第9話 理不尽な執行人
夕暮れ時、逃げ道へ向かう途中、金の暗示と病原菌の暗示は大きな公園で防衛軍の主人公3人、蹴りの暗示、殴りの暗示、手刀打ちの暗示と合流する。
その姿はまるでバッタ人間を彷彿とさせ、それぞれ違う位置にアンカージャッキが搭載されており、緑の蹴りの暗示は右ふくらはぎ、赤の殴りの暗示は右腕、黄色の手刀打ちの暗示は左腕に取り付けられている。
「ホッパー3兄弟! 来てくれたのか!」
病原菌の暗示は頼もしい助っ人に興奮した様子で握手する。
「この方達は?」
「紹介する。彼らはホッパー3兄弟、緑で長男の蹴りの暗示、赤で二男の殴りの暗示、黄色で三男の手刀打ちの暗示だ。俺と同じく主人公を護衛している仲間だ。でもどうしてここに?」
説明を求めると、蹴りの暗示が口部分をクラッシャーオープンさせる。
「実はここら周辺で主人公を護衛していたんだが、突然当の本人が射殺されたんだ」
「銃の暗示ですよ。銃を使う奴はあいつぐらいですから」
恐怖で早口になる金の暗示の発言に殴りの暗示は横に首を振る。
「いや、あれは確かビームだった。あいつは実弾を多用するらしいからおそらく違う奴だろう」
「とにかく、ここからずらかって、支配者の暗示のところへ向かうぞ」
手刀打ちの暗示がそう言って後ろを振り返ると、そこには待ちかねた様にシューティングシルバーを構えた正義の暗示の姿があった。
「悪はすべて俺達が粛清する」
シューティングシルバーの銃口は決してブレず、一直線に蹴りの暗示を狙っている。
「お前か、さっき護衛していた主人公を殺したのは」
4人の複眼が夕暮れに光る。
ホッパー3兄弟は腰を低くし、足を折り曲げる。
「支配者の暗示から聞いているだろう。主人公同士で争う必要はない。なのになぜなんだ?」
殴りの暗示の質問に、正義の暗示は口部分をクラッシャーオープンさせ、全員を威圧する。
「俺達は悪を許さない。主人公もそれに含まれている」
「お前達のやり方だって悪同然だろうが! 主人公が正義に成り代ることなんてできないんだよ!」
手刀打ちの暗示は知っている。
彼が大量虐殺をしていることを。
人間の悪を否定する正義の暗示に対して殺意が湧いてくる。
悪がなければ人間はつまらない者になってしまう。
それを受け入れられない正義の暗示は手刀打ちの暗示の発言に、〈不安定〉が発動する。
「黙れ!!! 俺達は正しいんだ!!! お前達が間違っている!!! ここで消えろ!!!」
怒り狂い、罵声を浴びせ、冷静さを欠いている震えた手でシューティングシルバーを乱射する。
ホッパー3兄弟はビームを飛び越え、金の暗示と病原菌の暗示は水道場を盾にして防ぐ。
「どうするんですかこれ!? 相手はおそらくアタリですよ!?」
恐怖のゲージがマックスになり、金の暗示は悲鳴に近い声で早口になる。
「やっぱりあなたに着いて行くんじゃなかった!?」
「落ち着け。銃の暗示に狙われている以上、戦闘になることは予測がついていた。支配者の暗示が気配を感じてここに来るのは分かってる。それまで時間を稼ぐしかない」
冷静に現状を分析すると、病原菌の暗示は次元の裂け目を開き、中からハンドガンを取り出す。
「病原菌の暗示? なぜ能力を使わないのですか? あれなら1発でしょう?」
金の暗示の素朴な質問に、彼は(そう言えば説明してなかったな)と思った。
「俺のウイルスは 主人公とそのマスターには通じない。もしその制約がなければとっくにお前はあの世に行ってる」
そう言って戦場に飛び出すと、ビームの動きを見極め、躱して行く。
正義の暗示に向け、銃口を向け、トリガーを引いた。
銃弾は肩に命中、血が流れ出す。
するとシューティングシルバーをベルトのスクリュー部分に収納し、今度はブレードゴールドを右手で取り出した。
「スピードアップ!」
右サイドスイッチを叩き、足の血管を浮き上がらせる。
人間の肉眼では捉えきれないスピードに加速し、ブレードゴールドで斬りかかる。
「セリャー!!」
だが蹴りの暗示のドロップキックをくらい、さらにアンカージャッキが起動、正義の暗示の体は亀裂が入り、血を吹き出しながら大きく吹き飛ばされる。
「この程度で、俺は死なん!」
空中で縦回転し、地面に着地すると、今度は後ろから殴りの暗示のジャンピングパンチが繰り出される。
「オラァー!!!」
「同じ様な攻撃が通じると思うな!」
攻撃の仕方は違う、しかしジャンプして繰りだすと言う方法は蹴りの暗示の物とそこまで変わらない。
左サイドスイッチを叩き、スクリューが回転、ラインから左足にエネルギーが送られる。
「ハァー!」
カウンターの回転蹴り。
それは殴りの暗示の腹部に命中、爆裂させるのだった。