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【完結】死に戻り令嬢、敵国の王子に溺愛される  作者: 間野ハルヒコ


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成長

 長い沈黙を続けた後、ガヌロンは絞り出すように言った。


「停戦条件は王子と公爵令嬢の結婚です。フェーデはまだ結婚できる年齢ではない、そこはどうクリアするおつもりですか?」


「停戦条件を変更すればいい。フリージアには僕がランバルドには鶏鳴卿が働きかけて」


 ガヌロンが苦々しい顔をする、そんなことになった日には自分の失態を説明しなくてはならない。


 実の娘を間違えて送りつけたなどと、そんな馬鹿馬鹿しい話を信じて貰えるはずもない。

 だが、事実をありのままに説明すればガヌロンの信用は地に落ちるだろう。


 フェーデを捨て石にし、自殺しろと命じたなど。

 ましてや、その時の混乱に乗じて停戦を無視し、フリージアに攻め込もうとしていたなど。激怒されるに決まっている。


 どうにかして罪を隠したいが、あんな劇を公演させるフェーデがそれを許すとは思えない。


 再度組み直される停戦条件はフリージアに有利なものになるだろう。


 これまで成したすべての悪事が自分へと返ってきている。

 おかしい、世界はもっと理不尽で都合の良いものであったはずだ。


 酷い目にあうのはマヌケの役割だ。

 なぜ俺ばかりがこんな目に。


「ご協力いただけますね。お義父さん」


 アベルの瞳に皮肉はない。

 ただ成すべきことを成し、あるべきことをするだけだった。


 自分が正しく生きることができるばかりに、他人も同じ事ができると思っている。

 それが余計にガヌロンの心に怒りを呼んだ。


 悪事を成したなら事実をつまびらかにし、罰を受ける。

 それが当然のことだとでも?


 この俺が、頭を下げ、謝らなければならないなど。到底受け入れられない。


「わかりました」


 ガヌロンは苦々しく頷くとこう続ける。


「最後に、フェーデと二人きりで話をさせてください。帰る前にこの子の部屋を見たい」


 見るからにガヌロンは弱っているが、フェーデと二人きりにするのは心配だった。

 この状況でフェーデを殺すわけはないだろうが、何かひどいことを言ってフェーデの心を傷つけるかもしれない。


「親子の時間に水を差すようで申し訳ありませんが、今日は僕も同席します」


 視線が交差し、心が焼ける。

 

 二人のやりとりを傍目にフェーデはアンナを見ていた。

 怯え、震え、生き残ることしか考えられなくなった義姉は想像していたよりずっと小さく、弱そうだった。


(お姉様は今、かつてのわたしなのね)


 ガヌロンに何をされたのかは想像がつく。屋敷に戻れば、癇癪を起こしたガヌロンにまた同じ事をされるだろう。いつまでも。


 確かにお姉様はわたしを助けなかった。

 見て見ぬ振りをし、自分だけは安全な場所に居続けた。


 ここでわたしが何もしなければ、わたしも同じだ。


「アベル様、わたしも父と二人で話がしたいです」


 驚いたのはアベルだけではない、突然の援護にガヌロンの方が驚いた。

 嫌われるようなことしかしてこなかったはずだが、なぜ。


 フェーデがガヌロンに向き合う。


「ただし、条件があります。アンナをここに置いていってください」


 アベルは即座に合点がいった。

 これはアンナをガヌロンから引き離し、安全な場所に隔離しようとしているのだ。


「娘を二人もとられるのは心苦しいが、仕方ないな」


 ガヌロンがわざとらしいくらい残念そうにそんなことを言う。

 フェーデが考えた通りだった。ガヌロンがこの取引を断るわけがない。


 ガヌロンからすればアンナとアベル王子が結ばれてくれるのが一番いいのだ。このままアンナと帰路につかされるより、一緒に過ごしてもらえた方がまだ可能性がある。


(なーにが愛されているだ。何も出来ない分際で、一丁前なことを言いおって)

(何もかもフェーデの上を行くアンナと過ごせば、アベルはきっとアンナの方を愛すはずだ)


 墓穴を掘ったのがその証拠だ。

 フェーデはアンナを自らの手で呼び込んだのだ。


 俺が何をしようとしているか、想像もできずに。


「行きましょう、父さん」


 そう言って、フェーデが客間を離れようとする。

 離れる寸前にアベル王子の耳元で小さく何か囁いていた。


 どうせ愛の言葉とやらだろうとガヌロンは思う。




 案内されたフェーデの部屋は品のよいものだった。城の上階にあるこの部屋は日当たりもよく、整えられた調度品からは大切にされていることが伝わってくる。


 おそらく、これが正しいのだろう。

 少なくとも藁を敷いた石床の地下に監禁するよりは。


 お前の教育は間違っていたと言われているように感じてガヌロンは苛立つ。

 

 フェーデは来客用の椅子に座るよう促すとガヌロンに話かけた。


「最近、温かくなってきたからそろそろ冬もおしまいかもしれませんね」


 若干の拙さはあれど、丁寧な言葉遣いだった。

 ほとんど口を開かなかった少女が、固く結ばれていたつぼみが、柔らかく開いていた。


「どうかな?」


 ガヌロンは来客用の椅子を振り上げ、フェーデに襲いかかった。

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