第5話 スピード違反
あれからヒメはまた別の高校に通うこととなり、コサメとは離れ離れに。
通学路も違うため、会うとすれば遊ぶ約束をし、近所のデパートに行くぐらいだろう。
毎日べったりはさすがにキツイ物があったので、気を落とすと言うより安らぎを覚える。
(私だってもう3年なんだ。あと数ヶ月で卒業して社会人になる。まあ何を目指すかまだ分からないけど)
転校してから何日か経ったものの、環境の変化についていけない。
そんなある日、帰宅するため道路を歩いていると、前からバイクに乗っているライダースーツを着
ていて、シールが大量に貼ってある黄色のヘルメットを被った男性が猛スピードで突っ込んで来る。
避けれるとは到底思えない勢いで飛ばすバイク。
「救いの暗示助けてー!」
助けを求める声に応え、救いの暗示は〈救いの殺人〉から飛び出し、なんとバイクを回転蹴りで吹き飛ばした。
突然の事に男性はバイクを乗り捨て、アスファルトの道に転げ、その後ゆっくりと息を切らしながら立ち上がる。
アスファルトの道に激突したバイクは男性の後ろで大爆発を引き起こし、部品が飛び散った。
「マスターの言う通り、お前もマスターか。これは殺しがいがあるぜ」
「残念だけど、殺されるのはあなたの方よ。私は救いの暗示意味は救い、救助、異常なまでの依存」
オートマチックガンの銃口を主人公に向けると「挨拶中に銃を向けるなんて、おー怖い怖い」と言っていると通りかかった軽自動車が止まる。
それはブレーキで止まったというより、アクセルを踏んでいなかった状態。
すると次元の裂け目からオートマチックガンを取り出し、運転手を撃ち抜く。
オートマチックガンを逆手に持ち、ハンマー代わりにして窓を破る。
ドアのカギを強引に開け、死体を投げ捨て、中に侵入した。
「俺の名は轢き逃げの暗示。意味は轢き逃げ、運転手、乗られたものの末路だ」
轢き逃げの暗示が自分の説明をしている間に車の姿が変貌していく。
それは誰が見てもモンスターカーだった。
鋼鉄に覆われ、スプリングが擦れて金属音を響かせている。
「挨拶は終わりだろう? 殺せてもらう、覚悟しな!」
アクセルを思いっ切り踏み、猛スピードでヒメ達に襲いかかる。
救いの暗示はヒメをお姫様抱っこすると、モンスターカーを飛び越え、その場から高速で逃げ出す。
「逃すかよ!」
ハンドルを右に切ると、強引なUターンをし、轢き逃げの暗示は救いの暗示とヒメを追いかける。
「あいつの攻撃って乗り物で轢く事でしょ? だったら家に帰っちゃえばいいんじゃない?」
「それは浅はかな考えだと思う。能力を見るに轢き逃げの暗示は乗り物を強化することが可能、もし帰ったら家ごと車で轢かれるでしょうね」
現に轢き逃げの暗示の車にぶつけられた車は大きく吹き飛ばされている。
しかもぶつけた本人の車体は無傷だ。
(このスピードはアタリの奴だな。確かに俺はフツウの部類、だがよぉー。戦術次第でアタリにも化けれるんだぜ)
カーナビでヒメと救いの暗示をターゲッティングし、時速120キロで走行している。
それに対して救いの暗示は車を飛び越え、ぐるぐると道を走る。
これではいずれ追いつかれる。
さらに厄介なのは警察に見つかる事だ。
警察は確実に轢き逃げの暗示の方を追いかける。
しかしこの戦いにおいて彼らはアリ同然、すぐに殺されてしまうだろう。
(マスターが言っていた。主人公同士の戦いにおいてマスターを守る形になった時、それは完全な不利に事が進むってな)
カーナビを確認すると、救いの暗示が小さな公園に向かっているのが分かる。
(ほう? 俺を誘いこんで被害を抑えようとしているな? そんな手に乗るかよ!)
アクセルをさらに深く踏み込み、時速はなんと200キロ。
警察のパトカーが到着するも、モンスターカーの突撃に大きく潰れながら吹き飛ばされていく。
パトカーがヒメ達にぶつかりかけた。
その時だった。
まるで時間が止まった様にすべてのものの動きが止まり、1人の少女が次元の裂け目から現れた。
金髪でツインテール、輝く青い瞳、発色が良いベージュの肌、アイドル歌手を思わせるピンク色のドレス、足にはこれまた可愛らしいピンク色のハイヒールを履いている。
「はーい主人公とそのマスターさんこんにちはー! 管理人の主人公の、支配者の暗示ちゃんでーす!」
轢き逃げの暗示と救いの暗示はその名前に恐怖し、冷や汗が出る。
なぜなら彼女が主人公の中で最恐の存在なのだから。
「最近主人公狩りを主人公にさせてるマスターがいるって聞いてね〜。轢き逃げの暗示、決してあなたが悪いわけじゃないんだよ〜。他にもやらされているかわいそうな主人公もいるからね〜」
軽い口調で話す支配者の暗示は笑みを浮かべながら、ファッションショーに出ているかの様な気取った歩き方で轢き逃げの暗示に近づいて行く。
「さあ轢き逃げの暗示、あなたのマスターはどこなの〜?」