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25.追放令嬢とケイトの過去

 子供たちに絡まれながらも馬車を走らせ村長宅へと到着。

二人で昨日の突然の結婚式の謝罪とお礼をすると集まってきた村人たちから再び祝福された。


「またケヴィン達の悪だくみかと思ってたんだが…」

「嘘でしょケヴィン…アンタその子にどんな脅迫したのよ…!」

「え?みんな本当に信じてるの?俺まだ疑ってんだけど」

「偉いべっぴんだな…んで本当は?」

「あんた、騙されたんじゃないのかい?いいかい、何かあったらすぐに言うんだよ?」


色とりどりの祝福の言葉たち…

村長宅から出る際には村民たちからお祝いだと言って様々な野菜や鳥肉などを送られた。

ケヴィンの背中が少ししょんぼりしている様に見えるのはきっと気のせいだろう。



 馬車はそのままロアヌ山脈のある山の方へと向かった。

道の周囲には昨日食べたお米が取れるという田んぼが広がっており、今は田植えも終わった時期なのだそうだ。

「来年はエルシャもやってみるといい」と言われ何のことだか一瞬わからず「来年?」とキョトンとしてしまった。

その表情をケヴィンに笑われ恥ずかしい思いをするエルシャ…

ここに来てまだ二日目なのだから慣れないのはしょうがない。


「今度はどちらへ?」

「見せたい場所があるんだ」


 そう言って楽しそうに馬車を走らせるケヴィン。

エルシャにはその姿が本当にこの村が自慢なのだと感じられ素直に好感が持てるのであった。


 なだらかな傾斜を登っていき、次第に周りの景色も田畑から木々へと移り変わっていく。

涼しい風も新鮮な空気も箱の中では感じられないものだっただろう…


馬車に揺られながらエルシャはふと気になっていた事を聞いてみた。


「ところでケヴィン様…ケイトとケヴィン様はどのようなご関係で?」

「?…どのようなも何も、普通に子爵家嫡男とその家の使用人って関係だけど?」

「それにしては親しそうでしたので…」

「………嫉妬?」

「単純に気になっただけです。

私は貴族として嫁いできたのです、以前より関係があったお二人を邪魔するつもりはありません。

ただ、跡継ぎ問題になるようでしたら困りますので事前に関係を把握しておきたいだけです」

「ああそういう…がっくし」

「???」


 正直エルシャとしてもこんな事はあまり詮索はしたくなかったのだ。

だがそれで失敗した経験上事前に把握したくもあるのだ。

そして、ついでに言うと女好きそうなケヴィンが仲のよく気立ての良いケイトに手を出さないというのが信じられない。

勿論それは口に出して言う事はないが…


「ケイトに関してはそれはないかなぁ…」


 ケヴィンから出たのは否定の言葉、てっきり好みではないという事なのかと思ったがそうではないようだ。

語られたのはケイトの過去であった。


………

……


―――――――――――――――――――――――


 ケイトは元々はこの領の人間ではなかったそうだ。

そして、とある村で育ったケイトには祖父母、両親、そして姉が一人の家族がいた。

裕福とは言えないまでも幸せに育ったが…

ある日、その村が盗賊団の襲撃に会ったのだ。


 祖父母も両親も殺され、姉と一緒に森へと逃げたケイト…

しかし、姉は男たちに捕まってしまった。

茂みの中に隠れていたケイトは見つからないように必死に身をひそめていたが…

その時に見てしまったのだ、男達に弄ばれる姉の姿を…


 その後、男たちに連れて行かれてしまった姉。

当然ケイト一人で助けに行けるわけもなく助けを呼びに一人森の中を彷徨ったのだ。

そして、そこで偶然出くわしたのがケヴィン達の冒険者パーティだった。

その時のパーティはケヴィンの親友とアネスの三人だけのパーティだったが、血の気の多いケヴィンが駆け出してしまい「やれやれ」と他の二人もついてきた。


 そして到着して盗賊団を討伐してみたものの、ケイト以外に生きている人間はいなかった。

そして、ケイトの姉もボロボロになり打ち捨てられていたのだった…


 たった一日で家族も住む場所も失ったケイト。

しかし、近くの街の冒険者ギルドに相談してみるものの、仕事自体見つからないため実質保護できないといわれてしまった。

かといって冒険者としてやっていくのは簡単な事ではない…


 目の前で姉を男たちのおもちゃにされたケイトは男というものを怖がるようになっていた。

そんな彼女が男だらけの冒険者としてやっていけるわけもない。

行き場の無くなったケイトをフレポジェルヌ家の使用人として引き取る事にしたのだ。


「ケヴィン様には普通に接してらっしゃるように見えますが…?」

「だからうちらはケイトを家族として受け入れたんだよ」

「家族…ですか」

「ああ、俺も妹の様に思ってるし親父も娘の様に扱ってる…流石に家族には手を出せないだろ?

それだからケイトも俺達を受け入れてくれる、まあそんな感じだ」


 一日で全てを失った少女…思わずあの日全てを失った自分とを比べてしまう。

勿論エルシャの家族はいまだ健在だ、どちらが不幸かなどという不幸自慢など悪趣味な事もするつもりはない。

だが、彼女が今笑っていられる、その強さは敬意を示す必要があると思えた…


「もし、ケイトの事を考えてくれるなら…あいつのお姫様でいてあげてくれないか?」

「お姫様?」

「昔、姉とお姫様ゴッコでよく遊んだんだと…姉がお姫様で妹のケイトが使用人…ブー垂れてたよ」

「そうでしたか…」


それは悪い事をしたなと思うエルシャであった…

使用人の心情などより主の立場を優先させるべきであるが、夫の頼みという免罪符があるのならばそれくらいの妥協は甘んじて受け入れようと思うのだった。


………


そして馬車は目的の場所に着いたのだった。


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