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アレクシア

 グラマイス国 北西部 テルフス


 大人が両腕で一抱えするくらいある幹の山毛欅の木は、昼から強まり始めた風に大きく枝を揺らす。


 その強い風に雲が運ばれてきて、八月の日差しをまだらに遮る。


「風が出てきましたのでこの辺で中へ入りましょう、アレクシア様」


 昼食後から使用人のハンスと一緒に庭の草むしりをしていたのだが、手を止めて勝手口から歩み寄ってきた男を見上げた。


 普段は綺麗に撫でつけている金色の髪は折からの風で乱れ、前髪が眼鏡にかかる。


 この屋敷の執事のクラウスは乱れた髪を押さえて、アレクシアが立ち上がる時に手を取って支えた。


 少し離れた所にいるハンスも立ち上がり、汗を袖で拭っている。

 休みなく作業をしてきたので彼も疲れているだろう。


「そうですね、クラウス。今日はもういいでしょう。ハンス、お疲れ様でした」

「はい。アレクシア様」

 お辞儀をして籠に入っている雑草と鎌を持って去ろうとした。


「後片付けはやっておきます。おやつがあるから厨房に寄って行きなさい」

 クラウスがそう言ってハンスの持っている籠と鎌を取り上げると、彼の背丈の半分程しかないハンスは執事を見上げてお礼をしてから勝手口に駆け出した。


 風で麦わら帽子が外れ、顎紐があるので首に引っ掛かる。そのまま被り直すこともせずに中へ入って行った。


 アレクシアはその後ろ姿を微笑ましく見送った。探しても大人用の麦わら帽子しかなかったので我慢して被ってもらっていたが、作業中は何度もずれて大変そうだった。


 今度、教会のバザーがあった時にちょうどいいものがあれば買うことにしよう。

 アレクシアは忘れないように何度か反芻した。


 クラウスがアレクシアの分まで籠を持とうとしたので、自分の分は自分で運ぶと丁重に断った。


 屋敷の裏にあるゴミ捨てに雑草を捨ててから二人とも中へ入って行った。



 風が強くなったので、開け放っていた屋敷の窓を閉めながら部屋に戻る。


 ここは母方の叔父の領地で、かつては避暑に使われていた屋敷だ。


 祖母が病を得て療養のためにここに移り住み、その祖母も二年前に亡くなってからは訪れることはほとんどなかった。


 叔父はここを取り壊そうと考えていたのだが、一年前の出来事の後、アレクシアをここに住まわせることにした。


 取り壊す予定だったので、以前の使用人も全員解雇した後だった。


 叔父は解雇前に全員の再就職先を周旋していたので、今いるのは急遽雇われた者ばかりだ。


 使用人は四人。

 執事のクラウス、小間使いのハンス、通いの料理人と馬番のみだ。


 メイドも採用予定がなく、アレクシアは自分の身の回りのことは自分でしなくてはならない。


 それは前とさほど変わりはないので、大した手間ではなかった。


 アレクシアは伯爵である叔父の屋敷にいた時にメイドが一人ついていたが、彼女がそれらしく働くのは主人である叔父や叔母の前だけだった。


 辛うじて食事の配膳や風呂の用意などはするが、着替えを手伝ったり、ベッドメイキングをしたり掃除なども適当にしかしなかった。


 そのお陰で、着替えも髪の毛を結い上げることも掃除もベッドメイキングも、メイドがいなくても身の回りのことは自分でできるようになったので、今の生活はそれ程不自由はない。


 ここに来ることになった時に彼女も同伴することになったのだが、アレクシアの鞄を一つ盗んで途中で行方をくらました。


 盗まれた鞄は、叔父が伯爵家の親戚として持参できる最低限のものを持たせてくれたのだが、屋敷の不用品の銀器や燭台などで、アレクシアも特に必要ではなかったからちょうどよかったのが正直なところだ。


 今となっては、彼女がいてもいなくてもさしたる支障はないので問題はない。


 かえって、余計な人目がないだけ気楽だ。


 ノックがした。

「お茶の用意ができました、アレクシア様」


 今日は庭に面した談話室に用意してあると、案内された。

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