12.追放令嬢と政略結婚?
開始こそ完璧に行われた結婚式であった。
しかし終わった後は、まるで舞台のハリボテが倒れてしまったかのような…
一言で言ってグダグダであった。
オロオロとする村人達、「この後ってどうすればいいんでしたっけ!?」とケイトたちが混乱しながら走り回る。
エルフ達は予定と違うと怒りながら定時過ぎてるからという長命種らしからぬ理由でとっとと帰ってしまった。
そういえば、王都に公演に来たエルフの楽団達もエルシャが挨拶に行こうとしたら既にいなかった記憶がある。
どうやら、街に慣れていないエルフは暗くなると木のない所では落ち着かないらしい。
「んじゃ、とりあえずブーケトスだけでもいっとくか?」
という、ケヴィンの一声でオーと沸き立つ村人たち。
このブーケトスにもひと悶着あったのだが…
集まったのは二人の女性とまだ成人していないとわかる子供達であった。
なぜそんなにブーケを欲しがる女性が少なかったかというと、この領は女性が成人すると即座に多数の縁談が申し込まれるほど売り手市場なのだとか。
問題はその女性二人なのだが、アネスとシスティーナだったのだ。
二人の覇気にまだ小さい女の子たちは既に負けを認めていた。
ちなみにエルシャが初手で投げたブーケがケヴィンの顔に直撃してしまったのだがわざとではない。
「やっぱり…」という声が上がったがただ単に後ろ向きに投げろというオーダーにうまく答えられなかっただけだ。
…エルシャもケヴィンに謝罪したのだが「慣れてるから大丈夫だ」という何とも聞きたくなかった返答に先行きが不安になるのであった。
魔法禁止の淑女協定が結ばれブーケがリングに投げ込まれるとソレが始まった…
杖と錫杖がぶつかり合う音が鳴り響く。
………え、武器有りなの?
聡明な女の子たちは危険を感じダッシュでその場を離れた。
ブーケを取ろうと手を伸ばしその手を払い衝撃でブーケがまた空を舞い…
武道の心得など皆無なエルシャには目で追いきることはできるわけもなく、ただブーケが空中を漂う不思議な光景を呆然と眺めるだけであった。
しばらく続いた勝負はブーケが遠くに飛ばされたことで決着がついた。
ブーケめがけて二人がダッシュをするが、アネスの加速の方が早い。
結局、半分くらい花の散ったブーケはアネスの手の中にあった。
それをみた観客たちがわぁ!と声をあげ会場が歓声包まれた。
夕日に向かって泥まみれのアネスが高々と勝利を宣言する。
だが、そこですかさずシスティーナから物言いを入れた。
どうやらアネスが最後に身体強化の魔法を使ったということで反則だというのだ。
協議の結果ケヴィンがアネスの反則負けを宣言し、結局ブーケはシスティーナの手に渡った…
………
………
………ナンダコレ?
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ケヴィンが奢りを宣言したため新郎新婦が子爵家邸へ戻るときには既に村人たちの酒盛りが始まっていた。
笑い声が遠ざかる馬車の中でケヴィンとエルシャは二人きりとなった。
エルシャは苦笑いを浮かべながら語り掛ける。
「アネス様とシスティーナ様…すごかったですね」
呆れ顔のケヴィン。
「ああ、あの二人婚約者いるのにようやるわな…というか、そもそも結婚相手同じ相手だっつーの」
「…はい?システィーナ様に婚約者がいらっしゃるとは聞いておりましたが、同じ相手なのですか?」
ケヴィンは確かエルシャより10歳近く年上でその姉であるアネスは、行き遅れと言われてしまうかもしれない年齢のはずだ。
それなのに結婚を待たされるというのは少々不誠実に思えるが…
「他にも婚約者がいる奴なんだが、その婚約者の中にどうしても正妻にしなけりゃならん人がいるんだ。
その人が成人になるまで待ってるから結婚はお預けってわけ。もう少しの辛抱だけどな」
なるほど…どうしても正妻にしなければならない、しかも自分より高位で子爵家の令嬢であるアネスや司教であるシスティーナを待たせる必要があるほどの地位を持った人間。
どうやら好奇心でその人物を聞き出そうとは思わない方がよさそうだ。
しかし気になることが一つ…
ケヴィンの言い方から察するに婚約者は他にも複数いるという事なのだろう。
政略結婚なのだろうとは理解できるが…何とも節操のない殿方ようだ。
女好きという先入観を持ってしまったエルシャにとってはあまり会いたいと思えない。
ただ、ケヴィン達と親交が深くかなりの権力者であると伺えるため交流を持たないという選択肢はない。
実家と夫の家をつなぐ妻としての仕事であると割り切ることにした。
ただ、わからないのがアネスとシスティーナである。
政略結婚だと割り切って婚約者を増やしているならばわかる。
だが、そんな人が二人がブーケバトルを繰り広げる程に魅力のある方なのだろうか…?
