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【完結】死に戻り令嬢、敵国の王子に溺愛される  作者: 間野ハルヒコ


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フェーデ

「このっ、大目に見ていれば勝手なことを! つけあがりおって!!」


 ガヌロンの怒声が館に響く。

 フェーデは襟首を掴まれていた。


 床に伸びる影の、足が浮いている。


「俺の名を騙って作戦に口を出すなど、指揮官にでもなったつもりか!!」

「移民を際限なく受け入れるだと!? 伏せていた兵が無駄になったではないか!!」


 そう、フェーデはガヌロンからの命令だと嘘をついて、ヴィドール領への移民の受け入れを許可していた。最近はフェーデも内政に口を出していたため、その延長だろうと考えられたのである。


 ガヌロンがその指示に気づいたのは移民の受け入れが進み、ほとんどの移民が国境を通過した後であった。


「だって、罪もない人たちを盾にするつもりだったじゃない」

「その為の肉盾だ。利用できるものは使い潰す、当然のことよ」


 ガヌロンの策では移民の受け入れを可能な限り拒絶し、アベルを攻めあぐねさせる予定だった。


 強引に突破しようとすれば移民を殺さざるをえなくなり、アベルの正当性は失われる。

 その間に準備をし、待ち伏せした兵でアベルを殺す手筈だったのだ。


 だが、移民はもう受け入れてしまった。


 これではガヌロンの前世の記憶は役に立たない。ガヌロンの記憶では大量に移民が流れ込んでくるような状況ではなかったし。これほどまでに人が多いと誰が王子かなど判別がつかないだろう。


 流れるような裏切りだ。

 思えば、ここまでフェーデが協力的だったのはこの時の為だったのかもしれない。


 襟首を掴み、身体を引き上げられても、フェーデの瞳から光は消えなかった。

 その気丈さにガヌロンが苛立つ。


(この子の名前は、フェーデ。フェーデがいいわ)


 十年前、産まれたばかりの娘を抱いて妻はそう言った。

 当時、フェーデという言葉はまだ変質する前だった。


(決闘、という意味か。女の子の名前としては物々し過ぎないか?)


(いいの、だって。こんな時代でしょう? この子には強く生きて欲しいから)


 名前というものは時に変質する。

 かつて敬称であった貴様という言葉が、現在では侮蔑として使われるように。


 決闘という意味だったフェーデという言葉はその後に起きた事件によって、言いがかりという意味に変わっていった。


 自分の娘に蔑みの名をつける母などいない。

 どの子の名も、愛されてつけられたものなのだ。


 フェーデの瞳が父と拮抗する。


 名前は最小の魔法だと言われている。

 母、クリスティーヌが娘にかけたはじまりの魔法が、本人も気づかぬうちに力を発揮しているようだった。


 小柄な少女を床に叩きつける。

 どれだけ力で圧倒しても、フェーデの心は折れない。


 目が死なないのだ。


「ちっ、地下に放り込め!」


 命令に従って、使用人達がフェーデを取り押さえる。

 まだだ。まだアベルは動いていない。軍を再編成し展開しなおせば対応でき……。


 パキャン。

 と、氷が割れる音がした。


 使用人達の悲鳴にガラガラと氷が崩れる音。

 戦場で何度も耳にした、氷の魔法が来る。


 ガヌロンは執務室に飾られていた武器を掴み、柄から引き抜く。

 魔剣グランギニョルの黒い刀身が、むき出しになった。




 館の門扉は凍り付き、砕け散っていた。

 腰を抜かしたヴィドール家の使用人に氷の刀身が向けられる。


 柄のみだった剣にアベルが魔法をかけ、氷を刃としたのである。

 抜剣した不在城の使用人たちの前に、魔法使いの姿をしたアベルが立つ。


 奇しくも、五年前ヴィドール家を訪れた時と同じ姿である。

 異なるところがあるとすれば、今度こそフェーデを助けることができるということだった。


 逃げようとしたヴィドール家使用人の足はたちどころに氷結し、その場から動けなくなる。


「動くな、殺しはしない」

「鶏鳴卿はどこにいる」


 怯える使用人が向けた視線の先、エントランスホール中央階段にガヌロン・ヴィドールが立っていた。

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