表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【完結】死に戻り令嬢、敵国の王子に溺愛される  作者: 間野ハルヒコ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

30/71

彼女が地下に落ちた理由

 フェーデが物心ついた頃、既にヴィドール家の経済状況は悪化していた。


 ヴィドール家の複数領地の同時経営は母クリスティーヌの手腕によって成立していた。母亡き後、上手く回らなくなるのは必然だった。


 父ガヌロンも手を打たなかったわけではない。前妻の死後、すぐに新たな妻を娶ったが、経営に一家言あるという言葉は嘘で、実際に結婚してからは「女がそんなことできるわけないでしょ」と手のひらを返された。「あんなのはただのアピールよ。何を本気にしていたの?」と。


 求められたのは公爵貴族としての裕福な生活。

 新妻の連れ子も育てていかねばならない。


 ガヌロンの内心は気が気ではなかった。こうしている間にも、経営は傾いているのだ。


 何より恐ろしかったのは経営が失敗することによって、自分の無能が露呈することだった。「女に縋らなければ義務も果たせない弱い男」そう思われるのは耐えられない。


 なぜなら、女とは男よりも劣った生き物であるはずだからだ。

 劣った者にすら劣る、愚かで弱い自分など。認められるはずがない。


 しかし、現実は非情である。

 経営の手腕は明らかにクリスティーヌの方が上であった。


 ガヌロンの物語は既に破綻していたが、間違いを認めることはできない。

 認めれば終わってしまう。



 そんな時だった。


「もんてすはいみんをいれたらいいのよ」


 当時三歳の少女がそう助言をした。

 もんてす、いみん? モンテス領に移民か?


 ガヌロンは考える。

 確かに言われてみればそうだ。


 大規模な災害によって、人口が減少したモンテス領の諸問題は移民を受け入れればあらかた解決するかもしれない。移民の受け入れなど、どこの馬の骨とも知らぬ薄汚い血を受け入れるようで考慮から除外していたが、移民だって災害の被害者だ。


 身を寄せる場所さえ用意すれば、復興に向けてよく働いてくれるかもしれない。

 移民受け入れによる問題は当然起きるだろうが、共同経営地のモンテスならば、そうした細々としたものは現地に一任させることができるし。こんなに良い手はない。


 しかし。つい先日まで喃語を話していた娘が、このような手を考えるとは。いや、偶然だろう。たまたま発された言葉がそのように聞えただけだ。

 

「テスロンのかいどうはふうさ」

「アンシュロりょうの木はのこして」

「リゼットはおうりょうを」


 歌うようなその言葉は、おそろしいほどの精度で領地経営のヒントを示していた。時には未来を読むかのような内容もある。これは一体、どういうことか。


 ガヌロンには理解できないが、それが正しいことだけはわかる。


 それはフェーデが以前のループで見たヴィドール家の経営手順。

 フェーデが産まれた後もクリスティーヌが生存していた世界線でどのような経営が行われたかを、母の膝の上で見聞きしたすべてを、幼子は歌う。


 それは亡き妻からの喜ばしき知らせ、ガヌロンを救う愛の奇跡だった。

 この歌に従えば、必ずやヴィドール家は繁栄し。戦争すら回避して、ガヌロンはその名を残すだろう。


 今なお神話に残る幼子による不思議な予言とは、このようなものだったのかもしれない。


 ここでガヌロンの行動は二つに分かれる。


 己の弱さを認め、フェーデの助言通りに領地の経営を変更するか。

 それとも……。



「この娘を地下に落とせ。こいつはおかしな歌を歌う」


 あれが、知恵であるものか。

 ただ偶然そのように聞えただけだ。即興で歌うだけなら誰だってできる。


 ガヌロンは愛の奇跡を否定した。

 到底受け入れられるものではなかった。


 自分よりも賢い子供など、気持ちが悪いからだ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