二輪の花、幼馴染じゃなくなった僕
双子姉妹とは同じ病院で同じ日に産まれた事がきっかけで昔から家族ぐるみの付き合いをしてきた。
お泊りをしたり、一緒にお風呂に入ったり、旅行に行ったりと家族と同じぐらいの時間を共に歩んでいた。
あの頃は運命共同体と言っていいほどだった。
けれど幼馴染という都合のいい関係は、成長していくにつれ変化する。
双子姉妹は小さい頃からとても可愛かった。それは幼いゆえの可愛さではなく、目鼻立ちなど、とにかく将来有望な可愛さ。
それは見事に当たった。
成長した幼馴染は僕とは釣り合わない高嶺の花になってしまった。
双子姉妹は美人だ。
すれ違った者は誰もが皆、一度は振り返るほどの美女。今まで受けた告白の回数は数知れず。
美人は羨望の眼差しで見られる。誰もが隣の席を狙う。
対して僕はどこにでもいそうな凡人。
こんな僕が双子姉妹の傍にいたら、
『え、なんでアイツが……』
『え、幼馴染なの!? 幼馴染って関係でアイツといないといけないとか可哀想〜』
『〇〇ちゃん達、優しすぎるよね』
疑問を持たれ、嫉妬されることは目に見えてる。いや、実際に言われた。
学校に通うようになれば、多くの人と出会う事になる。当然、僕なんかよりも優しい人はいるし、カッコいい人はいる。それは歳を重ねるごとに増える。
だからこそ、思った。
彼女たちに僕という存在がいることで手を焼かなくて済むようにしよう。これ以上、彼女たちの迷惑になってはいけない。
幼馴染ということは元々なかったことにして、僕は双子姉妹から遠ざかることにしよう。
そう決心したのが、小学6年のこと。今は高校2年になろうとしていた——
「おい、来たぞっ」
校門前、誰かが言う。
怖いと恐れられる生徒指導の先生? サッカー部のイケメン先輩? 超有名なモデル?
いや、どれも違う。
彼らの視線の先は——
「おはようございます、乃寧さん、希華さん!」
「おはよう御座います! 今日もお綺麗ですね」
わらわらと生徒が、今来た2人の周りに集まる。
柏木乃寧と妹の希華の双子姉妹。通称、のののの姉妹だ。
姉妹は、入学当初から二輪の高嶺の花として、全生徒たちの憧れの的。
『涼夜!』
『スーくん!』
僕、千世涼夜は昔はあの双子姉妹と仲が良かった。でも今となっては貴重な体験話。
今日も僕は遠くからその姿を見守る。
話しかけることもなく、ただ眺めるだけ。
うん、この距離でいいんだ。
2人が僕という幼馴染の縛りに合わなくて、自由に生活できる。
もちろん寂しく思う時もある。
けど、この立ち位置が似合ってる。僕は、もろくに話しかけることすらできない男子の1人でいいんだ。
「よしっ、今日も一日頑張るぞ」
そう意気込み、背中を向けて歩いた。
(姉、乃寧side)
「のののの姉妹、マジで美人だよなぁ」
「あぁ。あんな人たちとお近づきになりてぇ」
「それな。俺、マジで狙っちゃおっかなー」
「でも彼女にするにはちょっと高嶺すぎるというか、なかなかさせてくれなそうじゃね?」
「ばっかお前、そういう子をエロエロにするのがいいんだろうが」
吐き気がする会話。
同じ学校制服を身に纏った男子。名も知らない、関わったこともない。関わるつもりもない、薄汚い性欲の塊。
作った笑顔でとりあえず手を振りながら挨拶を返す。よくもそれで顔を赤らめて勘違いできるものだ。
私たちが本当に笑顔になる男子はあの人しかいないのに——
ふと、視界に見覚えのある背中が映る。
嬉しくなって思わず、足を止めた。
「お姉ちゃんどうしたの?」
人見知りな妹、希華は腕にくっついたまま、不思議そうに見上げる。
「……なんでもないわ。行きましょうか」
「うん」
止まった足を動かす頃には彼は見えなくなった。
先ほど瞳に映ったのは、黒髪に平均的身長のどこにでもいそうな男子。でも私たち双子姉妹にとって特別な人——千世涼夜だ。
私たちはいつも3人一緒だった。
けれど、小学6年生の頃から徐々に涼夜が距離を置き始めて……
なんで……なんで避けるの……? ねぇ、涼夜……ねぇなんで? ……なんで?
私はこんなにも《《好き》》なのに……。
◆タイトルはこれであってます(´-ω-`)◆