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第十話 第二のギャル

 久しぶりに夕愛と下校する。ここ最近きぃちゃんという友だちに監視されていて直接会うことができていなかったが、今日は用事があるらしく彼女の目を気にする必要がない。


 公園にある東屋のベンチに並んで腰をかける。


 夕愛が腕を組んできた。その動作があまりに自然だったから『あれ、俺たちって付きあってたっけ?』と頭が混乱をきたした。


 肘に当たる柔らかな感触。押しつけている、わけではない。押しつけるまでもなく当たってしまう。それほど夕愛の胸は豊かということだ。


 しばらくスマホでのみ連絡をとりあっていたため、その感触は余計に俺の本能を刺激してくる。


「――から一緒に写真を撮りません?」

「……ん? なんて?」

「も~、聞いてなかったんですか?」


 聞いてなかった。というか肘に集中してた。


「また会えなくなっても寂しくないように、一緒に写真を撮りませんか、って」

「ああ、いいね、いいんじゃない?」


 きわどい自撮りよりずっと健全でよろしい。まあ肘で乳を楽しんでいた俺が言っても説得力はないが。


 夕愛は腕を伸ばし、フロントカメラをこちらに向ける。


「ほら、もうちょっと近づいて」

「うおっ……!?」


 夕愛がさらに身体を寄せると俺の腕が彼女の胸にふんにゃりと沈みこんだ。


 ――なんちゅうボリュームしてんだ……!


「もっと顔を近づけて」

「こ、こうか?」

「もうちょっと低くして、頬を寄せるみたいに」


 言われるがままに身体を動かした。スマホの画面に俺たちの顔がすっぽりと収まる。


「はい、オーケー。じゃ、動かないでくださいね」


 と、次の瞬間。


 俺の頬に柔らかなものが押し当てられた。画面には俺と、俺の頬にキスをする夕愛が写っている。


「は!?」


 シャッターボタンが押された。


 頬の感触が離れる瞬間、ちゅっ、と音が鳴った。


「はい、お疲れさま」

「な、なん……、はあ!?」

「見てください、これ」


 スマホの画面を俺に見せる。そこには顔を正面に向けたまま、見開いた目だけを夕愛のほうに向けて驚愕の表情を浮かべる俺の姿が写っていた。


「ははっ、あははははは!! なにこの顔! 歌舞伎みたい!」


 夕愛は腹を押さえて爆笑する。


「キスでこんなにびっくりするなんて、誠汰くん可愛いですね」

「だ、だってしょうがないだろ!! 初めてなんだから!」

「頬のキスが?」

「そうだよっ」

「じゃあ口のキスは?」

「あるわけないだろ」


 夕愛は艶やかに微笑んだ。


「じゃあそのうち口の初めてももらっちゃおうかな」

「お前な……!」

「なんてね」


 夕愛はぴょんと跳ねるように立ちあがった。


「はい、お返し完了」

「……お返し?」

「この前わたしの変な顔を撮ったでしょ?」


 そして顔をぱたぱたと両手で扇ぐ。


「あ~、たくさん笑ったからあっつくなっちゃったなあ。――わたし、帰りますね」

「え? あ」

「じゃあ!」


 夕愛はなぜかこちらを見ないまま逃げるように駆けていった。


「急だな、おい……」


 俺は夕愛にキスされた左の頬に触れる。


 月並みだが、しばらく顔を洗わないでおこうかなんてことをしばし真剣に考えていた。





 それから一週間ほどが経過した。『きぃちゃん』の監視はぱったりとなくなり、夕愛と過ごす時間は元どおり――いや、前よりも多くなっていた。


 そんなある日のことだった。


「ちょっといい?」


 四時間目の体育の授業を終え、部活棟近くの水飲み場で水分補給していると背後から声をかけられた。


 振りかえると、そこには知らない女子がいた。リボンタイの色は赤。一年生らしい。


 三白眼の目がじろりと俺をにらんでいる。ピアス、開いた胸元、短いスカート、髪は琥珀色のボブ。どうやら彼女もまたギャル属性の女子のようだ。


 ――めちゃくちゃきれいな子だな……。


 きつい目つき、気だるそうな表情。顔が小さくて頭身がすごく高いし、脚が細くて長い。


 夕愛もきれいだが、愛嬌というか可愛らしさがある。たとえるなら夕愛はボーダーコリーで、彼女はシベリアンハスキーといった感じだ。


「なに?」


 俺が問いかえすと、彼女は周囲を見やってからとんでもないことを口にした。


「あなたのこと好きなんだけど。付きあって」

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