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第18話 暴走しました

 それからのわたしは、藤堂くんの夢について、ひたすら考えた。

 自分の考えに集中すると、まわりがまったく見えなくなってしまう。ひたすら怖い顔で押し黙っているらしい。そんな時に話しかけると、とても恐ろしい目で睨まれるから誰も話し掛けれなくなると前世の部下が言っていた。


 わたしの頭の出来は結構スペックが高いと自分でも思うんだけど、残念ながらマルチタスクで動けない。ひたすら1つのことに集中して成し遂げることに関しては他に類を見ないが、複数のことを考え出すとお粗末な結果となる。正直、管理職向けではなかったね。


 だから、たぶんこの日のわたしは、そんな状態だったのだと思う。

 朝、あんな会話の後、急に押し黙ってしまったわたしを見て藤堂くんはどう思ってたんだろう? と翌日になって気付いたが、後の祭りである。


「藤堂くん、大事なお話があります」


 やっと考えがまとまったときは、いつの間にか給食時間になっていたようだ。わたしの給食は……食べ終わっているようだ。まったく覚えてないや。

 藤堂くんも食べ終わる寸前だったようでタイミングがよかった。


「やっと、再始動したようだね。

 考え事してたようだから、怖くて声かけられなかったよ」


 怖い?

 どうやら、この頃からすでに集中してるわたしに話しかけること=怖いことという認識がまわりに定着していたらしい。

 反省してもムダだから、反省はしないけど覚えておこう。


「それは、ごめんね。

 大事な話がしたいんだけどいいかな?」


 藤堂くんは授業が終わればサッカーの練習があるから、まとまった時間がとれるのは、昼休みが一番だ。


「なんだ?」


 まじめなわたしの口調に、藤堂くんは椅子ごとわたしのほうに身体を向けた。


「藤堂くんには、夢を叶えるための才能が眠っていると思う」

「あると思う?」

「うん。それが大前提なんだけど……

 たぶん、今のまま努力を重ねていっても夢を叶えるのは難しいと思うんだ」

「……うん、それで?」


 藤堂くんの表情は喜びから一気に悲嘆へと変わった。


「今のまま、努力を重ねれば、将来、サッカーで有名な高校に入ってそこそこの活躍をして、サッカー部のある会社で頑張って、もし日本にプロサッカーチームができればプロになれるかもしれない。

 日本代表としてワールドカップの予選でそれなりの活躍ができるかもしれない」


 これらが叶うことは前世で知ってる。たぶん、すごく努力はしたんだとは思うけど。そのくらいの能力があることは証明されている。

 わたしが例を上げながら話を進めていくと、藤堂くんの表情は少し明るくなってきたが、あまりえない。


「どう?

 藤堂くんはそれで満足できる?」


 それで満足できるなら、そうなるように応援するのがわたしの役目。

 藤堂くんは少し考えたが、きっぱりと答えを返した。


「うーん、なんかパッとしないなぁ。

 それでも大したものなんだろうけど、それじゃ夢を叶えたって言えない感じだなぁ。

 精一杯頑張った末にそうなら、それはそれでいいんだけど、それを目標にって言うのは違う気がするんだ」


 藤堂くんの答えはノーのようだ。それならばわたしは藤堂くんの夢を叶えるための提案をしよう。


「日本のサッカーは海外と比べて、何十年も遅れてるって聞いてるの。

 たぶん、今の日本には藤堂くんを夢へと導けるような指導者はいないと思う。

 それならば、海外に目を向けるしかないと思う。

 海外には優れた指導者が何人もいるはず。

 また、切磋琢磨せっさたくまできるような同年代のライバルがうじゃうじゃいると思う。

 そんな環境で、優れた指導者に教えられて、強いライバルたちと競い合っていけば、藤堂くんの夢を叶える道が開けるんじゃないかって思うんだけど、どう思う?」


 わたしの提案に藤堂くんは目を輝かせた。でも、逡巡の気持ちが抜けないようだ。


「すごく魅力的な話だと思う。

 でも、海外とかどうやって行ったらいいかわからないし、言葉も通じないし、きっとお金もたくさんかかるだろうし……」


 すごく現実的な回答が来た。すぐにこういう回答ができるってことは海外は今、初めて聞いたことじゃなく、いくらかはそのことについて考えたことがあるってことだよね。


「うん、きっといばらの道だと思う。

 でも、その道はわたしがなんとしても切り開いて見せる。

 藤堂くんはサッカーのことだけ考えて、わたしを信じてその道をひたすら進むだけでいいの」


「え……

 そんなことできるの?」

「わたしが……大島紗里がやると言ったら、どんなことでもやり遂げるから」


 わたしの言うことに二言はない。

 有言実行。

 やると言ったら何がなんでもやる。


 ここまで言い切ったことで感情が大幅に高ぶっていたようです。

 その高ぶった感情に、11歳の肉体に宿る乙女心が爆発して、いろいろ大暴走が始まってしまった。わたしは思わず立ち上がった。


「だから、だから……」


 なんか涙が出てきてるし、もう歯止めが効かない。


「わたしが藤堂くんの夢を叶えるから、わたしを……わたしを藤堂くんのお嫁さんにしてください」


 言ってしまった……こんなこと言うはずじゃなかったのに……

 午前中あれほど集中して考えたシナリオはどこへいった?


 わたしが呆然としてると、藤堂くんは感極まった表情で立ち上がって、そのままわたしを抱きしめた。


 えーっと……

 これってOKってことだよね?

 わたしの提案……途中からプロポーズになってたけど、すべて受け入れられたってことだよね?


「キスとかしないのかな?」


 ボソリと声が聞こえた。

 そういえば、ここは教室で今は昼休みだった。

 当然のようにクラスの皆は周りにいる。

 途中からずいぶん声が大きくなってたような気もする。


 気づくと、クラス全員男女ともが遠くからこちらを見ている。


 うわぁ、やっちゃった!

ここまで読んでいただいてありがとうございます!


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連載中の作品は下にリンクがありますので、そちらも見てください。

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