魔眼持ちのおせっかい
魔眼持ちのおせっかい
私の名前はマチ子。
娘も大学生となり、最近スーパーのレジ打ちのパートを始めた。
特技は魔眼を持ってる事だ。
…待って、待って、ホントです!不審者じゃないのよ!
私には、相手の感情や本性によって、瞳の色が異なって見えるのだ。
そう、今この瞬間も…。
とある昼下がり。
私はスーパー魔王城の近くのカフェで休憩をとっていた。隣に(バ)カップルが1組。
「ウソ。絶〜ッ対、タッくん浮気してるぅ!」
「してないよ、俺にはメグちゃんだけだよぉ!」
ーいや、こいつは浮気してる。なぜなら、瞳の色が紫。
紫は嘘や不安の色。こいつは嘘をついてる。
「フーン。…じゃあこれ、何よ。」
「えっ?」
ーエッ!
彼女がクルリと携帯の画面をタッくんに見せた。
そこには、タッくんと思わしき人物と女の子とのイチャラブ写真が…。
タッくんの顔は、スタンプで半分消してあるが、見れば見るほどタッくんだ。
「何なのよ、このサオリって女はァ!?」
「あ、えーと…。」
「SNSで、こんな匂わせするよーな女に、引っかかってんじゃねーよ! このどクズ!!」
テーブル、バーン!!!
ーSNS、こわッ! 魔眼必要ないくらいだなぁ〜。
修羅場を迎えたカップルの横をすり抜けて、私は会計に進んだ…。
「あーSNSは怖いッスよね。」
同僚のユイちゃんは、サイコキネシスが使える。
「ユイちゃんにも怖いものあるんだ!?」
「そりゃありますよー。」
「何!?」
「やっぱり老後ッスね。」
「出たよ、老後(笑)」
ユイちゃんは日頃から老後の体力の衰えを心配している。
そのため、過剰に念動力を使わないようにして、自分の筋力を日々鍛えている女の子だ。
「体力もッスけど、金銭面もッスよ。ちゃんと年金もらえるか怖くないッスか?」
「それは怖い。」
…それは、普通に怖い。
「まあでもマチ子さんならその魔眼で、今後の日本経済も見抜けるかもしれないッスね。」
「ううん、人間の感情以外は見えない。」
「あ、株とかには、使えないんスね…。」
「うん…。」
どこまでも使えない魔眼。
せいぜい、人が嘘つきかどうかくらいしか見抜けないし。も〜! 私の役立たず…!
帰宅すると、娘のミヨがリビングでボーッとしていた。
「あれ? 今日、デートって言ってなかった?」
「あ、お母さん…。おかえり…。」
「どしたの? 元気ないね。」
見てみると、ミヨの瞳が真っ黒だ。闇(病み)の色に染まっている。
「うん…。彼氏が…タッくんが…浮気してるかもしれなくて。」
ーまたタッくん!? この世には浮気者のタッくんが多数棲息しているっていうの…!?
嫌な予感がした。
「えーと、それは何? SNSかなんかで写真とか見ちゃった感じのバレ度合…!?」
「お母さん、なんで分かるの!?」
ミヨが携帯の画面を見せてくれた。
「ほらこれ! スタンプで顔半分隠れてるけど、タッくんなの!」
「『タッくん』だわ…!」
「でしょ!? …て、お母さんタッくんの顔知らないよね? 会わせたことなくない?」
「いや、そんなこと、なく…なくない!!??」
冷や汗がダバダバ出た。
「この写真アップしてる、『トモミ』って子と二股してるみたい…。」
ーあれ!?メグちゃんじゃないのね!?
ーついでにサオリでもない!?
「お母さん、どう思う?」
「えっ!?(汗)」
「タッくんと、別れた方がいいと思う? それとも、いっかいちゃんと話し合った方がいいのかな…。」
ーう〜ん……。(汗)
「お母さんね…。ミヨちゃんが、もうタッくんのこと信じられないなら、ダメだと思う…。」
見る見るうちに、娘の目に涙が溢れていく。
「ミヨちゃんが、心のどこかでタッくんのこと疑い続けるなら…それはもう関係性として破綻してると思う…。」
顔を覆って、ミヨが号泣し出した。
「タッくん、他にもいっぱい女の子に手出してるみたいでぇぇ…。うえーん!」
「ミヨ…。」
ー知ってたのね…!
「他に、ヨリコとアイミとサチとYOKOとユッペがいるの〜!!」
「な、なにぃ〜!!!???
そんな男、やめなさい〜!!!!!」
その場でミヨはタッくんをブロックし、もう二度と連絡を取れないようにした。
魔眼持ってる意味あんまりなかった上に、ちょっとお世話焼きすぎちゃったかも。
でも、可愛いわが子の危機だから、黙っておけなかったわ。