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のののの姉妹を見分けられない。顎、首、鎖骨……そして——

「…………の?」

「………だって……」


 何やら声が聞こえる……。


「私もちゃ、ちゃんとできたよ? そういうお姉ちゃんだって男慣れしてないじゃん」

「当たり前よ。涼夜以外興味ないもの」

「わっ、私だって……」


 ………? …………?


 なんの話だ? 一体何を……。


 耳元と身体の心地よさを感じ、ぼんやりと目を覚ました。

 

 いつの間にか眠ってしまったらしい。部屋は薄暗く、もう夕方なのだろう。


「……? 今、スーくんの身体がビクって動いたような……」

「寝たふりってこと? じゃあもう一回——」


 何やら起きないとヤバそうな感じがしたので恐る恐る瞼を開けた。

 

「あ、おはよう。起きたんだね」

「もう少し寝顔を堪能したかったわ」

「おはよう……」


 ……身体がやけに怠い。まぁ寝起きだからだろう。

 

「ん? 身体がやけにスースーする……え、なんで上半身裸っ!?」

  

 着てきた黒シャツはどこに!? それに乃寧と格希の格好も寝巻きなのか、薄着になっていて……。


「涼夜、色々と聞きたいことはあると思うけど、今はただ気持ちよくなることだけを考えて。悪いようにはしないから」


 気持ち良くって……まま、まさかお礼は身体でって事!?


「そ、そういうわけには……っ!?」

「お姉ちゃん、さすがにちょっとくらい説明しないとレイプになっちゃうよ」

 

 希華がぐいっと僕の手を引っ張ってきた。つられて、僕の顔と希華の顔が近づく。

 端正に整った顔立ち。女の子らしいいい香り。

 至近距離でそれらを感じてしまうと、思わず魅了されてしまう。


「スーくん、あの時私を助けてくれてありがとうね」

「あ、うん……」

「スーくんは今、好きな人いる?」

「え? あっ、いないよ」

 

 すぐに我を取り戻す。

 一瞬、その綺麗な顔と声に隙を取られていたけれど、かなり危なかった。


 すぐにでも顔と顔を離すべきで、そうなると、引き寄せられている手を離してもらわなければならない。

 しかし、手を離してほしい……なんて素直に言うのは流石に失礼だろう。彼女を傷つけてしまうかもしれない。力任せに振り払うなど、なおさらだ。


 そうして戸惑っていると、希華は更に微笑みを強め、手をさらに引き寄せた。その右手が、胸に触れるか触れないか。というほどギリギリの距離で、僕はむやみに動かすことすら出来なくなってしまった。


「スーくんに遠ざけられた時にね、私、嫌われたんだと思ったの。だからね、これ以上嫌われないように私も遠ざけて……。でもね……違って良かったっ」


 目に薄っすら涙を溜め、満面の笑み。

 こんな事言われたら、余計離れられない。


「スーくんは私の事好き……?」

「……え」


 好きって、幼馴染としてなのだろうか、それとも異性としてなのだろうか。

 後者だったらすごく重大な気がするのだが……。


 返事に困っていると、耳元でふぅ~っ、と甘ったるい吐息が掛かった。


「うひゃっ!?」


 背筋をゾワゾワッと悪寒に似た感覚が駆け上がり、思わず声を上げてしまう。


「可愛い悲鳴ね。希華、そのくらいにしときなさい」

「いいところだったのに……」

「いきなり攻めすぎよ。涼夜が困るじゃない。ねー、涼夜」

「あ、うん……乃寧……"さん"?」

「ん、その呼び方、あまり好きではないわ」

「……え?」


 一瞬、分からなかったが、時間が経ち理解。


「あ、違うんだっ。その、前まではさん付けで……」


 唇をちょこん、と尖らせて不満そうにしている乃寧に説明する。


 下手に呼び捨てにすると関係性が疑われかねないと思ったから、クラスメイトとの話題にあがった時は、さん付けで話していた。


「これからはちゃんと呼び捨てでね?」

「う、うん……もちろんだよ乃寧」

「それとさっき、名前を呼んだ時、疑問系だった気がしたけど何故かしら?」


 ……やっぱり気づかれてしまったか。


 一瞬、どっちがどっちか分からなくなったのだ。


 双子とあって、乃寧と希華はよく似ている。学校では髪型で区別できていた。

 しかし、今の2人は髪を下ろしており、見た目だけだったら、一目では分からないほど似ている。


「スーくん?」

「いや、その……髪を下ろした2人ってすごく似てるから一瞬、見分けがつかなかったなーと。あはは……ま、まぁ今は声で判断しているけど」

「ふーん、幼馴染なのに見分けられないんだぁ」

「ゔっ……ごめん……」


 遠ざけていたから、学校以外での付き合いはもちろんしていない。つまり、学校での見分けがつく髪型しか見慣れていないから、こうやって同じ風にされると見分けられなくなったのだ。


