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23話 封印の神殿へ

――カイ視点


朝靄が薄く霞む草原を越え、ついに一行は長年封印を守り続けてきたという「封印の神殿」の前に到達した。神殿は古代の石造りの大門がそびえ立ち、その表面には無数の紋様や古代文字が刻まれている。門前には巨石の柱が並び、かつては神聖な儀式が執り行われたことを物語る荘厳な雰囲気が漂っていた。天を仰ぐように伸びる参道の石畳には、苔が淡く緑を湛え、足元には崩れかけた古い灯籠がわずかに残っている。目の前に立ちはだかる神殿の扉は、重厚な鉄製の飾金具で補強されているが、どこか長い歳月に風化した感が強く、そこに触れるだけで歴史の重みを感じさせる。


「これが……封印の神殿か」

カイは剣を肩に担ぎ、深い息を吸い込んで目を閉じた。遠征の旅路で幾多の試練を乗り越え、仲間たちと共に辿り着いたこの場所には、魔王を封じた古の力が眠るという。カイは剣先を地面に突き立て、その冷たい感触を確かめながら心を奮い立たせる。背後ではガロンが剣を抜き、戒めを込めるかのように握り直した。リリアナは杖を高く掲げ、魔力を巡らせながら周囲に異変がないか慎重に見渡している。マギーは手にした巻物を読み返し、神殿の構造や儀式の手順を確認している。ジークは短弓を肩に掛けつつ、草むらの影からの奇襲に備えて身を低くしている。セレスティアは祭壇の前で静かに祈りを捧げる姿勢のまま、新たな力の到来を告げるかのように目を閉じている。


■   ■   ■


リリアナ視点


「カイ様、魔力の気配が強まっています。この神殿全体が、かつての結界を保っているようです」

リリアナは杖を地面に押し当て、小さな円を描くように詠唱を始めた。杖先から放たれる蒼い光が参道の苔むした石畳を照らし、その光が神殿の扉や柱に反射して淡い光芒を作り出す。霧の向こうから聞こえてくる風の音は静かながらも、どこか神聖な祈りの囁きに似た響きを帯びていた。リリアナの魔力が参道全体を巡り、神殿の結界にわずかに触れるたびに微かな反発が伝わってくる。その反発は、封印の力が依然として生きている証でもある。


「リリアナ、どうだ?」

カイが隣で声をかけると、リリアナは頷き、杖を振って光の結界を強調した。


「このままでは外部からの侵入を許さない結界が張られています。カイ様とセレスティア様が中心になって儀式を行わなければ、門は決して開かれません」

リリアナの声はかすかでありながらも確かな断言を含んでいる。カイは剣を握る手を緩め、ゆっくりと剣先を地面から引き抜いた。その瞬間、剣を通じて伝わるルクスの鼓動がわずかに変化し、より強く、より静謐な脈動を示した。


「わかった。俺は準備をする。リリアナ、その間に仲間たちを配置してくれ。マギー、ガロン、ジークと協力して、周囲の警備を固めるんだ」

カイは仲間たちに指示を飛ばし、リリアナは杖を抱えて微笑みながら頷いた。マギーは巻物を手に参道の左右を確認し、ガロンは剣を構えて聖域の外側を警戒した。ジークは草むらの中で身を潜めながら、いざというときに備えて矢を番えた。


■   ■   ■


マギー視点


マギーは巻物を取り出し、古代文字で記された儀式の手順と封印の解除方法を再確認していた。これまでの旅路で得た情報から、封印を解くためには聖女セレスティアの祈りと、カイの剣が共鳴し合う瞬間を作り出す必要があると分かっている。そのために必要な魔力の流れを正確に導くには、リリアナの光の結界とマギー自身が準備した護符群が重要な役割を果たす。


「リリアナ様の力と私の護符で結界を弱め、セレスティア様の祈りに合わせてカイ様が剣を掲げるんですね」

マギーは静かに巻物をたたみ、護符を一枚ずつ縫い付けた小袋を作った。それを腰のポーチにしまい込み、ガロンとジークの位置を確認した。ガロンは大きな剣を構え、参道の入口を見つめている。ジークは影の向こうで矢を番え、いつでも飛び出せるように身構えている。マギーは深く息を吸い込み、自分に課された役割の重みを改めて感じた。


「よし、準備は整った。後はカイ様とセレスティア様の合図を待つだけね」

マギーは近くの石柱に背を寄せ、静かに祈りを唱え始めた。胸の奥にある不安を抑えつつ、仲間たちの無事を願いながら、その魔力を護符に宿らせた。


■   ■   ■


ガロン視点


参道の入口で剣を構えながら、ガロンは遠方に見える神殿の扉を睨んでいた。石柱に刻まれた紋様は、かつて魔王を封じるために設えられた封印の呪文の一部であり、その力がいまだに働いている証拠だ。ガロンは剣を軽く振りかざし、その刃先を冷たい空気にさらす。剣身にはルクスの瘴気が依然として帯びており、カイが剣を抜き放ったときにのみ完全な力を発揮する。


