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プロローグ3


 星がアベル王子の居城の上を通り抜け、夜の空へ消えていく。

 涙のような星の光に、王子はふと過去を思い出した。


 隣国ランバルドにある公爵家、ヴィドール家の地下室に囚われていた少女がいた。


 当時、ただの魔法使いだったアベルは、少女の心を凍らせ、虐待の痛みを和らげることしかできなかった。


 気休めに告げた「きっと、王子様が助けに来てくれるよ」という言葉の空虚さが、今でもアベルの胸を穿ち続けている。


 令嬢を助けることができなかったのは、ただアベルが弱かったからだ。

 少女を抱え、ヴィドール家の兵士を魔法で抑え込んで、逃げることができなかったのは、弱かったからだ。力さえあれば、そう思わずにはいられなかった。


 アベルは自らの弱さを憎み。

 憎悪で己を焼きながら、その力を蓄えた。


 だが、時が経てば経つほどランバルドと母国フリージアの戦争は激しくなり、力を得た頃にはすでにランバルドに入国するすべは失われていた。


 類い希な魔法の力を得たアベルはランバルドとの戦争に利用され、敵から邪悪な暴君と、味方から英雄と呼ばれるようになると。ランバルド王家からこれまでの功績を讃えて、王の養子に迎えるという通達が送られた。


 平民の魔法使いから王子へ。

 異例の出世には裏があった。


 長く続いたランバルドとの停戦条件にフリージアの王子とランバルドの公爵令嬢の結婚が含まれていたのだ。


 フリージア王家は自分達の大切な王子が憎きランバルドと婚姻関係になることを拒んだ。尊き血に悪しきランバルドの血が混ざることが許せなかったからだ。


 平民だが、国民から絶大な支持を受ける英雄を王位継承権を持たない間に合わせの王子に仕立て上げ、停戦のための捨て石にしている。


 そんなことを嘯かれた。


 明日は結婚式だというのに、ランバルドの花嫁の名は未だ知らされていない。

 少なくとも公爵令嬢だという情報しかなかった。


 ランバルドも大事な令嬢を差し出したくないのだろう、捨て石はお互い様なのかもしれない。



 流れ星を見たからだろうか。

 アベルはふと明日の結婚相手があの地下室の令嬢だったらと思ったが、あり得ないことだと考え直した。


 あの子がまだ生きているとしても、まだ10歳だ。

 いくらランバルドの貴族たち性根がねじ曲がっていたとしても同じ人間。10歳の少女を敵国に嫁がせたりなどするものか、そこまで人の心がないとは思えない。


 この結婚がうまくいき無事に停戦すれば、ランバルドに使者を出せる。彼女の安否を確認することも、できるようになるはずだ。


 あれから5年。

 冷静に考えれば、間に合わないかもしれのかもしれない。


 あまりにも時が経ちすぎている。


 それでも。

 手を差し伸べ、迎えに来たよと声をかけたい。


 そう思わずにはいられなかった。




 星も月もない空の下。

 令嬢と魔法使いが夜を見上げて、時を待つ。


 冬が終わり、春が来るまでもう少し。

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