第11話 もしかして恋?
そういえば、昨日のお通夜もそうだが、今日の葬儀は誰が手配してくれたんだろう。日本のこういったことに不案内だったから、とても助かってはいる。
葬儀社やら、お寺さんやらに支払うお金とか、どうなってるんだろう?
確かに、小学生が普通に気にすることでもなかろうが気になるな。
葬儀が始まる前に、父の知り合いやら近所の人やらが挨拶に来る。親戚の人たちにはいろいろ話してるようだが、わたしの前にくると誰もが黙ってしまう。
たしかに自分が向こうの立場だったりしても、両親を亡くしたばかりで、身寄りのなくなった11歳の女の子に話しかけるとか無理ゲーだろう。
なかなか体験したくないシチュエーションだな。
まぁ、わたしとしても黙ってうつむいてればいいから楽でいい。
そんなわたしの前に立つ1人、いやその後ろにもう1人いるか。
同級生の藤堂翔吾くんと、そのお母さんのようだ。
「大島さん、元気を出せよ!」
藤堂くんは、まわりの空気も読まずに大きな声でそう言った。
藤堂くんとは幼馴染みと言っていい存在。
同じ町内に住んでいて幼稚園も同じだった。小学校に入ってから、2年ごとのクラス分けでも、ずっと同じクラスだった。奇跡的というほどの確率でもないが、5クラスだから、1/5✕1/5✕1/5=1/125ってことでそれなりに稀な確率である。
まぁ腐れ縁ってやつだろう。
小さい頃から、わたしもデカいが、藤堂くんもデカく、背の順で並ぶと2人が男女それぞれで1番後ろだった。なんかいつも横に彼がいる。そんな感じだった。
縁があったとは思うけど、前世ではこの日以降、直接会う機会はなかったものだが、それでも、わたしは藤堂くんのことを知っている。
20歳を過ぎて、わたしがブラジルにいた頃、日本でプロサッカー、つまりJリーグが創設されたニュースを聞いた。
そのときの1人に彼の名前があったのだ。
その名前の懐かしさに思わず、いろいろ調べたものだ。まだインターネットが普及していなかったのでそれなりに苦労はしたが、パソコン通信などで十分情報は集まった。
地元のサッカーの強い高校を卒業後、地元のトヨタ自動車に入社し、社会人サッカーチームで活躍。日本代表として、オリンピックやワールドカップの予選でそれなりの実績を残していた。
そして、日本代表の主力選手として挑んだワールドカップ・アメリカ大会の予選の途中で負傷、その最終戦のドーハスタジアムで彼は出場しないまま敗戦し、日本のワールドカップ出場の夢は絶たれた。
そう有名なドーハの悲劇である。
その後、彼は自責の念から精神を病んでしまったと聞く。そして、病との因果関係はよくわかっていないが自動車の運転中に事故を起こし、その一生を終えた。
彼の活躍はそのときすでに闇に生きていたわたしのたった1つの光だった。もう何の関係もなくなったとはいえ、彼の活躍を聞くとワクワクしたものだ。
それが、突然の彼の死を聞いて、わたしの心も完全に闇に閉ざされた。
一瞬でそれらのことが頭をよぎる。でも彼は、藤堂くんは、ここにこうして生きている。それだけでも嬉しい。
彼の声に応えようと、顔を上げて、彼の顔を見る……
思わず一瞬でうつむいてしまう。
あれ?
なんか、藤堂くんの顔を見れない。
わたし、どうした?
なんか緊張してるのかな?
もう一度、思い切って顔を上げる。
彼の顔をじっと見る。
思わず赤面する。
これって……
もしかして……
わたし恋してる?
気づいてなかったな。
どうやら、わたし藤堂くんのことが好きらしい。
もともと恋心持ってたのが、彼の将来を思い出したりしたことで、それが増幅してしまったらしい。
でもなぁ、男の子に恋してまともに顔も見れないとか、乙女かよ。
頑張って返事しようと思ったけど、ちょっとムリみたい。
それならと、彼の目を見て、ニマっと笑ってみた。
ちょっと笑顔がひきつきってたかもしれないけど。
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