第5話 あなただけが頼りなんです
「わたしは大島紗里と申します。今回法律のことでお力をお借りしたくて電話させていただきました」
「大島紗里さんですか。誠に失礼ですが、わたしの名前はどちらからお聞きになりました?」
「はい、以前に法律のことで父から困ったら斎藤弘泰さんに力になってもらえと」
はい、嘘です。でも本当のことを言っても誰にも信用してもらえないからね。
「お父様からですか。お父様のお名前をお聞きしてもよろしいですか?」
「はい、父は大島祥吉と言います。父も友人から名前を聞いたと」
「そのご友人の方の名前はわかりますか?」
それにしても、バカ丁寧だな。あのべらんめぇ口調は年取ってからなんだろうか? 最初からやたら慎重だし……もしや初見お断りだったのかな?
「すみませんが、そこまでは聞いていません」
「そうですか、お父様に聞くことは可能ですか?」
「実はその父からの相続の件でお電話したわけで……」
「これは、誠に失礼いたしました。ですが、当方といたしましても、現在見知らぬ方からの依頼をお受けできる状態ではありませんので、こちらから別の弁護士をご紹介させていただくことも可能ですが……」
まずい、ここで断られると困る。
他の弁護士紹介されてアタリを引ける可能性もないではないが、ここでそういうバクチをしたくない。
まだ未熟かもしれないけど、能力と、そして信用できる斎藤のじーさんに頼みたいのだ。
「齋藤先生しか頼りにできる人がいないんです。
ここで齋藤先生に見捨てられたら、わたしは生きていくことができません」
わたしは泣き声で電話に向かって叫ぶ。正直泣こうと思えばすぐにでも泣ける。電話先なら涙を流す必要もないからもっと楽だ。そしてわたしのその演技を見破れるような男はいなかった。
「……わかったから。
話だけでも聞かせてもらおう」
そして斎藤のじーさんは困ってる女を見捨てられるような人ではいない。嘘だとわかってても女には騙されてくれるだけの器量も持ち合わせてる。まぁスケベではあるけど。簡単に言ってチョロい。少し言葉も砕けたかな?
「ありがとうございます。実は……」
わたしは持てるだけの情報を簡潔に、かつ必要と思われる情報を漏れなく話し続けた。
「ちょっと待ってほしい。
キミは代理の誰かでなく、今日両親を亡くしたばかりの11歳の女の子本人であるってことで間違いないのか?」
「はい、わたしが大島紗里本人で11歳で間違っていません」
「そうか……なかなか理解が追いつかなかった」
さすがにムリがあるとはわたし自身でも思うからしかたない。よく話についてきてくれている。
「だいたい状況は理解できた……と思う。今のキミにとって最優先で重要なのは誰が後見人になるか、という1点だ」
「後見人ですか?」
「あぁ、そうだ。難しい話になるが、キミなら理解できると思って話そう。
法律的に言って、遺言状が見つかったりしない限り。キミがすべて相続できることは間違いない。ただし、法律的には未成年者であるキミには相続を含めた一切の法律行為が行えないんだ。
だから後見人となった人がキミの代わりにそれらをすることになる」
「誰が後見人になるかによっては、結構あくどいこともできちゃうわけですね?」
「そのとおり、逆に人によってはキミの思い通りになんでもできるようにすることも可能なわけだ」
「それならば……」
わたしは思い当たる人を斎藤のじーさんに話した。
「うん、法律的にはその人で問題ない」
「じゃ、親族の話し合いの場に齋藤先生が乗り込んで、そういうふうに決めてくれれば……」
「残念ながらそれができないんだ」
「え?」
「さっき言っただろう、未成年者は一切の法律行為を行えないと。わたしとの契約行為も立派な法律行為だから、後見人が決まるまで、弁護士としてのわたしは何も手出しをできないわけだ」
「えーーーーーーーーーーー!!」
完全に想定外だったよ……
投稿時のミスで最後の数行、「残念ながらそれができないんだ」以降の行が漏れてましたので追加しました。投稿されたこの話を読み返していて、なんか尻切れトンボじゃない? って感じて元原稿と確認したらコピペミス。
申し訳ありませんでした。以後、気をつけます。