「カイはあいつの剣と共に封印を解く。俺はここで外部の警戒を続けるだけだ。仲間を守る盾として、ここは譲れない」

ガロンは拳を握り締め、剣先をわずかに地面に突き立てた。周囲には小鳥の鳴き声と風に揺れる草木の音だけが響き、静寂の中に張り詰めた緊張感が漂っている。ガロンは遠くで始まりつつある儀式の兆候を感じ取り、剣の柄に手を移した。その瞬間、剣からかすかに蒼い光が漏れ、瘴気の影に揺らめく魔力の痕跡を感じた。


「どんな敵が来ても、この剣で防ぎきってみせる……」

ガロンは自分に言い聞かせるように呟き、剣をゆっくりと握り直した。剣先に込められた決意が、まるで仲間たちの祈りを背負っているように感じられた。そのとき、リリアナの詠唱が微かに聞こえ、彼の心臓は強く鼓動した。


■   ■   ■


セレスティア視点


封印の祭壇の前にひざまずいたセレスティアは、両手を胸の前で組み合わせ、古代の祈りの言葉を紡いでいた。薄暗い神殿内部は、外の光をほとんど遮断し、かすかに揺れる蝋燭の炎だけが影を作り出している。その影は、まるで封印の力を守る守護者のように壁を這い回り、神殿全体に厳粛な雰囲気をもたらしている。


「古の光よ、今一度封印の結界を解放し、魔王アズラエルの封印を解き放つ者に加護を与えたまえ」

セレスティアの詠唱が静かに響く中、祭壇に置かれた古代の燭台から紫の光が漏れ出した。その光はゆっくりと広がり、周囲の封印紋様を浮かび上がらせる。セレスティアの顔に浮かぶ表情は穏やかで、その瞳には深い慈悲と覚悟が宿っている。封印の力を再び呼び起こすには、カイの剣とセレスティアの祈りが一致する必要があり、その瞬間を迎えようとしている。


「カイ様、あなたの剣はルクスの呪いを受けながらも、ここに宿る光を導く鍵となります。恐れずに、刃を掲げなさい」

セレスティアは立ち上がり、静かに拳を握りしめた。その手のひらからは漆黒の瘴気すら吸収するかのように淡い光が放たれ、祭壇全体を照らし出す。彼女は深く息を吸い込み、祈りの声をさらに強めた。


「我が光よ、大地を穿つ導きとなれ。封印を解き放ち、真の力を授け給え」

その言葉が静寂を切り裂き、祭壇の床に刻まれた紋様が激しく輝き始めた。セレスティアはその光に全てを委ねるように目を閉じ、深い集中によって自らの命を神殿の封印に捧げていた。


■   ■   ■


――カイ視点


祭壇の前に立つセレスティアの祈りが最高潮に達した瞬間、カイは杖を握るリリアナの隣で深く息を吸い込んだ。そして、目の前に置かれた封印の石版に向かって剣を掲げた。ルクスの冷たい鼓動が強く脈打ち、その鼓動はまるで封印の力を揺り動かすかのように共鳴している。カイは両手で剣の柄をしっかりと握り、剣先を天へと向ける。その刃先からは瘴気を浄化する蒼い光が溢れ出し、神殿内部の暗闇を切り裂くかのように照らし出した。


「今だ、カイ! 剣を天高く掲げ、封印を断ち切るのです!」

セレスティアの声が響き、カイは小さくうなずいて剣を強く振り下ろした。その刃は封印の石版を貫き、その瞬間、激しい閃光が神殿全体を包み込んだ。剣先から放たれた蒼光は封印の紋様に吸い込まれるように広がり、瘴気の結界をまるで波紋のように崩していった。神殿内部に眠る古の力が目覚め、紫と蒼の光が渦を巻きながら溢れ出す。


「封印解放……!」

マギーが驚きの声を上げ、ガロンは剣を鞘に収めながら盾で身体を守った。ジークは剣を構え直し、リリアナは杖を掲げて浄化の光を放ち続けた。セレスティアは祈りの姿勢のまま崩れ落ちるように膝をつき、その額に浮かぶ汗を拭いながら深い息を吐いた。


「やった……!」

カイは剣先を地面に突き立て、膝を曲げて深く息をついた。封印の石版が砕け散り、瘴気を含んだ結界はまるで断ち切られた裂け目から空へと逃げ出すかのように霧散した。その瞬間、神殿内部に眠っていた古代の魔力が解放され、カイの剣を一層強く輝かせた。


「この力を……この力を持って、魔王アズラエルを討ち果たすのだ!」

カイは力強く叫び、剣を高々と掲げた。その姿はまるで剣神のように荘厳であり、仲間たちは目を見開いて見つめた。魔王討伐のための決意とその一撃のために封印の力を手にした瞬間、カイの心には新たな覚悟が刻まれていた。


こうして、「封印の神殿へ」の章は、仲間の祈りと剣の共鳴によって封印が解かれ、魔王討伐への道筋が一段と明確になる場面で幕を閉じた。カイと仲間たちは、さらなる試練を経て手にしたこの力を胸に、ついに魔王アズラエル本陣へ向けて歩みを進めることとなる――。


23話終わり

お読みいただきありがとうございます。

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他にもたくさんの作品を投稿していますので見て頂けると嬉しいです

https://mypage.syosetu.com/2892099/

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