小悪人をもとめて②
「ご隠居 護衛も来ましたし、そろそろ証拠も集まっているでしょうから隠密の報告を聞いてみてはいかがでしょう。」
「そうじゃのう。おい、安兵衛 隠密を呼べ。」
ワシは助兵衛ですって。何回言っても間違えるんだから。ボケとるんじゃなかろうか。
「何をしとる。早う呼べ。」
分かりましたよ。呼んでくりゃ いいんでしょ。
トコトコトコ
※※※※ 代官屋敷前 ※※※
おっ ここが代官屋敷か。立派な建物じゃのう。
さて、この辺に居るはずだが・・・
んっ あの町人の格好をした男がそうじゃな。ご隠居の元で見た顔だ。
あいつ、何やってるんだ???
町人風の男は、代官屋敷前を通り過ぎるとそのまま回れ右をして戻ってくる。
逆側の端まで行ったらまた回れ右をして戻ってくるを繰り返している。
よく見ると同じように三度笠を被った虚無僧風の男も、山伏風の男も町人風の男と同じ動作を繰り返している。
「おい そこの町人。ちょっとこっちへ。」
「徳田様 なんでしょう?今 話しかけられると代官に気が付かれますよ。」
「何をやっているのだ?」
「代官屋敷を見張っているのですよ。代官屋敷から人が出てきたら、交代で尾行をしています。」
「尾行していますじゃないよ。代官屋敷前でうろうろしていたら、見張っていますよ~ と大声で言っているのと同じではないか。」
「いやだなぁ、徳田様。見張ってますよ~ なんて大声で言うわけないじゃないですか。
諜報は苦手ですが、さすがにそのぐらいの分別はありますよ。」
「これ、こんなところで大声を出す奴があるか。ちょっとこっちへ来い。」
ズルズルズル
この辺までくればよかろう。
「お主は、あれで見張っているつもりだったのかい。あんなにウロウロしていたら、代官側に気が付かれちまうよ。」
「えっ そうですかい。」
「考えてもみなさい。何人もの人間が屋敷の前をウロウロしていたら怪しいと思うだろ。」
「賑わっているなぁ と思います。」
う~ん。こりゃ駄目だ。
「とにかく、今のやり方だと警戒されちまうよ。裏口も同じような見張り方かい?」
「裏口?見張っていませんぜ。」
んっ 見張ってない?
「裏口から入る人間は、使用人が主ですからね。見張る必要はありませんぜ。」
こりゃ 根本から見直しが必要だな・・・
「良し、分かった。一旦、皆を引き上げさせてくれ。」
「分かりました。」
※※※※ 旅籠屋にて ※※※
ご隠居 カクカクシカジカで
「相分かった。俺が直接代官屋敷に出向いて白状させてくれようぞ。」
「いやいや ご隠居。分かってないでしょう。まずは証拠を集めるんですよ。証拠を。」
「だから俺が代官屋敷に乗り込んで証拠を集めると言っておるのじゃ。」
あ~あ 行っちまったよ。仕方がない。追いかけるか。
バタバタバタ
「おい、代官。俺は前の副将軍であるぞ。この領で不正があることは分かっておる。証拠を出せぃ。」
「ははー。証拠ならここに。」
えっ 証拠出すの。
「徳田、あらためい。」
「ははっ。」
あれ、本当に横領の証拠だよ。この代官アホダロ。
んっ 横領額が少ないなぁ・・・。これ部下の横領の証拠だな。
ふ~ん。部下の証拠を出して自分は逃げ切ろうって腹かい。
「ご隠居様。これでは証拠が足りません。代官に帳簿を見せてもらいましょう。」
「おい、代官。帳簿も見せてもらおう。」
「ちょ帳簿ですって。な なぜ部外者に見せなければならないのでしょう。」
この代官 急に慌てだしたな。
「であえ、であえ。この無礼な町人どもを叩き切ってしまえ。」
どやどやどや
10人ほどの浪人が現れる。
うぉ。急に襲い掛かってきたぞ。
「先の副将軍たる俺に歯向かうとは。お前たち、成敗してしまいなさい。」
せりゃー。
護衛の2人が浪人と対峙するが、一刀のもとに叩き伏せられる。
「ぐえっ や~ら~れ~た~。 バタリ」
なんか余裕のあるやられ方だなぁ。
おっとそんな場合じゃないや。
「ご隠居。逃げ・・・」
もうあんなところまで逃げてるし。
「こうしちゃいられない。ワシも逃げねば。」
ドタドタドタ
※※※※ 町外れにて ※※※
「いやぁ。びっくりしましたぜ。急に襲い掛かってくるんですもの。」
いやいや 護衛達なんでここに居るの?さっき真っ先にやられてたでしょ。
「おお お前たちも無事じゃったか。」
無事じゃったかじゃなですよ。ご隠居様。私達の護衛としては失格ですよ。
「相手が強そうだったから、やられたふりをして、ご隠居達に意識がいっている間にこっそり逃げてきましたぜ。」
「護衛対象を囮にしてどうするんだ!!!」
「いやまぁ その辺りは臨機応変ということで」
「そうじゃぞ。徳田。臨機応変な対応をすることは大事じゃぞ。」
・・・
「ところで徳田。次はどうするのじゃ。」
ほんと、次はどうしようかねぇ