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20話 運命の旅の再出発

――カイ視点


暗闇の試練を乗り越えたカイは、剣を深く胸に押し当てたまま、洞窟の奥で新たなる光が差し込むのを感じた。耳を澄ませば、水滴の余韻と共に仲間たちの穏やかな息遣いが響き渡る。長かった試練の廊を超えた先には、僅かに祭壇のような石台があり、その周囲には淡い輝きの結界が張られていた。カイは慎重に一歩を踏み出し、ルクスの冷たい鼓動を胸に刻みながら祭壇に近づく。そこには以前、盟友たちと共に誓いを交わした聖女セレスティアが静かに祈りを奉げていた。彼女の周囲にはかすかな聖光が揺れ、瘴気を吸い取って浄化するかのように柔らかく輝いている。


「カイ様、お疲れ様でした。あなたの剣と仲間たちの絆が、ついにこの結界を突破しましたね」

セレスティアの声は柔らかく、それでいて確かな力を秘めていた。カイは深く頭を下げ、剣を祭壇の前に置いた。


「聖女様、あなたの祈りがあったからこそ、俺たちはここまで来られました。ここを抜ければ、魔王討伐への道はさらに確かなものになると信じています」

カイは胸に溜まる想いを言葉に乗せて告げた。その言葉に応えるように、セレスティアは微笑みを浮かべ、手を翳して光の結界を整えた。まるで新たな祝福を授けるかのように、淡い光がカイの体内に流れ込む感覚がした。


「さあ、これで準備は整いました。行くべき道は一つ。魔王アズラエルの本陣へ向かいましょう」

セレスティアは穏やかに言い放つと、カイの肩に優しく手を置いた。その温かなぬくもりが、カイの胸に深い安心と決意を刻みつけた。カイは剣を肩に担ぎ直し、仲間たちと共に祭壇を後にした。廊を抜けた先には、洞窟の出口を照らす朝陽のように、まばゆい白光が待っていた。それは新たな旅立ちの象徴であり、苦難を越えた者のみが享受できる希望の光だった。


■   ■   ■


――リリアナ視点


カイの後ろについて洞窟の出口へ向かうリリアナは、杖を抱えた手に微かな震えを感じていた。長い洞窟の試練を通じて、彼女自身も魔力を使い果たしつつあったが、それでも聖女セレスティアから授かった聖なる力のおかげで、今の彼女は疲れを癒しながらも穏やかな心を保っていた。朝陽が差し込む瞬間、リリアナは剣を背負ったカイの背中を見つめた。その背には幾度も血を流しながらも揺るがぬ決意が宿っている。


「カイ様、ここからは私に任せてください。瘴気が薄れ始めていますが、道中にはまだ小さな魔物の瘴気が残る場所があります。そちらを浄化して、皆が安全に進めるように私は祈り続けます」

リリアナは静かに祈りの言葉を紡ぎ、杖から淡い蒼光を再び放った。その光は陽光と混ざり合い、小さな光の粒となって辺りを舞う。その粒はリリアナの魔力が疲弊しないように節約しつつも、必要最低限の魔力で仲間を守る力として機能する。カイはリリアナの隣に歩み寄り、手を軽く握った。


「ありがとう、リリアナ。俺は剣を振るう。その間、頼む」

カイの言葉に、リリアナは深く頷き、光の輪を揺らしながら洞窟の出口へ導いた。その先には崖にかかるつり橋があり、橋の向こう側では遥か遠くの森が朝靄に包まれている。小鳥のさえずりと草木の揺れる音が、リリアナの心に平安を与えた。彼女は剣士の横顔を見つめ、胸の奥で誓いを新たにした。


■   ■   ■


――マギー視点


マギーは地図を軽く揺らしながら、洞窟を抜けた先の地形を頭に入れ直していた。洞窟の試練を通じて取得した聖女の「光の結界」の複写が巻物に挟まれており、それが仲間たちの命を守るためにどれほど役立つかを熟考している。彼女は静かに口を開いた。


「ジーク、ガロン、この先のルートは二手に分かれよう。魔王本陣へ向かうメインルートと、その脇道で瘴気の拠点を封じるルートに分岐する。私はメインルートの補給物資を集めて向かう。後方支援が必要なら、すぐに知らせるわ」

マギーは地図を仲間に向け、鋭い目で剣士たちを見つめた。ジークは短くうなずき、先ほど拾った廃屋の地図を胸にしまい込みながら「了解した」と答えた。ガロンは刃を手入れしつつも、短く息を吐き、冷静にマギーの指示を受け止めている。


