キスマークの意味は? もう鈍感にさせられない
「さっきまでは何してたの?」
「漫画読んだり……ちょっと寝そうになった」
紅茶の入ったカップをテーブルに置きながら会話する。
どうやら2人は学校を休んできたらしい。
「スーくんこっち」
ぽんぽんと希華がここに座れ、と言うように叩く—— 希華と乃寧の間に空いた、人1人分くらいの隙間部分を。
「えーと、希華? 何故に?」
「スーくんにお話があるから」
「そうよ、涼夜。ちゃんと聞いてもらうために私たちの隣に座らないと」
手を引かれ、間に座らされる。
2人の身体に挟まれ身動きが取れない。
「それにしてもなんで涼夜まで謹慎処分なのかしら。頭おかしいんじゃない、あの教師たち」
「学校側は事を大きくしないように、宥めるの事しか頭にないからだよ、お姉ちゃん。スーくんは何も悪くないのに」
「……あはは」
職員室では互いに話し合いしましょうねー、みたいな感じだった。そして互いに落ち着こうという事で謹慎処分。
あの3人も今頃家……いや、大人しくしてないだろうなぁ。
「話が逸れたわね。あんなクズどもの話題を出すのは時間の無駄だわ」
「でね、スーくん。今日きたのは……スーくんに私たちの事を知ってもらうため」
「え、希華たちの事?」
2人の事なら知っている——
「とりあえず——1回怒るね」
「はい?」
怒る? あの温厚な希華が怒ると言った……え?
すぅと短く息を吸い、希華は言う。
「あんなクズ男に対して『アンタの方がイケメンでお似合いかもしれない』って……スーくん本気で言ってるの? 自分はお似合いじゃないかもしれないって……どれだけ私たちの《《愛》》を舐めてるの?」
怒った瞳。思わず後ろに身を引く。
乃寧が後ろから僕の肩に手を置き、僕の耳元で囁く。
「鈍感な涼夜も私は好きよ? 外堀を埋めて、徐々に墜としていくのもいいと思ったんだけど……あのクズ男と一瞬でもお似合いだというありえない可能性を考えた涼夜には、ちょっと……分からせが必要だと思って」
「分からせ……」
何か不穏な雰囲気。少し怒っているのを感じる。
僕は戸惑う。
心の奥底でまた感謝してもらえると期待していたから。あの日の放課後だって、手当してもらった後、手料理を食べて、遊んでと楽しい時間を過ごした。
けれど、2人は何やら不満な様子。
「ねぇスーくん。そういえばあの返事もらってなかったよね?」
「返事……?」
「うん、私の事好きって言う返事」
『スーくんは私の事好き……?』
マンションに行った時、目に薄っすらと涙を溜めた希華に言われた言葉。あの時は乃寧が耳に息を吹きかけた事で、話題が逸れたけど……
「ねぇどうなの?」
ズイッと希華の身体が近づく。その瞳が僕を流さないとばかりに捉える。
「そっ、その……」
口を濁す。そっちの気持ちはまだよく分からないでいたから。
「希華ばかりにじゃなくて、私の事も好きか答えて欲しいわ」
乃寧までもがさらに近づいてきた。
耳に息が掛かる距離で乃寧と希華に言い寄られる。美人な2人に、学校中の憧れの的に。
「ごめんねスーくん、混乱させて。でもね、そのキスマークの意味を、まだ全然分かってもらえてないから」
「もう貴方を鈍感にさせられないから」
「「スーくん(涼夜)にどれだけ私たちの愛が重いか、分かってもらうね?」」




