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第8話 ターゲットはあなた

 翌日の夕方、お通夜の直前になって、その人は現れた。


「紗里ちゃん、ごめんね。遅くなって。

 本当ならわたしだけは昨日すぐにやってきて一緒にいてあげなければならなかったのに」


 最初から涙ぐんだまま、亜紀あきさんはわたしを抱きしめた。

 どうやら、1人旅に出ていて今朝まで知らなかったようだ。旅先から慌てて帰ってきて着替えてすぐにここへ来たらしい。


 亜紀さんは母の末の妹。独身で近所に1人暮らしをしている。短大卒で就職2年目の21歳。

 わたしが小さい頃から、よく家に遊びに来てくれて、年が近いこともあり、唯一親しい親戚である。


 そして、彼女こそがわたしのターゲット。


「亜紀さん、大事なお話があるの。

 わたしの部屋に来てもらってもいいかな?」

 耳元でこっそりそう囁いて、わたしは自分の部屋へと向かった。

 亜紀さんは後からついてきてくれる。


 部屋へ入るとわたしは亜紀さんに抱きついた。


「亜紀さん、お願いがあるの?」

「なにかな?」


 亜紀さんは特に身構えるでもなく普通に返事を返してくれる。


「誘惑してもいい?」

「え、誘惑……」


 さすがにちょっと怖くなったのか、わたしから少し身を引く。


「うん、誘惑しちゃう。

 亜紀さん、お仕事あまりうまくいってないって言ってたよね」

「んー、正直言って向いてないかなぁって

 まぁ、今の仕事がって言うよりお勤めそのものが向いてない気がする」

「辞めちゃっていいよー、お仕事。

 この家で一緒に暮らそうよ。

 家賃とか光熱費とかいらないし、お給金も出せると思う。

 今のお仕事の倍くらいは」

「え、それなんてすごい誘惑!」

「いろいろわたしの考えてるお仕事を手伝ってもらったり、わたしが子供だからできないことをいろいろやってもらうことになるとは思うけど、それほどしんどいことは頼まないと思う。それ以外の時間は好きに使ってくれて構わないよー」

「うわぁ、悪魔のささやきがー」


 もう堕ちる寸前だな。

 もう一声いっておくか。


「家は広いから好きなマンガとかいくらでも買って貯め込んでも構わないよ」


 そう、亜紀さんは今で言うところのマンガオタク。この頃はまだBLとかないけど、きっとそういうのも大好きだと思う。

 チャンスさえあれば、腐りたくてしかたない人なのだ。


「もう悪魔でもなんでもいい。

 魂でもなんでも持っていって!」


 わーい、堕ちたー!


「じゃ、最初のお仕事。

 これが上手く行かないとすべてオジャンだからね」

「うんうん」

「まず、わたしの知らないところで親族会議とか始まりそうになったら必ずわたしに教えること。たとえ、深夜でもね。

 もし学校とか行ってて、わたしがいないときに親族会議が行われようとしたら、反対して開催させないこと。最悪、亜紀さんが出席しなければ成立しないはずだから、それでもいいわ」

「わかったわ」

「そして親族会議ではわたしの意見に賛成すること」

「それは当然ね」


 さて、事前準備完了。

 いつあるかわからないけど、親族会議どんと来い!

ここまで読んでいただいてありがとうございます!


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