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18話 試練の洞窟

――カイ視点


夜明けの光がわずかに洞窟の入口を照らす頃、カイは馬を降りて剣を肩に担ぎ直した。洞窟の入り口は岩の裂け目のように険しく、蒼白い光を漏らすルクスの刃を手にする右腕に、緊張が走る。リリアナ、マギー、ガロン、ジーク、そして聖女セレスティア――仲間たちが一列に並び、互いに頷き合う。ここは「試練の洞窟」と呼ばれ、かつて光の聖女が魔王討伐の鍵を授かった場所と伝えられている。いま、その中へと足を踏み入れようとしていた。


「気をつけろ。洞窟内には瘴気と幻影が混在する。油断すれば心を読まれ、迷い込むことになる」

ガロンは剣を握りしめ、低く声を発した。その声は仲間の背中を押し、カイの鼓動を一層高鳴らせる。カイは深呼吸し、剣先を岩壁に向けた。ルクスの冷たい鼓動が胸の奥で震え、洞窟内の闇に吸い込まれるような錯覚を覚える。


「リリアナ、魔力検知は頼む。瘴気の気配と幻影の層を見極めてくれ」

カイは仲間に指示し、リリアナは杖を掲げて瞑想する。かすかな蒼い光が杖先から漏れ落ち、洞窟の暗がりに揺らめく。リリアナの魔力が染みわたり、虚像と実像を区別する手掛かりを照らし出す。


■   ■   ■


洞窟の奥へと進むにつれ、湿った空気が身体に張り付き、石畳は滑りやすくなっていく。足元の苔を避けながら進むガロンの前に、突然薄暗い空間が広がり、無数の影が壁を這い回るかのようにゆらめいた。カイは剣をかまえて身を屈め、影の中の異変を見極めようと目を凝らす。


「……何かが動いている。セレスティアの声が聞こえるか?」

カイは低く囁き、セレスティアは息を漏らしつつも祈りを続ける。彼女の掌から放たれる光の粒が、影の疾走を遅らせ、瘴気の渦巻きを弱める。しかし、その光は洞窟内のあちこちで反射し、幻影を強調する要因にもなっていた。


「カイ様、洞窟の奥には『鏡の廊』があるはずです。そこでは己の影を相手に戦わねばなりません。気をつけて」

セレスティアの声は弱々しいが真剣で、カイは剣先をさらに研ぎ澄ませる。仲間の心が一つになる瞬間を感じ、剣に手をかけたまま洞窟の暗闇へ踏み込む。


■   ■   ■


――リリアナ視点


リリアナは杖を高く掲げたまま進み、剣士の足元へ魔力の光を注ぎ続ける。洞窟は不思議な構造をしており、現実と幻影が重なり合っている。そのせいで、床に映る自らの影が何度もカイに向かって襲いかかるかのように見える。リリアナは一瞬目を閉じ、「静かに」と心の中で祈りながら、魔力で柔らかな光の渦を描いて影を払いのけた。


「幻影は私の光で突破できる。でも長くは続かないわ。魔力を節約するためにも、早く出口を目指して」

リリアナは仲間にそっと囁き、剣を借りるように歩くカイを見守った。その足取りは決して慌てることなく、しかし確かな意志で進んでいる。足元の影が蠢くたびに、リリアナは光を集中させ、仲間の道を示し続けた。


■   ■   ■


――マギー視点


マギーは巻物を手に洞窟内の地図を確認しながら進んでいた。情報屋としての経験から、洞窟の構造は十字に分かれ、その先に試練の部屋があると推測している。洞窟内には風の音や水滴の音が響き、遠くで何かが呻くような音が聞こえる。マギーは足を止め、魔力で耳を澄ませた。


「何かが近づいてくる。敵か、はたまた幻影か……? でもマギーなら見抜けるはず」

マギーは小瓶から瘴気検知の薬液を少し取り出し、岩壁に垂らすと、薬液は一瞬にして紫色に染まった。その反応を見て、マギーは小さく息を吐き、地図を胸にしまい込んで仲間に近づいた。


「洞窟の真ん中に大きな空間がある。そこには『鏡の廊』が待っている。幻影に惑わされないように、刃と魔力を研ぎ澄ませて」

マギーは囁き、再び巻物を取り出したが、その表情には冷静さがあった。仲間たちが互いに声をかけ合いながら進む中、マギーは先へ向けて足音を響かせた。


■   ■   ■


――ガロン視点


ガロンは一列の最前列で道を切り開いていた。覗き込む暗闇に剣先を向け、仲間の盾となって前進する。時折、岩壁から飛び散る小石が転がり落ち、ガロンの動きを遮るが、彼は剣を振り上げて破片を切り裂きながら進む。