アネスもシスティーナも地位やお金で簡単になびく人物には思えないのでなおさらだ。
首を傾げてしまうエルシャであった。
ともあれ人の事よりまず自分だ。
女性関係の緩い友人がいるという事はケヴィンについても注意する必要がある。
ある程度であれば瞑ることはあっても、節操なく側室を取るとなると侯爵家の面子にもかかわる。
まずはこの家での正妻としての地位を確かなものとしなくては…
「こちらの都合で突然式まで挙げさせてしまい申し訳ありません。
それと度々のお気遣いにも感謝いたします」
「ああ、いいっていいって。なにせ夫婦になったんだからな、このくらいの事気にすることないぞ」
鼻を膨らませながら答えるケヴィン。
ケヴィンにとってはこの結婚は満足いくものだったのだろう。
それはそうだろう、なにせこの辺境の子爵家が侯爵家との関係が構築できる結婚を結ぶことが出来たのだから。
「父には事の次第を伝え最大限の事をしていただけたと報告いたしますので」
「?…ああ、そっかエルシャの親父さん侯爵様だったっけ。
結婚前に挨拶したかったんだけどなぁ。落ち着いたら顔をだそうか」
………え?
そのケヴィンの言葉に違和感を覚えるエルシャ。
それもそのはず、エルシャは"侯爵家の娘"としてこのフレポジェルヌ家に嫁いだはずなのだ。
それはつまり侯爵家のとの関係を作るための政略結婚という事。
しかし、ケヴィンはまるでエルシャが侯爵家の娘であることを気にも留めていないように見える…。
これではまるで政略結婚ではなく、単なる厄介払いではないか…そんな不安が胸中に広がる。
…ふっと、自分の手がケヴィンの手に包まれたのを感じ、ハッと気が付いた。
「今日は到着した途端バタバタすることになって疲れただろ?
帰ったらまず旅の疲れを癒してくれ」
エルシャは自分が震えていたことに気が付いた。
そんなエルシャを見て優しい言葉をかけてくれるケヴィンはきっと悪人ではないのだろう。
エルシャは作り笑いで「ありがとうございます」と感謝を伝える。
するとどうだろう…
たった今、優しく語り掛けてくれたケヴィンの顔が一瞬にしてデレッとしただらしない顔に変化してしまったではないか…
(…本当に大丈夫なのだろうかこの人。)
その変化に笑顔を必死に維持するも頬をヒクつかせてしまうエルシャだった。
馬車は程なくして子爵家の邸宅に到着する。
すっかり日が暮れ、邸宅から漏れる魔導灯の光が際立つ。
魔導灯は決して安くはなく、侯爵家ならまだしも田舎の子爵家などではあまり常用している家は少ないだろう。
だが、フレポジェルヌ家には賢者がいるので手に入れるのも用意なのだとか。
「暗いから足元気を付けてくれ」とケヴィンに手を引かれながらエルシャ馬車を降りる。
………
………
………
そこには鬼のような形相の二人の人物が待ち構えていた。
「「いつまで納屋で待たせるつもりだ!!」」
………あ、忘れてた。
待ち構えていたのはケヴィン達から塩対応を受けた、侍女と騎士であった。




