二輪の花は分裂もする
(希華side)
「「「「まじかぁぁぁ!!」」」」
「「「キャァァァアアア」」」
「「リア充になるならさっさとなれよぉぉおおおお」」
隣のクラスを通った瞬間、悲鳴や歓声、祝福の言葉、罵声が飛び交っている。
そこで私は察した。
……きっと美咲さんがスーくんの事の好きだと言ったんだろう。
クラスがこんなに盛り上がるということは、それなりの人物が関係している。
——美咲柚子さんだ。
ウェストはキュッとくびれていて、脚はスラリと長い。お尻は大きくないが、プリッと上を向いている。ショートボブの整った顔は、誰もが羨む。男子……いや、女子から絶大な人気を集めている。
「千世くんのどんなところが好きなの!」
「好きになったきっかは!」
「おい千世も何か言えよっ!」
……やはり合っていた。
私はそれより先を見ないで窓から離れた。
窓に映った自分が、とても人には見せられない顔をしていたから。
そのまま通り過ぎて目的であったお手洗いへ。
逃げているつもりはない。
私だって……私だっていつまでもお姉ちゃんの背中に隠れていない。
私は1人でも————
「……希華?」
名前を呼ばれ振り向く。だが、希華は何やら考えているの視線をちらつかせ、中々話そうとしない。
と思いきや。
「あのね、スーくん! 修学旅行のことで話があるの。……自由時間あるよね?」
自由時間……ああ、3日目の。
基本、班で行動するが3日目の観光では自由に行動したい人を決めていいとなっている。
「それがどうしたの?」
「その自由時間は私と回って欲しいの」
なるほど。そのお誘いでわざわざ僕が1人の時に来たのか。教室は……ああだもんな。
「いいよ。多分乃寧もなんだろ——」
「ううん。お姉ちゃんはいない。私とだけ……私と2人っきりで回って欲しい。そしてこの事は……お、お姉ちゃんには秘密っ」
「え……」
発言に驚く。
誰かと2人っきりで回りたいというのは別におかしい事じゃない。
希華だからこそ驚いているんだ。
希華はいつも乃寧と一緒に行動することが多い。2人で1つ。二輪の花。
でも希華だって1人で動くよな。
「だ、め……?」
そんな哀しい瞳で見られたら断れない。
「いいよ。希華と2人っきりで回る」
「やったぁ! ありがとうスーくん」
喜ぶ希華を微笑ましく見る涼夜。
そう——秘密。
その会話を姉の乃寧に聞かれていたことも知らず。
「焦りは禁物っていうけど……まぁ焦るわよね」




