第48話 砕けた命
一方で仕事を見つけ、これからの人生を考えていたコサメの前に特撮の怪人を思わせる青き戦士が舌からヨダレを垂らしながら睨みつける。
恐怖で足がガクガクと震え、まるで蛇に睨まれた蛙だ。
「ケッケッケッ、お前が自衛隊の生き残りか。悪いがマスターの命令なんだ。死んでもらうぜ」
彼女を殺す気満々な彼の名は悪の暗示、正義の暗示の 逆位置の主人公であり、文字通り正反対の意味と性格を持っている。
赤い戦士を彷彿させるその姿にトラウマが蘇り、涙が溢れ出す。
「行けシャドウ! あの女を始末しろ!」
命令に対して現れたのは黒ずくめの集団、ハンドガンを構え、トリガーを弾こうとする。
次の瞬間、炎魔人の暗示がライトノベルから飛び出しシャドウを自然発火により消し炭にした。
「マスターである以上、頼ってもらわなければ困る」
「で、でも………」
「まったく。それでも俺が選んだマスターか?」
4本の腕を組み、視線を悪の暗示に向ける。
そして口を大きく開き、火炎弾を連発する。
対して青き戦士は「スピードアップ」と早口でベルトの左サイドスイッチを叩き、足の血管を浮き上がらせ一気に加速すると次々に躱した。
(その程度のスピードで俺は倒せん)
自然発火で燃え上がる敵の姿、しかし消し炭になることはなく、それどころか取り込まれていき自分のエネルギーに変えられた。
「もう終わりか? 次はこちらから行くぞ!」
姿勢を低くし、ベルトのスクリュー部分から赤い刃を持ち黒き持ち手を有する剣、ダークネスブラッドを取り出す。
走り出した悪の暗示の刃がコサメに向けられた時、親友である2人がラノベから飛び出す。
勢いそのままに電撃の暗示と破壊の暗示はダブルパンチを浴びせ、相手は大きく吹き飛んだ。
アスファルトの道に勢い良く叩きつけられたが、ゆっくりと立ち上がり、それがどうしたと言わんばかりに首を鳴らす。
持ち手を強く握り、シャドウを5体召喚、銃撃を繰り出させる。
だが破壊の暗示に銃弾を粉砕され、破片が飛び散った。
「気をつけろ。あいつは特殊攻撃をエネルギーに変えてくるぞ」
「なら打撃あるのみだね」
炎魔人の暗示の忠告に機械仕掛けの少女は左手を拳に変え右手をグローブ代わりにして殴る。
その間にスマホで警察をコサメは呼ぶ。
『こちら警察です。なにかありましたか?』
「今男性に襲われています! 助けてください!」
『分かりました。GPSであなたの位置情報を確認し速やかに向かわせます』
「よろしくお願いします!」
安心で笑みを浮かべながら電話を切り、バッグにしまうと戦闘中の3人の勝敗を見守る。
この町の警察ならなんとかしてくれる。
そんな安易な考えが災いした。
ビルの屋上、スナイパーライフルを構えた悪の暗示のマスターである黒髪の少女がスコープで覗き込むのはコサメの脳天。
(すべてはレジスタンスのため。死んでもらう)
トリガーが弾かれ、射出される銃弾。
「コサメー!」
奇襲攻撃に気づいた破壊の暗示は彼女の元へ一気に加速し突き飛ばす。
地面に倒れたコサメの目に映った光景、それは親友が悲鳴を上げながら爆散する姿だった。
血が噴水の様に溢れ出し、浴びるように服を汚す。
突然の親友の死に目が泳ぎ、腰を抜かした。
「いやーーーーーーーーーーーーーーーー!?」
叫び声に気づいた2人だったが、敵の猛攻撃に対応できない。
(これは想定内、次は仕留める)
スナイパーライフルの銃口をコサメに再び向け、トリガーを弾こうとする。
だが指が動かない。
なぜなら後ろから腕を拘束されハンドガンを頭に押し当てられたからだ。
「ようやく捕らえたぞ。レジスタンスの生き残り」
中年男性の声、そして発言に対して少女は自分の立場を理解した。
レジスタンスは既に壊滅していたことを。
「さあ、お前の身柄を警察に送れば俺の仕事も終わりだ。」
「それができたら苦労はしない。行け、悪の暗示」
マスターの声に答え、青き戦士はブックエスケープを使用、男性の手を引き剥がし、腹に蹴りを加える。
しかし防弾チョッキを着ていた彼は「なんだその程度か?」と煽る。
いやそれだけではない。
全身に纏いしその電撃は筋肉を刺激し、強化することで骨までダメージが到達しないようにしているのだ。
「俺はめんどくさがりでねぇ。ジムに通うより能力を使ってラクに強くなった方が好きなのさ」
「ケッケッケッ、だがよぉ、その電気は俺の養分になる。電撃など意味が…………」
続きを言おうとした時、唸り声と共に男性は服が破けそうなほどに強化された剛腕でラリアットをくらわせる。
首の骨が折れた悪の暗示は泡を吹きながら背中から倒れた。
「小娘、さっさと捕まってくれないか。 こちらにも都合があるんでね」
左親指と左人差し指の先通しで電気をバチバチと音を鳴らし、迫って来る彼に、少女はスナイパーライフルを地面に置き、降参の手を上げた。
絶望だった。
親友が自分のせいで死んだのだから。
血塗れのコサメを警察は自作自演として連行し、取り調べを行った。
しかし彼女の精神状態は不安定であり、とても殺人を犯すような状態ではないと判断し、精神病院に送られた。
それからずっと口にしている懺悔の言葉が病室に響いた。
「破壊の暗示、ごめんなさい」