マギーは一歩前に出て、櫛の歯のように並ぶ仲間たちに向かい合った。「カイ様、リリアナ様が浄化を続けている間に、私は次の補給地点へ向かいます。ルクスの力も借りながら、瘴気が濃いと言われる村へ向かいましょう。そこで現地の薬草と水を確保すれば、リリアナ様の魔力も長持ちします」


カイは巻物を受け取り、深く頭を下げた。「頼んだぞ、マギー。お前の情報とサポートがあれば、俺たちはさらに強く進める」

マギーは微笑みながら頷き、仲間たちの輪を離れて細い脇道へ歩き出した。その背中に、聖女の癒しの光と仲間たちの信頼が降り注いでいることを感じ取った。


■   ■   ■


――ガロン視点


ガロンは剣を腰に収め、カイに向かって大きくうなずいた。暗い洞窟を抜けた者たちにとって、この光景はまるで祝福そのものだった。だが、魔王本陣はまだ遠い。ガロンは仲間たちを見渡しながら声を掛けた。


「ジーク、お前は瘴気の拠点封じに向かえ。俺はカイ様と共にメインルートを進む。この先、高台から本陣の位置が確認できる地点があるはずだ。そこで行動を決めよう」

ガロンの声は低く響き、ジークは短く返事をすると洞窟の残照へと消えていった。その姿には、任務遂行への真剣な覚悟が滲んでいる。


ガロンはカイの隣に歩み寄り、剣を握り直した。カイもまたガロンの目を見つめ、その瞳には戦友への信頼とともに、まだ見ぬ敵への警戒がにじんでいる。廃れた祠の跡地に立つ仲間たちは、それぞれが胸に抱えた思いを胸に踏み出す準備を整えていた。


「カイ、お前が先導してくれ。俺はお前の背中を守る」

ガロンは剣先を大地に突き立て、静かにうなずいた。カイはルクスを軽く握り締め、剣を前に向ける。二人は互いに視線を交わし、無言の誓いを交わした。


■   ■   ■


――カイ視点


洞窟を抜けて広がる光景は、薄霧に包まれた草原と、その向こうに広がる密林だった。朝靄のせいで視界はぼんやりとしているが、確かに見えるのは高くそびえ立つ山々の稜線と、遥か彼方にうっすらと浮かぶ城壁の尖塔だ。魔王本陣はあの城壁のさらに奥に位置しているはずで、数時間の行程を要する。カイは剣を鞘から抜き、腰に戻しながら深呼吸を繰り返した。仲間の声がかすかに耳に届く。リリアナの穏やかな詠唱、マギーの足音、ガロンの静かな声……。


「行こう、仲間たちを信じて進む時だ」

カイは低く呟き、杖を抱えたリリアナに向かって一礼した。リリアナは静かに微笑み、杖先から新たな光の粒を放った。その光が朝靄を押し返し、先の道を少しずつ明るくしていく。


馬群を先導するカイは、草原の小道を進み始めた。足元には野花が咲き乱れ、小鳥たちが囀りながら舞い上がる。遠くからは川のせせらぎが聞こえ、木々の間を吹き抜ける風が心地よい。だが、カイの胸にはこの先に待ち受ける強大な瘴気と、魔王アズラエルの恐怖が常に付きまとう。剣を軽く握り締め、ルクスの鼓動に再び耳を澄ませる。


「俺は仲間と共に生き抜く。この世界を取り戻すために、どんな困難も乗り越えてみせる」

カイは静かに誓い、その声は揺るぎない決意を帯びていた。仲間たちの姿が揺らぎの中に浮かび上がる。ガロンは剣を携え、マギーは巻物を握りしめ、リリアナは魔力の光を放ちながら、全身でカイの背中を支えている。ジークは瘴気の拠点封じから戻り、再び小道へ合流し、銃器のように研ぎ澄まされた短弓を腰に当てている。セレスティアは遥か後方で祈りを捧げながら、仲間たちが一歩一歩進む姿を見守っている。


馬群が草原を進み、やがて木々の隙間から山道が現れ始める。その山道を進むと、眼下に小さな集落が見えた。そこには補給物資を運ぶ隊商がいて、マギーの指示によって準備が整えられている様子だ。カイは馬を止め、皆の準備が整うまで一呼吸置いた。


「ここで少し休もう。体力を回復してから、魔王本陣へ向けて最後の行程を踏み出す」

カイは仲間たちに声をかけると、馬から降りて軽く腰を伸ばした。その傍らには、リリアナが手作りの包帯を使ってカイの傷を手早く手当てしてくれている。カイはリリアナに目を向け、深い感謝を示した。