「まぁ《《アレ》》をするには丁度いいかもだけど」

「そうだね」


 乃寧と希華が顔を見合わせて頷き合った。何かを企んでいるようにニヤッと笑う。


 すると、乃寧の方がんんっ、と声を整えたと思えば……。


「涼夜、少し目を閉じて」

「え、こう?」

「そうだよ、スーくん。……よし、目を開けていいよ」


 10秒くらい目を瞑らされ、開く。

 一体何のために……。


「さあ、どっちが希華でしょう?」


 僕から見て右側が口を開いた。


「え、今声を出した方が希華じゃないの?」

「酷いよ、スーくん。私が本物の希華なのに……」

「!?」


 同じ声が2つ……乃寧の方が真似しているのか。


 声もそっくりとなれば余計判断できない。


 体つきもそっくりだ。

 身長は……座っているから分からない。

 巨乳、それに対して引き締まったウエスト。すらりと伸びた手足……どれも似ている。


「はい、時間切れ〜。私がニセモノの希華でした〜」


 右側の方が言う。

 こっちが乃寧か。

 そして猫が主人の膝の上に乗る様に、スルリと僕の懐に入り、僕の頬を透き通るほど真白な指で抑えた。


「むぅ。スーくん、私が本物って当ててくれないなんて……」


 左側の方も動く。

 僕の首筋、鎖骨の辺りに顎を乗せて耳元で囁いた。


「だ、だって似てるんだもん……」

「じゃあ簡単に見分けられる方法を伝授してあげましょうか」

「本当!」

「うん、とっても簡単に見分けられるよ。……一瞬でね?」


 双子姉妹を見分けるポイントなんてあったんだな。是非とも教えてもらいたい。

 

「じゃあ始めるわね」

「お願いします……って」


 片手は乃寧が、もう片方は希華が僕の手の指に自身の指を絡ませてきた。いわゆる恋人繋ぎ。


 何故こんなことをするのだろうか?


「まずは準備運動といきましょうか」

「ちょっとくすぐったいかもだけど、我慢してね?」

「我慢……?」


 さらに意味がわからない言葉を囁かれる。だが、その意味はすぐに分かった。


 繋いだ手はそのままに、2人は僕の頬にキスをした。それから顎、首、鎖骨と跡をつけるようにキスを落としていく。

   

「な、なな、なにしてるの2人とも!?」


 僕が驚きの声を上げると、止めてくれた。


「そりゃ、キスマークつけるための準備運動よ」

「キ、キスマーク!? なんで!?」

「だってスーくん、私たちのこと見分けられなんでしょ? それなら、私たちにキスマークしてもらえば一瞬で分かるよね?」

「仮に僕がつけるとしても、なんで今、2人が僕にしようとしてるの!?」

「だって……」

「「——先にお手本を見せないと」」


 両耳から囁かれる。

 頭の中に蜂蜜を流しているように甘く。


 そしてほんの一瞬。


 ——チュパッ


 リップ音とともに、左右の首筋から唇が離れた。


「……綺麗にできた」

「これならしばらくは消えないわね」


 2人は艶かしい顔で満足気に頬を緩める。


「それじゃあ次は涼夜の番よ」

「つけて……私たちにハッキリと跡……つけて」


 ねだるように、懇願するよに上目遣い。ウルウルと濡れる瞳は決して僕を離さない。


 ズルい……ズルすぎる。


「んっ……」

「っ……」


 小さな声が漏れる。


 唇を離すと、軽いリップ音が響く。

 色白の綺麗な首筋には目立つように少し赤黒いキスマークが綺麗に付いていた。


「……これでお揃い」

「今度はちゃんと見分けられられるでしょ? 右のキスマークは乃寧で」

「左のキスマークは希華。スーくん、一瞬で分かるよね?」

「……う、うん」

 

 こんなの、見分けられるっていうか、僕がキスマークを付けたという背徳感が……。


 しっかり記憶にこびりつく。

 これが2人の狙いだったのかな。


「それと今日は涼夜のご両親にお泊まりの許可を取ってあるから……」

「このまま色々しちゃおっか」


 僕はゴクリと生唾を飲む。


「もしかして……お礼ってやつ?」

「まぁ……そんなものかしら。……実はもう終わってるけど」

「?」

「さぁ、夜はまだまだ長いわよ」

「スーくんと遠ざけていた時間……たくさん取り戻したい」


 乃寧と希華が抱きついてくる。

 温かくて落ち着く。僕も再び繋がれて幸せな気分だ。


 というか、僕が起きるまで2人は何をしてたんだろう。まぁそんなのどうでもいいか。




『もうイッたの?』

『お姉ちゃんだってスーくんの舐めただけで2回も……』


 ………

 ………………

 …………………………





 翌朝。いつもは1人の通学路。だが、今日は違う。

 

 最後に来た希華が言う。


「じゃあ行こっか——《《3人で》》!」

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