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あの日の記憶

 ふと歳を重ねると、たまに昔の事を思い出す事がある。

 昔、といってもまだ僕は二十代半ばだが。

 十年前、僕がまだ中学生だった頃、とある女性と出会った。

 当時の僕は親にガラケー、通称ガラパゴス携帯を買い与えてもらったことで新たな世界の散策に夢中になっていた。

 勿論、今となっては当たり前のネットリテラシーなんて物は当時の僕は持っていない。


 インターネットには多くの情報やコンテンツが転がっている中で、僕はヌコヌコ生放送・動画サイトという沢山の人が集う場所に辿り着いていた。

 ヌコヌコ動画は同級生だった子達にも人気で、色々なクリエイターの人が作った動画を僕は友達と毎日観ていた。

 そんな中、僕は少し周りの子たちより先を行ってやろうとヌコヌコ生放送の方に手を出したのだった。

 ヌコヌコ生放送は色々な年代の人間が自分のやりたいことをカメラを通して配信しており、僕は適当な配信枠に潜り込んだ。

 小さな画面に映っていたのは一人の女性配信者あおだった。

 カーテンを閉じ、真っ暗な部屋で彼女は少人数しかいないリスナーたちと適当な話題で会話をしていた。

 長い髪を束ね、気だるそうにタバコを吸う彼女の姿を見て僕は胸を高鳴らせた。

 穢れのない綺麗な瞳に僕は夢中になってしまった。


「初見です、オカにゃんです」


 震えそうな手を抑えながら、キーボードで自身のハンドルネームを入力。

 ......反応してくれるだろうか?


「お、初見さんか。いらっしゃい、ゆっくりしていてね〜」


 何の変哲もない決まりきった返事。

 今ならそれがわかるが、当時中学生だった僕は認知してもらえたことに歓喜した。

 それから毎日、僕は学校から帰ると彼女の生配信を追うようになっていった。


 彼女のコミュニティに入ってから数日、リスナーとアドレス交換をすると宣言した彼女は自分のアドレスをさらけ出した。

 勿論、僕はあおのアドレスを登録した。

 返信は遅かったがちゃんと僕の拙い文章にも返信をくれて、益々僕はあおの虜になっていた。

 当時の僕は何を考えたのか、ネットでは禁句の自分の個人情報をさらけ出した。

 もっと自分を見て欲しいと思ったのだろう、あおはどんな対応をしてくれるのか気になったのだろう。

 数日経っても彼女は返信せず、そしてコミュニティはいつの間にか消えていた。

 何の脈略も無く消えていたこともあり、僕は躍起になって彼女のコミュニティを探した。

 新しい彼女のコミュニティを見つけても、僕が入ったことがわかるとまた消えていた。


 そして僕は子供ながらに気づいたのだ。

 彼女は僕が未成年だと気づき、自分が何らかの罪に問われるのではないかと考えたのではないかと。

 今、考えるとまた別の理由があるかもと考えられるが、当時の僕はその余裕も無かった。

 せっかくの非日常が消えてしまったという喪失感が心を埋めつくし、僕はそれ以降ヌコヌコ生放送を見るのをやめてしまった。


 ......大人になった後、ふとたまにこの出来事を思い出すと僕は少しばかり心が苦しくなる。

 名前も知らない彼女の楽しみを無垢だった僕が奪ってしまった。

 もし、あの日もう少し周りが見えていたのなら何か変わっていたのだろうか......?






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