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14話 仲間の想い

――カイ視点


薄曇りの空が灰色に広がり、遠くの山並みをぼんやりと遠目で捉えられる朝。カイは馬の背で、鋭い秋風に身を晒しながら周囲を見渡していた。昨夜の盗賊団との戦いを経て、一行は小休止を挟み、再び山道を越えようとしている。だが、その疲労はまだ体に残り、瞼の奥には眠気が潜む。しかし、カイの胸中には仲間たちへの想いが渦巻き、その想いこそが彼の足を止めない原動力になっていた。


「仲間たちがいる限り、俺は前へ進める……」

カイは心の中で呟き、わずかに揺れる馬のたてがみに視線を戻した。馬は静かに蹄を鳴らし、柔らかな土の上を慎重に歩いている。カイは馬の穏やかな息づかいを耳にすると、自分も深呼吸をして心を落ち着かせた。


――ガロンは前方を先導し、馬を軽く駆けながら地形を探っている。あの男の背中には、砦と仲間たちを守る強い覚悟が刻まれている。昨夜の戦いでも、ガロンは先頭に立ち、仲間を導いて危険を回避させてくれた。彼の存在が、カイにとっては何よりも頼りになっていた。


――リリアナは杖を手に、馬上から魔力の気配を探り続けている。かつて聖女として人々を救ってきた彼女は、今や仲間として共に戦う。その瞳には優しさと強さが同居しており、カイはその存在がそばにあるだけで、どれほど救われるか計り知れない。


――マギーは走りながら地図を確認し、次に狙う補給ポイントや危険箇所を仲間に知らせてくれる。「情報屋」の肩書きにふさわしい機転の良さと機敏さで、常に一行の先を読んで動いてくれる。カイは何度もマギーの判断に命を救われた。


――ジークは後方の警戒役だ。素早い動きで不意の襲撃を防ぎ、いつでもカイの背中を守る。彼が側にいると、どんなに厳しい状況でも心強く思える。昨夜の峡谷では、その洞察力とダガーさばきで仲間を助けてくれた。


「……ここで少し休むか?」

カイは馬をゆっくりと衰えて横たわる小石の脇に止め、鞍から軽く降りた。脚はまだ震えているが、その震えを止めるためにカイは剣の刃で軽く鞍を叩き、馬に安堵の合図を送った。周囲に木々のざわめきと鳥のさえずりが混ざり、わずかながら静寂が広がっている。


「休息を入れよう。この先の道が険しいことは間違いない。しっかり体力を回復しておかないと、魔術師団の前線基地にたどり着く前に全員倒れてしまうかもしれない」

カイは仲間たちに声をかけ、懐から小さな水筒を取り出して一口含んだ。冷たい水が喉を潤し、わずかだが疲れを和らげる。馬のたてがみに手を伸ばして額の汗をぬぐい取り、その背にそっと頭を預けた。


■   ■   ■


――リリアナ視点


リリアナは馬上の静寂を感じ取り、静かに微笑んだ。杖を地面に突き、その先端で小さく光る魔法陣を描く。彼女の魔力が周囲の空気に溶け込み、小鳥のさえずりがさらに澄んだ音色に変わる。朝靄に包まれる木々は優しく揺れ、まるで世界が彼女の祈りを受け入れてくれたかのように感じた。


「カイ、少し休みましょう」

リリアナは馬上から声をかけ、手のひらに溜めた聖なる光をカイに向けて送った。その光は清浄な風のようにカイを包み込み、彼の心と体をわずかに軽くしてくれた。リリアナ自身も深呼吸をして心を落ち着かせる。仲間たちが安心して先へ進めるように、彼女は常に祈りと魔法で支え続けてきた。


「あなたがいれば、どんな困難も乗り越えられると信じているわ。どうか、私だけでなく、この仲間たちみんなを守って」

リリアナは静かに囁き、杖を馬の鞍に掛けてカイの隣へ歩み寄った。掛けられた優しい手の温もりが、カイの胸に温かな安堵を生じさせる。


リリアナはそのままカイの馬の背に歩み戻り、馬を軽くなでながら静かに微笑んだ。彼女の体にはまだ昨夜の浄化魔法の疲れが残っているが、仲間の安否と旅路の成功を祈る気持ちがそれを超えていた。


■   ■   ■


――マギー視点


マギーは丘の上から一行を見下ろしていた。地図を広げた彼女の指先は、現在地と次の目的地を交差させるように動き、必要な情報を頭の中で整理している。木漏れ日がマギーの赤い髪を照らし、髪はまるで夕焼けを思わせる深紅に輝いている。目元には疲労の色があるものの、その瞳には決意が満ちている。