「ありがとう、リリアナ。お前の魔力があるから、俺はここまで歩いて来られた」

カイは心からの言葉を口にし、リリアナはその言葉を受け止めて微笑んだ。その光景を見守る仲間たちの瞳には、カイへの信頼と励ましが宿っているのが分かる。


■   ■   ■


――ジーク視点


カイの背中を見送った後、ジークは先ほど封鎖した瘴気の拠点へ戻り、最後の確認を行っていた。その廃屋は既に崩れかけていたが、入り口の隠し通路はしっかりと封印されている。ジークは腰に差した短弓を軽く握り、刃を小刻みに震わせながら深呼吸をした。


「これであの瘴気の拠点は再び魔物の利用を許さないはずだ。仲間たちの背中を預かるには、俺がここを固めておく必要がある」

ジークは静かに呟き、最後に暗号化された地図を巻物にしまい込んだ。その手際は素早く、しかも確実だった。やがて洞窟の出口へと向かう仲間たちの姿が小さく見えた。ジークは胸を張り、短弓を杖に立てかけると、仲間の安否を祈るように目を閉じた。


「皆の想いを胸に、俺はここで守る。奴らの背後を固めるのは、俺の誇りだ」

そう言い聞かせると、ジークは拳を握りしめ、冷たい朝の風に身を委ねた。


■   ■   ■


――カイ視点


小休止を終えた一行は再び馬群を整え、山道へと歩を進めた。木々の合間からは稜線がうかがえ、山々の向こう側には魔王本陣の頂塔が鋭く尖っている。その姿は遠くからでも威圧感を放ち、瘴気の気配が薄い霧としてわずかに立ち上っていた。カイは馬をゆっくりと歩かせながら、剣を腰に納めつつ周囲を見渡した。


「皆、最後の準備を整えろ。あの塔の頂に立つ者こそが、魔王アズラエルだ。俺たちの行く先には、仲間の想いと聖女の祈りを全て託して戦う覚悟がある。恐れずに進むぞ」

カイは馬上から仲間たちに声をかけた。ガロンは剣を握り直し、リリアナは魔力をもう一度自らに纏い、マギーは巻物を確認して新たな補給物資リストを頭に刷り込む。セレスティアは遠くの稜線を見つめ、静かに祈りを捧げ、ジークは短弓を腰に押し当てながら先を見通している。


馬群が山道を一列に進む様子は、まるで一つの巨きな波が岸を打つかのように規律正しい。その裏には、仲間一人ひとりの支えと犠牲がある。死と隣り合わせの旅路であっても、彼らは互いに背中を預け合い、決して離れない。カイは剣を軽く握り締めながら、深く息を吸った。剣先からはルクスの冷たい鼓動が伝わり、その鼓動は鼓膜を震わせるかのように響く。


「この道を抜けた先には、もう他の道はない。俺たちはあの塔を目指し、世界を変える一撃を放つ」

カイの声には揺るぎない覚悟が込められており、その言葉は馬群を通して仲間たちに確かな自信を与えた。遠くの稜線の向こう側に見える塔は、月明かりに照らされた刃物のように鋭く、まるで彼らに最後の挑戦を突きつけるかのように立ちはだかっている。


馬群が山道を抜けて視界が開けると、突然、冷たい瘴気の柱が視界に飛び込んできた。塔の周囲には瘴気の霧が厚く立ち込め、黒い影がうごめくように蠢いている。カイは馬の手綱を強く握り、剣を抜き放った。仲間たちは一斉に武器を構え、刃と魔力を繰り広げる構えをとる。


「いよいよだ……」

カイは低く呟き、剣先から蒼い光を放った。ルクスの鼓動は熱く高鳴り、瘴気の霧を切り裂くかのように周囲に広がった。その瞬間、塔から漏れる暗黒の光が裂けるかのように収束し、魔王本陣が防衛を開始する準備を整えているのが感じられた。鍛えられた騎士団の鳴らす武具の音、瘴気の獣たちの咆哮、魔術師の詠唱……。すべてが混沌となって、戦争の舞台を整えている。


カイは剣を構えながら深く息を吸い込み、仲間たちと目を合わせた。そこには恐怖ではなく、希望に満ちた光が宿っている。彼らは何度も絶望を乗り越えてきた。その全てが、今この瞬間の戦いに繋がっている。カイは強くうなずき、声を張り上げて宣言した。


「皆、行くぞ! 魔王アズラエルを討つために……我らの未来を掴むために!」

その声が山間にこだまして反響し、仲間たちは一斉に咆哮を上げながら前進を開始した。剣と魔力の光が闇を裂き、希望の炎があの塔へと突き進む。カイたちの運命の旅は、いま再び大きく動き出した。


20話終わり

お読みいただきありがとうございます。

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他にもたくさんの作品を投稿していますので見て頂けると嬉しいです

https://mypage.syosetu.com/2892099/

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