背後、背徳、三者そろえば泥沼
「ねぇお姉ちゃん」
「どうしの? 希華」
「……聞いた?」
「ええ、ばっちり」
「……」
「……」
「ねぇ希華」
「なに、お姉ちゃん?」
「聞いた?」
「うん。隠すことなく照れることもなくハッキリと言ったね」
「……」
「……」
「「今、涼夜のこと好きって言った?」」
ニコニコしている柚子の一方で、僕はどんな顔をしているのだろう。きっと何が起こったか分からないって顔をしている……はず。
「えーと……美咲さん?」
「何かな千世くん」
「今からなんの話をするんでしたっけ?」
「わたしが涼夜のことが好きだって話」
「……」
「……」
「僕のことを話すってこと?」
「そうだね。涼夜自身にわたしが涼夜のことを好きって話をする」
「それは……こ、告白?」
「まぁ似たようなものだね」
「……」
どうしよ、表情が全く変わってない気がする……。
「まぁ分かるよ、困惑するのは。突然友達に好きって言われて。わたしも最初は困惑したもん、涼夜のことが友達として好きなのか異性として好きなのか。席替えで近くになれれば嬉しいし、視線が合えば、胸が暖かくなる。話しかけられれば、距離が近くなった気がする。そして何より——信頼している。でも……そんな《《可愛い恋》》はできないって確信した」
「……柚子?」
柔らかな笑みから、ちょっと何かを企んだ笑みに変わった気がする。
少し緊張し、自然と背筋が伸びる。
「涼夜はのののの姉妹と仲が良さそそうだね」
「う、うん……」
「そりゃいいことだ。わたしも嬉しいよ。前まではたまにチラチラ見て、ため息ついて何やら元気なかったようだし」
「えっ!?」
そんな顔で乃寧と希華を見ていたんだ……恥ずかしい。
そういえば……
『翔吾、涼夜が誰といようと勝手だし、のののの姉妹にしてもそれが言える。あまり人のプライベートを無闇に聞かない方がいいよ。そういうのは本人が話したい時に聞けばいいし』
翔吾が僕らの関係を聞き出そうとした時、柚子が言ってくれた。もしや、僕とのののの姉妹が何からしらの繋がりがあるって勘づいていたからあんな事を言ったのかな。
柚子を見ると、彼女はどこかを見ていた。そして、ふっと笑ったと思えば……
「そろそろ店を出よっか。ちょっと出ないと……大変なことになりそうだし」
「え、あ……うん……」
店を出て開口一番。
目の前には不機嫌さを露呈させていた乃寧と希華がいた。




