第6話 それなりに高いハードル
「だから、後見人決まるまでは法律的には何も手出しできないわけだ。
できるだけ早いタイミングでそちらに向かうけど、どう頑張っても明後日の午後だな、そちらに着くのは。
ただし、あくまでわたしの立場は知り合いの親切な法律に詳しいおっさん。それ以上のことは何もできない」
「来てくれるんですね」
正直それだけでも、とても心強い。
「後見人にノーと言われたらまったく金にはならない仕事だけどな。
ここまで聞いて知らん顔はできんだろ、さすがに人として……」
ありがたいことです。
さすが女性に優しいことで定評のある斎藤のじーさん。
「移動中は電話とかできなくなるから、ここでいろいろ作戦を話しておくぞ」
「はい、お願いします」
携帯電話とかないから本当に不便。
「まず、親族会議の場だけど、そこでキミの意見は法律的には何の意味も持たない」
「意味ないんですか……」
しょんぼりですよ。
法律ってやつ、未成年に厳しすぎませんか?
未成年のことナメてるでしょ。
「あくまで法律的にはな。
だが、普通はその意見をまったく無視できるものではない。
小学校行ってないような幼児ならともかく、この電話のようにちゃんと意見の言える子なら、なおさらだ」
「そうでしょうね」
「これからムチャなことをキミに要求するぞ。
キミが親族会議をキミの望むような形に誘導するんだ。
11歳のキミに何を言ってるんだと思うかもしれないけど、キミと話していればわかる。キミならそれくらいのことはできる」
「わかりました。誘導するんですね」
正直そのくらいのことはできそうな気がする。
これをビジネスと考えれば誘導くらい楽勝だろう。
これまで相手としてきた海千山千の相手と比べて、ビジネス相手としてはまったく歯ごたえなさそうなくらいだ。
「気をつけることは全員一致になるようにすることだ。あくまでこれは多数決じゃないんだ。
最終的に後見人を決めるのは家庭裁判所なんだ。親族全員一致の申し出なら問題なく決まるが、誰か反対者がいるなら思わぬ結果になりかねない」
「全員一致ですか……」
アイツがどう出るかが問題だなぁ。絶対出しゃばって来そうだし。
「そう、めったにない話ではあるが、親族の意見が不一致の場合、家庭裁判所の方で第三者の後見人が用意されることもある。適切な後見人がいないと判断されるわけだな。
そのときはキミの自由な意見ってのは通りにくいだろうな」
そうだ。家庭裁判所による第三者の後見人……前世ではアイツとの事件のせいで、オバさんも変になっちゃって、なんか知らない人がわたしの新しい後見人だとか言って現れて、そして保護施設に入れられて……
いかに、アイツの意見を親族会議で無視させて全員一致となるように運ぶか、その上でアイツ自身にもその決定に賛成させる……それなりにハードル高くない?
メチャ気に食わないけど、アイツにある程度、利があるような話にしないといけないか。
しょせん、この世は利か色か力、このどれかがないと話はすすまないからね。
今夜中にでも相続する資産をあらかじめ調べておかなくちゃ。適当なのがあるといいけど。
他にもいろいろと有益な情報や、親族会議を進める上でのテクニックを教えられて、いったん電話を置いた。
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