「カイ、この先が怖れの間だ。影に惑わされるな」

ガロンは剣を握りしめながら低く囁き、カイは力強くうなずいた。ガロンの背中を見つめる仲間たちの目は揺るぎない信頼を示し、その信頼がカイの背中を押す。


洞窟の奥深く、高い天井から滴る水滴が小さな波紋を描き、暗闇に落ちる音がリズムを刻む。その音を聞きながら、ガロンは剣を高く掲げ、一歩ずつ確実に前進していった。


■   ■   ■


――カイ視点


ついに「鏡の廊」と呼ばれる大広間にたどり着くと、その中央には巨大な水鏡のような光る液体が張られていた。水面はまるで鏡のように周囲の光を反射しながらゆらゆらと揺れている。まわりの岩壁には無数の文字と紋様が刻まれ、瘴気の気配が渦巻いている。カイは剣を腰に納め、膝を曲げて目を水面に向けた。そこで彼は、自分の影だけでなく、心の奥底に潜む恐怖や後悔が水面に映るのを感じた。


「これは……己の影を相手に戦う試練なのか?」

カイはつぶやき、リリアナが魔力で光を放って水面を照らし出した。その瞬間、水鏡は一瞬にして波を立て、自らの内にあるカイの影を呼び起こした。影は剣を構え、暗い目でカイを睨みつける。カイは剣を手に取り、刃先を影へ向けた。


「……来い」

カイは短くつぶやき、剣を大きく振りかざした。刃が振り下ろされる瞬間、影はカイの動きを完全に模倣し、同じ動きで斬りかかってきた。カイは踏み込んで刃を合わせ、水面に落ちる悲鳴のような波紋が広がる。


瞬間的に、カイは剣の感触を鋭く意識した。影の刃は彼の剣とぶつかり合い、刹那だけ重い衝撃が両腕を襲う。だが、影の刃の速度はやや鈍く、カイはルクスの冷たい鼓動に導かれるように反撃の構えをとった。影は無機質に同じ動きを繰り返し、カイの隙を探るように剣を振るう。カイは一瞬の迷いを見せず、影の剣先を切り落とすように斬りつけた。その瞬間、水鏡は大きく揺れ、影は砕け散るように消え去った。


「これが……おれ自身の恐怖か」

カイは剣を突き刺したまま深く息を吐き、胸の奥に眠る不安と向き合った。剣を抜くと、ルクスの鼓動が一層静かに響き、剣先に淡い蒼光を宿している。カイは再び膝をついて祈りを捧げるように心を鎮め、仲間たちの存在を思い浮かべた。


「おれは仲間を守る。どんな闇も、どんな恐怖も、乗り越えてみせる」

カイは静かに誓い、その言葉を胸に刻んで水面の前を離れた。仲間たちが剣や魔力を携えて待っているその姿を見つめ、カイは強くうなずいた。


――リリアナ視点


リリアナはカイの戦いを見守り、剣の光と影の対峙を感じ取った。ルクスの瘴気に立ち向かうカイの姿に、リリアナは胸を打たれた。自分の魔力もまた、仲間を支える刃となることを改めて感じ、リリアナは小さく口を動かして詠唱を始めた。その魔力は水鏡の奥底へと届き、鏡が再び静かな水面に戻る手助けをした。


「カイ様、よくぞ耐え抜きました。これで次の試練へ進めます」

リリアナの声に合わせ、洞窟内の暗闇が少しずつ薄れ、次の通路へと続く光が差し込んできた。その光はまるで祝福のように揺らめき、仲間たちの顔を照らし出す。


――ガロン視点


ガロンは剣を収め、仲間たちを見渡した。洞窟の試練を乗り越えた彼らの背中には、確かな絆と信頼が刻まれている。ガロンは大きく息を吐き、次の通路へと踏み出す足を整えた。


「カイ、お前の剣が光を照らした。次へ進もう」

ガロンの言葉に、カイは剣を握り直してうなずき、仲間たちと共に前へ歩を進めた。洞窟の奥には、まだ見ぬ試練と希望が待っている。


こうして、「試練の洞窟」を超えたカイたちは、新たな決意を胸に、さらなる冒険へと歩みを進めていった。

お読みいただきありがとうございます。

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他にもたくさんの作品を投稿していますので見て頂けると嬉しいです

https://mypage.syosetu.com/2892099/

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