ひろびろ露天風呂
家、車、ホテル、海、プール、温泉。なんでもそうだが、広くておまけにひとりというのは良いことだ。
体を伸ばし、こう呟く「極楽極楽」と。
逆に人混みは「地獄だ」と呟く。海、プール、温泉、渋滞。なんでもそうだ。混んでいるのは嫌だ。
だからって……。
天国に来てから恐らく1120日目……。未だ、他の人間に会ったことがない。
神が張り切って広く作り過ぎたのか、それとも審査が厳しいのか。
いや、凡夫な俺が来れたんだ。そんなことはないだろう。
天国なんだから飢えも疲れも苦痛ない、というのは肉体だけの話。心は渇き切っている。
誰か……誰かいないのか……どうしてこんなに広いんだ。
「神は馬鹿なのか……」
ポロッと呟いただけ。しかし存外、心地よかった。
会話ではないが声に出すだけで孤独感が紛れたのだ。
続け、続け、やがて浮遊感に包まれ、その瞬間、俺は全てを悟った。
そうか、みんな地獄にいるんだな。
突然、空いた穴に落ちていく最中、俺はどこか安堵していた。