「ガロン、そちらの位置を教えて。丘の上から見渡して、峡谷の分岐点を確認したいわ」

マギーは斜面に腰を下ろし、指先で地図をなぞりながら声をかけた。ガロンは剣を馬に預け、険しい斜面を駆け上がってきた。彼の甲冑は昨夜の戦いの血痕がまだ乾かず、冷たい風に揺れている。


「ここだ、マギー。その先にある岩壁の下が峡谷の入口だが、いまのところ明確な動きは見られない。どうやら盗賊団との戦いでほとんどの不穏分子は排除されたらしい」

ガロンは地図を受け取り、マギーに示した。マギーはうなずき、次の行動を軽くまとめた。


「了解。この先の魔術師団前線基地までは、あと二日分の行程が必要ね。補給ポイントは峡谷にある小さな集落か、その先にある川辺の農村。どちらも敵の影響下にある可能性が高いから、細心の注意を払わないといけないわ」

マギーはそう言うと、地図をたたんで懐に収めた。袋の中に仕舞い込まれた筆とインク瓶は、必要なときにすぐ情報を書き留められるように準備されている。彼女の役割は、一行の命運を左右する情報を正確に集め、必要なときには即座に共有すること。カイをはじめとする仲間たちは、その情報を信じて行動している。


「次に動くときは、カイたちと合流してからだ。孤立は許されない。みんなで一緒に進むのよ、マギー」

マギーは自分自身に言い聞かせるように呟き、立ち上がった。丘を下りながら、遠くで揺れる馬の姿を目に焼き付けた。仲間たちが安心して進めるように、マギーは自分が持つすべての情報と知識を最大限に生かす覚悟を胸に秘めた。


■   ■   ■


――カイ視点


一行が再び馬を進める頃には、朝霧はある程度晴れ、中腹の木々がはっきりと姿を現し始めていた。目指す魔術師団の前線基地まではまだ険しい道のりが続くが、カイの胸には揺るぎない確信があった。仲間と共にある限り、どんな困難も乗り越えられる――その絆が彼を前へと駆り立てている。


「皆、準備はいいか? この先の道には魔物の残党が潜む可能性がある。マギーの情報を頼りに、チームごとに分かれて警戒を続けるぞ」

カイは馬上から声をかけ、仲間たちは再度整列した。ガロンは剣を腰に差し直し、リリアナは杖を携えたまま馬を進める。ジークはダガーを腰にしのばせ、周囲を見張りながら馬にまたがる。マギーは懐から小さな護符を取り出し、魔力の微かな振動を探知する準備を整えていた。


「了解だ、カイ。俺は左側を警戒する」

ガロンは答え、馬を少し左に誘導した。そのすぐ後ろには数名の槍兵が続き、弓兵がその背後に張り付いている。刃先の冷たい金属光が、緊張感を漂わせている。


「リリアナ、俺は中央を行く。お前は馬上で魔力を放ち、異常の兆しがあればすぐに知らせてくれ」

カイはリリアナに指示を出し、彼女は静かにうなずいて杖を高く掲げた。そして、淡い蒼い光が杖の先から漏れ出し、まるで小さな灯台の灯りのように周囲を照らし始めた。霧の中でもその光は鮮明で、暗闇に潜む敵にとっては警告のように感じられただろう。


「ジーク、後方はお前が頼りだ。盗賊団のような不意打ちがあれば見逃すな」

カイは背中越しにジークに声をかけた。ジークは目をぱちりと瞬かせ、軽くうなずいた。その目には鋭い覚悟と興奮が混ざり合っており、小さな胸元からは戦士としての誇りがにじみ出ている。


「よし、行こう!」

カイは馬を進めながら声を張り上げ、仲間たちは一斉に奮い立った。馬の蹄が地面を叩き、遠くの岩壁に反響する。谷を抜ける風が馬のたてがみを揺らし、草の香りが混ざり合って肺に染み渡る。彼らの目指す前線基地まではまだまだ長い道のりがある――しかし、今のカイには迷いはない。


馬群が峡谷の奥へ進み、視界に古びた橋が現れた。橋を渡った先には小さな集落があり、マギーの情報どおりに補給ポイントが設けられている。川のせせらぎが響き、小鳥たちのさえずりが辺りをにぎわせる。その向こうには、霧の中にうっすらと塔のような建物が姿を現し始めていた。


「魔術師団の前線基地か……」

カイはつぶやき、馬を軽く進めた。塔は高くそびえ、頂上には不穏な瘴気の気配が渦巻いている。仲間たちは息を呑み、カイの指示を待った。遠征はまだ始まったばかり――仲間たちの想いと共に、すべての試練を乗り越えるための旅が、今、続いていくのだった。


14話終わり

お読みいただきありがとうございます。

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他にもたくさんの作品を投稿していますので見て頂けると嬉しいです

https://mypage.syosetu.com/2892099/

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