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20.助っ人メイドと皇子

「皇子…こんな夜にどうされましたか、ベッドで眠る時間でございましょう?」


トタトタと走り寄ってくる皇子。

そしてギュッとエメルの足に抱き着いてくる。


エメルに会いたくて部屋から抜け出してきてしまったのだろうが…

これは困ってしまった…


「先ほども申し上げた通り、私は皇子のお母様では…」


そんなエメルの言葉も皇子のつぶらな瞳で遮られてしまう。


「そんなに似ていますでしょうか…?」


期待の眼差しに圧されてしまうエメル。

一瞬シュンとする皇子であったが、何かを思いついたようにエメルの手を引いた。


「こっち!」


そう言って城の中へと招き入れとある部屋へと連れて行かれた。

そこは歴代の王妃らしき肖像画が並べられている部屋であった。

大変興味深いのでじっくり観たい所ではあったのだが今は皇子の方が優先だ。


ずんずん進んで行って指をさした先…そこにそれがあった。


見せられた絵には美しいドレスを身に纏った今のエメルと瓜二つの姿…

これでは 皇子がエメルを母と思ってしまうのも仕方が無い。

じっくり見定めるが何処か見たことがある絵…

それは勿論この絵を見たことがあるという意味ではない。

絵のタッチに見覚えがあるのだ、そして気が付いたのであった。


(なるほど、これは…)


この肖像画まであるのにエメルの姿に見覚えがある人間がこの皇子しかいなかった理由。

悠久の歴史に名を連ねる皇妃たちに埋もれた側室の一人…

そして、その中でもこの絵は…

言ったら悪いが少々盛っている。


いや、エメルが本物を見たことが無いだけで実際はかなりの改変があったのかもしれない。

本人を知る人間からしたらわからないのも当然なのだろう。

この肖像画の人物は人間は実在しないのだろうから…


サレツィホール侯爵家では聞いたことが無いが、肖像画が実際とは別人になってしまうというのはよく聞く話だ。

その改変を行った絵描きの技量もかなりの物とあっては実物を知らない人間からすれば本物と勘違いするのはしょうがない事。

だがだからと言って、母の顔を知らぬ子供にこれは全くの別人であるという真実を突きつけてどんな意味があるというのか…?

そして、そんな肖像画の中だけに存在した母の姿をした人間が目の前に現れたら?


………ハァ。


ため息一つついて皇子に向き直る。

そして握られた手を見る。


「あら…少し手を擦りむいていますね?」

「かくれんぼの時に…」

「そうでしたか、気が付かずに申し訳ありません」


エメルは膝を折りその手を握り祈りを捧げた。

するとその手がぼんやりと光を放ち擦りむいた手がゆっくりと治っていった。

それに驚く皇子…回復魔法を見たのは初めてだったのかもしれない。


「毎日ロアリス様へのお祈りを欠かさなければ皇子も使えるようになりますよ」

「はい」


素直に返事をする皇子に、きっとこの子は夫の様な祈りをサボろうとする人間にはならないだろうと感じる。


「さあ、そろそろお部屋に戻りませんと…」


エメルがそう言うと今度はキュッと手を握り固まってしまう。

そんな皇子をそっと引き寄せ抱いてあげる。


「まぁ…重くなりましたね…」


エメルそう言ってクスリと笑うと、皇子はエメルの首にまわした手に力を込めた。

そんな皇子の背中をポンポンと叩きながら部屋を後にする。


(さて、皇子の部屋は何処なのでしょう?)


そんな事を考えつつ、皇城の廊下をうろついて人を探す。

しばらく歩いていると皇子の身体が脱力してくるのが分かる。

きっと、眠りにつこうとしているのだろう。


そして、ようやく見つけたのはエメルの姿に驚いたメイド長の姿であった。


「エメルさん…これは…」

「お母様に会いたかったようですよ…?」

「お母様…?…あなた」


何かに気が付いたメイド長へ皇子を引き渡す。

エメルを掴もうとする手をゆっくり引き剥がし耳元で囁く。


「おやすみなさい…フォズ…」


そういって、頬にキスをしてやるとフォル皇子は完全に眠りの世界へと旅立ったようであった。

皇子を任されたメイド長は何か言いたそうであったが…


「あなたは会場に戻りなさい」


それだけ言って皇子を抱き去っていった。


エメルはそれを見送り…そしてまた一人となった。

再び夜の闇がエメルを引き込もうとする…

しかし、今度はそれに従う事はない。

夜の闇も月を隠す雲が晴れれば自分を見失う事は無いのだ。


先程までフォル皇子を抱いていた腕の感触に、ふと昔母から教えてもらった記憶が思い出された…

それは王国に古くから伝わる歌。

自然と月の光に抱かれその歌を口ずさむ…



― どれだけの物を見せられるでしょうか ―


― どれだけの物を贈れるでしょうか ―


― お腹を満たし眠るあなた… ―


― 花の香に小鳥のさえずり… ―


― 頬を撫でる風は金色の麦穂を揺らす… ―


― この世界をあなたに贈りましょう ―


― あなたを抱くその心であなたを手放すその日まで ―


― だから今はどうかお眠りなさい ―



それはなんてことの無い子守唄。

しかし、それを母から初めて教えてもらった時…

何故だか懐かしく感じたのだ…


例え姿が違えど、その記憶…それは確かにエルシャの心の中にある。

女神に祈りを捧げるその心も、夫に会いたいというこの気持ちも…

だから私は…エルシャは確かにここにいるのだ。


パチパチパチ…


そして、一人きりであったはずのその場所から拍手の音。

ドキリとして振り返ると…そこにはずっと会いたかった人の姿。


「素敵な歌ですね…こんな場所で一人でどうしました、お嬢様…?」

「ケヴィン様…」



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