魔眼持ちの宿命
愛すべき友人へ。
祝福と未来への希望を魔眼に込めて。
私は魔眼持ちである。
…待って、話を聞いて!
ホントなの! ホント!
私の場合、人の感情によって瞳の色が違って見えるの。
ワクワク→黄色
ドキドキ→紫
闇(病み)→黒
(この特技を活かして働いてみたい…!)
強くそう感じた私は、就職活動で自己アピールに魔眼エピを盛り込んでみたいと考えた。
娘ももう大学生。子育てはひと段落したし、魔眼を使って新しいことを初めてみたい!
「レジ打ち募集」の張り紙に飛びつき、すぐさまスーパーの面接を受けた。
「えーと、谷山さん、ねェ。」
スーパーの店長はおじいさんだった。
「えー、谷山さん、志望動機はァ〜?」
「子育ても落ち着き、自分のお小遣いが欲しいなと思いましたッ!」
「えー、谷山さんの、特技はァ〜?」
「魔眼持ちです!瞳の色を見て、相手の気持ちを読めますッ!」
「えー、谷山さんね、採用ゥ〜。」
「ヨッシャァァァ!!!」
「明日からお願いできるゥ〜?」
「ハイ!喜んでッ!!」
こうして私は、『スーパー魔王城』の店員となった。
店長は必然的に「魔王」と呼ばれている。
また、チーフマネは「宰相」と呼ばれているが、まあ深い意味は無いだろう。
あ、皆さんちゃんと人間です。
私は毎日毎日元気にレジを打った。
「…ピッ!ピッ!ピッ!合計で、320円です!」
「なんか、ちょっと安すぎない!?」
「でもこのスーパー、ほうれん草1束30円ですから、仕方ないです!」
「それもそうね! ありがとう!」
ここで重要なことに気づく。
…あれ?魔眼を使うタイミングがないわ。
とりあえず、同じくパートのユイちゃんに相談してみた。
「ユイちゃん、私、魔眼持ちなのに力使ってないんだけど。」
「え、いいんじゃん? 私もサイコキネシス持ってっけど、普通に手で運んでますよ?」
「え!? ユイちゃん、念動力系!?」
「ハイ!でも、日常では筋トレ兼ねて自力っすよ! じゃないと、老後階段登れなくなりそうで怖いッス!」
「あ〜筋肉使わないと衰えるもんねえ!」
…ということは、私の魔眼も別に必ずしも使わんでも、よし…???
でも、特技活かして働きたいなと思ったんだけどなー。
そんなある日、スーパーに万引き犯がやって来た。
魔眼持ちの私には分かる。
彼の瞳は紫。
店員の動きに敏感だし、妙に服が地味!
目深に被ったキャップ!
エコバッグ大きい!
そして、極めつけはスニーカー。盗ったら逃げる気満々だ!
ー捕まえたるでェ…!!!
私は彼を張った。
結果、クロだった。
彼はまず、無難に小さなお菓子系から盗りだした。流れるような動作で、死角を作りながら、エコバッグへ入れていく。
食器用スポンジ、洗剤なども盗りだした。
ここら辺が潮時かもしれない…!
真横からユイちゃんが、
「なにか手伝います?」
と聞いてくれた。
「あいつ、転ばせてくれ。」
「おけ。」
次の瞬間、万引き犯はツルリンスッテンと、ユイちゃんの念動力でド派手に転んだ。
転んだ拍子にバッグの未会計商品たちも床に散らばった。
私はユイちゃんとガッツポーズをして、すぐさまその場へかけつけ、従業員の詰所に彼を連行した。
「で〜え〜これらは全部、万引きしたのかなァ?」
店長兼魔王が優しく尋問する。
「ハイ…。私、貧乏。おカネなかたヨ。」
カタコトの日本語で万引き犯がしょんぼりと経緯を説明する。
「私、1人、ニホン出稼ぎきたヨ。でも、全然おカネ貰えないネ。それで、つい、やちゃたヨ。」
「店長。この人嘘ついてますよ。」
エッとその場が固まった。
でも、私は本当のことは黙っていられん性分なのよ。
こいつの瞳は紫と黒。
嘘つくやつ、誤魔化すやつは大体こう!
「あとこの人、またやる気満々ですよ。ちょっと怒られて、泣いて、許してもらえると思ってる。
ちょっと、あんたァァァ!!!
もう二度と万引きしない、ちゃんと働くって、約束しなさいよォ!!」
「ワ。怖いね、オバサン。」
「お姉さんって呼べよォ!!」
机、バーン!!!
こうして、ボルトという名の彼は、スーパー魔王城のレジ打ちとして雇われることになった。
すごいな、スーパー魔王城。
受け入れ具合がガバガバなんやが。
ええんかいな。
でも、ボルトはあれ以来、悪いことはせず、心を入れ替えてレジ打ちに勤しんでいる。
日本語も随分上手くなったし、向いてる仕事だったようだ。
よかったよかった。
私の魔眼があまり活躍しないが、スーパー魔王城は激安価格販売店として第人気だ。
よかったよかった。
今日も私はロッカールームでリボンを結び、ニッコリ笑顔を作ってみせる。
人の中に溶け込み、しかし、緊急事態の時には体を貼って周囲を守る。
それが、きっと、魔眼持ちの宿命なのだ。