第37話 暴風は行く
私は「時の加護者」アカネ。
光鳥シドが元気であることを確認し、私は心置きなくポルミス島を目指すことができる。しかもシドからポルミス島に住むセイレーンを指し示す羽根をもらった。私たちはポルミス島へ渡るための船を求めてギプス港へ向かう。
——そんなアカネたちよりもはるか前に出発した白亜の結月は、数刻前にやっと王都ギプスに到着した。
王都ギプスに常駐しているブルゲン大使が、国で一番早い船の使用許可をスタン王に要請していた。
「ブルゲンよ、別に船の使用許可は必要ないだろう。もともと船や馬車の許可証はお前たちが管理しているのだから」
「いえ、いえ、とんでもないです。私たちが行っているのはあくまでも事務手続きであります。使用するにはこの国の全権を握るスタン様の許可が必要でございます」
「ふん、白々しい事を.. 」
スタンはわざと聞こえる声でつぶやくと、蔑んだ目でブルゲンを見下ろした。
「で?」
わざとらしい卑屈な顔をしながらも言葉は高圧的なブルゲンにスタンは辟易していた。
「ふん。使えばよい。ベルサ号は我が国で2番目に早い船だ。ブルゲンよ、なぜ早い船を指定した? そんなに急ぐ訳はなんだ?」
「いえ、別に特に訳はありません。報告・連絡・相談は早い方がいい。それだけの理由です。ああ、そう言えばレオ国の辺境の村でロッシでしたか? それに似た色白で青目の青年の目撃情報があったとか..」
「本当か? 娘は居なかったのか?」
「はぁ、われらの白亜捜索隊が辺りを探しましたが、残念ながら.. ですが捜索は継続中でございます。何かわかりましたら、迅速にお知らせいたします」
・・・・・・
・・
—ギプス港にはブルゲンからの船の使用許可を待つ結月と部下が待っていた。
結月は白亜の幹部だというのに、ブルゲンは椅子ひとつも用意せず、立ったまま待たせていた。部下が椅子を用意するも『立って待っていろ。と言われましたので..』と座ろうとしなかった。
そして腹を突き出し横柄な歩き方でブルゲンはやってきた。
「この私がわざわざ取り計らってやったんだ。ありがたく思え」
「はい。ありがとうございます」
「まったく.. 目が見えぬこんな娘などの手を借りずとも、『時の加護者』など我らブルゲンが居れば事足りるだろうに.. ハクア様は何を考えているやら.. ええい! 目障りだ、さっさと行け!」
それは到底、幹部に対する言葉遣いではなかった。 さらにブルゲンはベルサ号の舷梯に向けてユヅキを小突いたのだ。
「あっ!」
その勢いでユヅキは躓き転んだ。
「何をする!」
ひとりの白亜の兵隊が声を出した。
「なんだぁ.. 貴様は。ただの雑兵が.. 生意気な」
ブルゲンの瞳が黒い玉のように変化した。
「おやめなさい、私は少し長旅によろめいただけです」
そういうと手探りをして部下の手を取った。
「ふん。お前がハクア様のお気に入りでなければ.. シィィ」
ブルゲンの喉が鳴っていた。
ユヅキは兵士の手に曳かれながら舷梯を登り船に乗った。
ギプス港から船が離れ、汽笛が鳴った。
「あの野郎..」
悔しそうに兵士が呟く。
「いいのよ。いつも言っているように私は慣れているから」
「だからといって悔しくないのですか?」
そう憤る兵士の拳に再び手を重ね、ユヅキは優しい声で言った。
「ううん。いつも代りにあなたが怒ってくれる。私はそれで十分。ありがとう、マジム」
***
—— 一方、ギプス国境を前にした私たちは..
「さぁ、ライン、ソックス、あんな関所なんて蹴散らしちゃいなさい!」
[ きゅ きゅっきゅー ]
暴風は関所の門を吹き飛ばし、そこで見張りをしていたギプス兵と白亜兵8人も草むらの中へ吹き飛ばした!
「アカネ様、あいつら死んでないよね?パパが命は大切だって..」
ライラが心配そうに私の顔をみつめる。
「大丈夫だよ! 風で吹き飛ばされただけだから! さぁ、ソックス、このまま王都まで突き進んで!」
シエラの乗ったラインが横に近づいた。
「アカネ様、まるで、荒くれ者ですよ! あのジェラって奴の悪影響ですね」
「ははは、そうかもね! 私もアウトローってやつの仲間入りね」
そうだ。 どうせ、私には『王殺し』という悪名がついているんだ。 なら、この悪名を利用してやる!
そんな私の顔をライラが再び覗き込むと、息を胸いっぱいに吸い込み大きな声で叫んだ!
「ソックス! 行っけー!!」
ソックスとラインは土煙をあげながらスピードをあげた!




