第17話 その夢、いいね
翌朝はとっても眠かった。
夜遅くまでいろいろ考えてて、結局何一つ考えがまとまらなかった。
5年間同じクラスで一緒にいたご近所さんとはいえ、藤堂くんのこと何も知らないってことに今更ながらに気付かされたのだ。
もちろん、ご近所なので家族構成とか知ってる。藤堂くんのお父さんは普通に会社勤め、お母さんは専業主婦。そして2歳下の弟が1人。お父さんとは挨拶したことがある程度だけど、他の2人とは話をしたこともあるし、表面的なことはよく知ってる。
でも、藤堂くん本人のことはよく知らない。
サッカー大好きってことくらいしか知らない。
好き嫌いは少ないけど、お肉が特に好きで、酢の物が少し苦手とかいう食べ物の好みも知ってる。
体育だけは抜群に得意だけど、他の教科は中くらいより少し上くらいの成績だってことも知ってる。
キャ◯ディーズのラ◯ちゃんが好きだとかいうことも知ってる。
あ、意外と結構知ってたわ。
でも、肝心なことは何も知らない。
将来の夢は何?
たぶん、サッカー関連のことだろうけど。
これからの人生設計とか計画とかあるの?
まぁ、小学生がそこまでいろいろ考えてはいないと思うけど。
聞いておきたい。
藤堂くんのことは何でも知っておきたい。
このまま普通にお付き合いすることは、たぶんできると思う。
でも、それでいいの?
藤堂くんの最後のことを知っているだけに、それに向かって何もせずに生きていくことは怖い。
そりゃ、その時身近にいれば、防ぐことは可能かもしれない。
でも、運命に流されるだけの生き方はもうしたくないんだ。
前世の藤堂くんは夢を果たせていたの?
あのままの藤堂くんがいいなら、わたしはそれを応援するだけ。非業の死だけはわたしの力で回避させてあげればいい。
そのためにも、聞いておきたい。
彼の夢を。
いつもより家を10分だけ早く出た。
毎朝、藤堂くんは分団の集合時間より早く来ている。
何故か弟の賢治くんは集合時間ギリギリに来るけど……たぶん仲が悪いとかじゃなく、賢治くんが寝坊してギリギリになってるだけだと思う。
分団の集合場所につくと集合時間より20分も前なのに藤堂くんは来ていた。どうやら他の子はまだ誰もいないようだ。チャンス!
「おはよう!」
元気に声を掛けると、昨日のことがあっただけにちょっとだけ焦った感じで挨拶を返してくれた。
「どうしたんだ? ずいぶん早いじゃないか」
「そのわたしより、先に来ている人に言われたくないなぁ」
「家で準備体操とかしてると、怒られからな。賢治がバタバタと準備してる横で悠々と体操してると」
そういうわけなんだ。確かに今も屈伸とかしながらしゃべっている。
「あのね、今日は藤堂くんに聞きたいことがあるの。
そのために早く来ちゃった」
「聞きたいこと?
なんだ、いきなり」
さすがに、準備体操の動きが止まって、こちらをじっと見ながら問い返してきた。
「藤堂くんの将来の夢を教えて」
「……どうして、また、そんなことを……」
「知りたいから。藤堂くんのことはなんでも」
わたしの意味深な回答に一瞬押し黙る。でも、すぐに。
「笑うなよ、絶対」
「絶対に笑ったりしないから。約束する」
わたしの真剣さが通じたようで、藤堂くんは真面目に、そして堂々とこう答える。
「世界一のサッカー選手になりたい」
世界一……そんな答えが飛び出すとは思わなかった。
「いいね!」
「え?」
「うん、とってもいい。
世界一か、素敵ね!」
「そうか?」
わたしの答えに藤堂くんはとても嬉しそうに、はにかんだ。
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