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キスマーク4つ。並べば誰もが察する毒

「うぅ、凄い視線……」

「そう? 私たちはいつもこれくらいだけど」

「お姉ちゃん、スーくんはいつもこんなに視線を浴びないから」


 のののの姉妹が登校してくると、ワッと生徒が盛り上がる。われ先にと挨拶したり、遠くから無言で見つめる、それぞれの朝のスタイル。


 今回は僕もその注目の的にいた。


「おい、真ん中のって誰だ?」

「知らねっ。誰だアイツ」

「理由は分かんねえが、のののの姉妹と一緒に登校とか羨ましいぃぃぃぃぃ!」


 うん、僕には疑問と嫉妬の視線だった。

 ポッと湧き出た凡人高校生がみんなの憧れのののの姉妹と登校していれば、そりゃ、注目を浴びるよな。二輪の花の横に目立たなく生える雑草といったところだ。


「スーくん大丈夫?」

「あ、うん。こんなに視線を浴びるのは初めてだけど、乃寧と希華がいるから少しは平気だよ」

「全く……誰が誰と登校しようが自由なのに、騒ぎすぎだと思わない?」

「そ、そうだね」


 ここで会話が終わる。


 双子姉妹とまた以前のように関われるからといっても、そもそも異性慣れしていないせいで緊張してしまい、会話が続かない。果たして彼女たちは、こんな僕と一緒にいて楽しいのだろうか……。


「ねぇ涼夜、もし何か言われたら首筋のソレ、見せつけてやりなさいよ」

「へ?」

「逆に私たちが見せようか? スーくんが付けてくれたぁ……キスマーク♪」

「き、キスマーク……っ」


 その言葉を聞いただけで、僕の首筋にある2つのキスマークが熱く疼き、胸が高鳴る。


「あっ、顔が赤くなった。スーくん可愛い……」

「いいのよ、私たちは全然見せつけてもらっても。なんなら明日からは第一ボタンを外して登校しましょうか」

「お姉ちゃん意地悪〜。そうなれば、見えちゃうね。くっきりと赤黒く付いたぁ私たち3人のキスマーク」

「っ……」


 僕だけに小声で囁く乃寧と希華。まるで弱みでも握ったようにねちっこく、そして身体中を侵食するように艶かしく。


 教室に着くまでの間も周囲からの視線は変わらず多く、普段、同じ学年との交流しかなかった僕には居心地の悪さを感じた。


 乃寧と希華と別れ、教室にたどり着つくと、一斉に見られた。


 ……うん、わかってたさ。ここに来るまでに散々見られてたから、ここでもこうなるんだろうって事はさ。でも、こうまでガン見されると流石に居心地悪い……。


 そんな中、近づいてくる人物が1人——


「こんの裏切り者めっ!!」

「オウッ!?」


 すぐの裏切り者宣言に思わずお腹に正拳突きをくらい、セイウチみたいな声を上げてしまった。


「開口一番にいきなり裏切り者なんて、失礼なご挨拶だな、翔吾」

「裏切り者に裏切り者って言って何が悪い!! 朝からのののの姉妹と仲良く登校なんてしやがってぇ〜!」


 肩に手を回し、もう片手で頭をぐりぐりされてしまった。


「いたいっ、痛いよっ」

「もっと苦しむんじゃ! 全男子の怨念じゃ! そもそもなんで——」


「おはよう」


 そんな僕のやり取りを気にすることなく挨拶してきた生徒がいた。


「み、美咲……おはよう」

「んぁ? おう美咲おはよ」

「おはよう涼夜、翔吾。朝から元気なのはいいが、そろそろジャレつくのはやめた方がいいよ。君たちが付き合っていると思われてしまう」

「「それだけはごめんだわ」


 翔吾とハモる。

 美咲の発言のおかげで翔吾が離してくれた。心は汚れだが。


 美咲柚子(みさきゆず)

 ショートカットの髪に、切長の瞳。シャツの上からパーカーを着ている。顔は整っており、のののの姉妹に劣らないほどの美形。

 基本的に発言も風貌もカッコいい女子って感じで、のののの姉妹が綺麗な女性として崇められているのなら、美咲はカッコいい女子として密かに人気を博している。


 そして滝谷翔吾(たきたにしょうご)。去年、同じクラスになってからの親友もとい悪友だ。

 

 この2人と僕はいつも絡んでいる。


「んで、なんでのののの姉妹と登校して来たんだ? そもそもどんな関係なのよ」


 この質問はされるとは思っていた。けれど、結局なんて言おうかは決めてなかった。


 ただの幼馴染といえば、何故今まで関わらなかったとかという次の質問が飛んでくるし、それ以外の意味深な関係と答えれば、さらに学校中の話題になる。


 そう悩んでいる時、美咲が僕の肩にポンっと、手を置く。


「翔吾、涼夜が誰といようと勝手だし、のののの姉妹にしてもそれが言える。あまり人のプライベートを無闇に聞かない方がいいよ。そういうのは本人が話したい時に聞けばいいし」


 言い終わると、僕にウィンクした。


 危ない。

 思わず、「お前は女神かっ!?」なんて口走る所だった。


「まぁそうだな。その時がきたら頼むぞ、涼夜。明日にでもいいからな! そんな事より、これから大変だな涼夜くぅん〜?」

「そのニヤけ顔ぶっ飛ばしたくなるな」

「ははっ、そんな事が言えるなら大丈夫だな!」


 どうやら一応は心配してくれていたらしい。……まったくこの2人は変わらず、いい人だよ、ほんとに。




 次の時間は体育だ。

 更衣室にて、当たり前だが体操服に着替える。


「涼夜、着替えたか?」

「あ、うん……着替えた着替えた」

「……?」


 ふう、危ない危ない……。もう少ししたらキスマークを見られるところだった。


 ふと、キスマークがある左右と場所を体操服越しに撫でる。


 この2つを見せれば確かに説明はいらないよな……。

 

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