第1話 こんな最後も悪くない
新連載です。よろしくお願いします
会社の正面で車を降りた直後に銃の音が響く。
ランベルトが身をもってわたしをかばうがそこへ容赦なく何発となく銃弾が撃ち込まれる。だいたいにおいて狙われてるのは、わたしでなくランベルトなんだから、そんなふうにわたしをかばったら敵の思うツボでしょ!
「サリー、大丈夫か?」
苦しそうな素振りも見せずにランベルトが優しくわたしに微笑みかける。
もう、最後の最後までカッコつけることをやめようとしないんだから……こういう男なんだからしかたないわね。
わたしは大島紗里。表向きの肩書としては、とあるそこそこ有名な外資系商社の日本支社長。
まぁ実態としてはイタリアの経済マフィアのボスの情婦。
自分で言うのもなんだが、そこそこ美人なんだろう。目がきつすぎるとは思うが、そこが魅力的と言う人もいるから、そのあたりは個人の嗜好の問題だろう。
生涯独身で、年齢は……女性に年齢を聞くんじゃないわよ!
まぁ、まだ還暦には達してないとだけ言っておくわ。まわりは、どうみても30代に見えるとか言うけど、言葉そのままに受け取るほど頭湧いてはしない。
美容に金と努力は惜しんでないから、それなりに外見はごまかせてはいるはずだけどね。
幼少期こそ普通に幸せに暮らせてたけど、どこでどう人生の歯車が狂ったのか(まぁわかってはいるけどね、小学生のあのときからだ)、落ちるに落ちて、流されに流されて、クソったれな人生を送ってきたわけだ。
運が悪かっただけでなく、わたしの好戦的な性格が問題だってことはわかってるけどね。
運命の赴くまま世界中を流されて、極東の魔女とか黒髪の女王とか、世界の男どもから恐れられたものよ。
ただ、ランベルトと出会ってからは少しは運命もマシにはなってきたけれど、それでもマフィアのボスの情婦だよ?
世間様はこれをまともな人生とは思ってくれないだろうね。
どうしてこうなった? と思わないでもないけど、まぁこういう人生もあるわけだと納得するしかないね。あきらめの極地よ。
そう、こんな状況で無事にいられるほど、運命はわたしに優しくない。
何発かの銃弾がわたしにも当たっているのだ。うん、これ死ぬやつだ。
「ダメそうね、寂しがり屋のあなたと一緒に逝ってあげるわ」
「そうか、最後くらいカッコよく決めたかったんだがな。惚れた女をかばって死ぬってのはそれなりにカッコいいだろ?」
この人ったら、何事もカッコよくってのが美学なんだから、こんな時までそんなこと言って。しかたない人ね。
それにしても、「惚れた女」?
そんな素振りこれまで一度も見せなかったじゃないのよ。
「ふふ、カッコいいわよ。最高に」
「そうか、それなら悪くない死に方だな」
最後にそう言うと、苦しそうな顔ひとつ見せずにランベルトは目を閉じた。
最後の最後までまでカッコつけちゃって。
でも、わたしに惚れてる男、しかも結構いい男に抱かれて、死んでいくのも意外と悪くはないわね。こんな、ちょっとだけいい感じの死に方ができるとは思っていなかったわ。しかも故郷の日本で。
どこかの国の見知らぬ汚臭のするような路地裏で薄汚く独りで死んで、そのまま腐っていくんだと思ってたから。
ランベルトのこと?
いい男だとは思うけど、惚れてたかどうかは正直よくわからない。そういう感情とか、これまでの人生のどこかでポイっと捨てちゃってたから。
そうね、燃えるような恋とか、そういうのもしてみたかったかもね。
今さら、そんなこと思っても遅すぎるでしょうけど。