作り、セレスティアは祈りを紡ぎ、マギーは巻物を膝に置いて古代文字を読み返す。ガロンは剣を抜いたまま立ち、その瞳には決戦への覚悟が宿っている。


「では、行くぞ。皆の想いを、この黒き宝玉に託すんだ」

カイは剣に手をかけ、リリアナとともに黒き宝玉へと歩を進めた。その先には、魔王本陣の扉を開く鍵となる試練が待ち受けている。カイは剣を高く掲げ、一本の光となって歩き出した。そして仲間たちはその背中を見守りながら、次なる戦いへの足跡を刻むために共に進んでいった。


こうして、「封印の試練」の章は、守護者を打ち倒し、封印を完全に解放し、黒き宝玉を手にするという大きな成果を達成した。しかし、その先にはさらに強大な魔王本陣が控えており、カイと仲間たちは新たな覚悟を胸に未来へと歩みを進めるのだった。


24話終わり

お読みいただきありがとうございます。

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他にもたくさんの作品を投稿していますので見て頂けると嬉しいです

https://mypage.syosetu.com/2892099/

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