魔眼持ちの悩み
魔眼持ちの悩み
私は魔眼持ちである。
あ、待ってください、話を聞いてください。不審者じゃありません…!
私は相手の感情や本性によって、瞳の色が異なって見えるのだ。
その魔眼を駆使して万引き犯を捕まえたこともある。
ちなみに、万引き犯ボルトは現在隣のレジで元気にレジを打っている。
「ピッ、安いヨ〜。ピッ、安いネ〜コレ。」
「ね、安いわよねェ〜!」
「オネサン、今日も可愛いヨ〜。」
「あらっ!ボルトくんてば〜オホホ!」
ーボルトのヤロー。全く思ってねーこと言いやがってアイツめ…!
振り返って確認すると、ボルトの目は紫色…つまり嘘をついている時の目の色だった。
ー可愛いなんて思ってねーな…。「安い」とは思ってるようだが…!
魔眼持ちの私にはモロバレだ。
休憩時間に同じくレジ打ちの同僚、ユイちゃんに話してみた。
ユイちゃんは念動力が使える。
「なんかさ、魔眼持ちだからって何でも出来るわけじゃないんだよね。」
「そッスよね。」
「嘘ついてるヤツいても、そうそうひっとらえる事出来ないし。」
「サイコキネシスもそッスよ。そうそう使えないッス。やっぱり老後に備えて筋トレは欠かしたくないし。」
「老後に備えて(笑)」
そこへボルトがやって来た。
「マチから出ようとマチまで〜♪デーカーケターが〜♪」
「どんなタイムリープだよ。こえーわ。」
「何。財布でも忘れたか。」
「サイフを♪ 忘れた♪ …デショ、マチ子サン?」
「は?私!?」
私の名はマチ子だ。
バッグを確認すると、確かに財布が無い。
「あんたなんで私が財布忘れたって分かったのよォ!? まさか盗った!?」
「ひどォ〜い!」
確かにボルトの瞳の色は、嘘つきの色ではない。
ただ、楽しい気持ちを表す色である黄色をしていた。…癪である。
「じゃあなんで私がお財布無いって分かったのよォ!」
「ボク、人が忘れたものワカル。これ異能力。」
「「エッ!?」」
ユイちゃんと私の声が思わず重なった。
ボルトも能力者…!?
「あ〜うん、ボルトくんねェ〜彼、確かに人の忘れ物が分かるらしいのねェ〜。」
スーパー魔王城の店長(あだ名 魔王。でもただのおじいちゃん)に確認すると、意外にも肯定の答えが返ってきた。
「本当なんですか!? …でもあんまり使い道ない能力ですね…!?」
「履歴書にはねェ〜特技として書いてあったけど…そうだね、あんまり使い道ないかもねェ〜。」
「ウケるーwwwww」
そこにまたボルトがやって来た。
「店長サン…免許証、持っテル?」
「あっ!うっかり今朝玄関に置いたままだ…!」
「オーゥ!無免許運転ダメヨ〜!」
ーボルト、犯罪を未然に防いだ…!?
※店長、出勤は免許証なしで運転して来ちゃったらしいけど。
私とユイちゃんは顔を見合せた。
ーボルトすげぇ…!
瞬く間にボルトは人気レジ打ち店員となった。
会員カードを忘れたことを、言われる前に見抜き、ちゃんとレシートにスタンプを押してあげるからだ。
「オーゥ、今日会員カードないネ? ダイジョブ、スタンプ押すカラ。」
流れるような接客である。
さすが、元流れるように万引きしていただけある。
「オーゥ、それ、スーパー大富のカードだネ。惜しいネ。ここスーパー魔王城。レシートにスタンプ押しとくネ。」
高齢者の方とのやり取りが大変スムーズだ。
よって、総合的にレジ打ちが速い…。
ーま、負けた…!!
完敗である。
今日も私は魔眼を生かせずにレジを打つ。どうにかこの能力を使って活躍出来ないものか。
魔眼持ちの悩みである。