第47話 能力者の執行人
警察が気絶した殺人鬼を確保し、それから仕事場に向かうヒメを手を振りながら見届けるケンイチにヤマトは何らかの事件に加担していると疑い始める。
(後でこの2人の事は調べるとして。問題はヒグラシさんだ。彼女のあの安堵の表情、なにか隠している)
彼はただの護衛ではない。
この夜具画町の秩序を守る特殊部隊〈コイルス〉の隊員であり、警察より位は高い存在だ。
近くに駐車した赤いバイクに乗り込みヘルメットを被る。
(犯罪をしていれば法律で裁く。たとえ知り合いでもだ)
アクセルを回し、走り出すヤマト。
夕暮れの中、考えをまとめつつ本部へ向かうのだった。
「パパ、バイクのお兄さんからいやな気配がします」
「それはね減少の暗示、あの子が僕達の事を警戒しているからだよ」
娘からの拒否感を見せる目に、ケンイチはハッキリと答えを出す。
現状自分達が疑われるのは致し方ない。
ヒメの容疑はもみ消したが、その証拠を掴まれたら捕まるかもしれない。
そんな心配をしている間にも時間が過ぎていった。
「さあ、家まであと少し。早く帰ってテレビでも観よう」
「はい、パパ」
2人の仲難しい姿はまるで本当の親子の様で、日常に溶け込んでいる。
そんな中、1人の金髪の女性、メイシアが通り過ぎる。
(ヒグラシ、あなたは良いわよね。普通の生活を楽しめるんだから。私には復讐相手がいる。殺し損ねたあいつが)
この町に潜む正義のヒーローを殺すためにここに来た。
しかし彼女はまだ知らない、最強と語る彼の相棒がどこまで強くなり、そして彼自身が狂っているのかを。
その頃復讐相手であるセイギは最強の暗示、槍の暗示、変身の暗示と共に悪のランクが高い者達を次々に殺していた。
「悪は絶えない。俺達はそれでも殺し続ける。そうだろう」
血に汚れた黒きボディが夕暮れに光る。
彼らはその通りと縦に首を振り、慣れた手付きで死体から銀行カードを抜き取った。
「私達は正義を執行する者」
「悪などまた積んでしまえば良い」
2人の言葉は所詮自分に都合が良いことばかり。
彼にとってそれは苦痛となっていた。
自分が正義の味方だと言ってくれるのは主人公の2人しかいない。
一方で変身の暗示は「マスターのやり方は前マスターが望んだ正義なのかは知らない。だがそれは自分で決めることだろう」と遠回しに「勝手にしろ」と言われた。
正義の定義などどこにもない。
とにかく自己満足ができればそれで良かった。
「さて、次の場所に向かおうか」
「あぁ、その前に俺達の後を付ける彼女達をどうするか決めてくれ」
「彼女達?」
最強の暗示が親指を後ろに向け、振り向くとスマホのカメラのフラッシュが見えた。
「悪のレベルは?」
「C、平均だな」
「じゃあスマホの動画撮影をやめてもらうようにお願いしようか」
3人がフラッシュの方に手を上げながら2人の少女に近づて行く。
「悪いことは言わないよ。その動画はバックアップ諸共消してくれな…………」
その続きを言おうとしたその時、短い茶髪の少女が鉄製の折り畳み式警棒を両手で合計8本取り出し、スナップで引き出すといきなりこちらに放って来る。
その弾速はマグナムで撃たれた銃弾以上。
それに対して槍の暗示は前に出て次元の裂け目から鉄製の槍を取り出し、勢いよく右手首で回転させ弾き返す。
「なるほど、どうやら私達は彼女達にとって敵であるみたいです」
「困ったなぁ。敵視されてたら和解しなきゃいけないじゃないかぁ」
セイギは頭を抱えながら夕日を見つめると、横髪を結んだロングな黒髪の少女が人差し指で目を細めながら指してきた。
「あなた達はこの町で大量殺人を行った。私達〈コイルス〉が居る限り、これ以上の殺戮は繰り返させない!」
彼女の意気込みは本当の物であると確信し、とりあえず逃走経路を考える。
すると地面に散らばった警棒が浮き上がり、再び槍の暗示に向かって放たれた。
「なに!?」
思わず声を漏らし、防ぎ切れない攻撃の前に蜂の巣になる。
溢れ出す血液が地面に血溜まりを作り、その場で倒れ込んだ。
「槍の暗示!?」
彼の名を叫ぶが、返事は返って来ない。
「槍の暗示の気配が消えた。お前達、よくも俺達の仲間をぉ」
呆気なくやられた黄金の騎士の姿に、最強の暗示は怒りからギシギシと指を鳴らす。
「そもそもあなた達を生かす理由なんてないっす」
茶髪の少女の発せられる言葉に合わせ、警棒が一斉に標的に稲妻の傷を持つ黒き者を選ぶ。
「何人も殺してる罪人に懲役は勿体ないっすから、さっさと私達に処刑されるっす!」
放たれる警棒が彼を襲う。
しかし動きが一瞬にして止まり、2人の少女は金縛りを受ける。
「支配者の暗示の意味がここまで強力とは」
「さて、復讐したいのは山々だけど、彼女達は自分の正義で動いている。ならスマホの動画を消すだけで命は取らなくて良いよね」
2人のスマホを取り上げ、解読の暗示の意味を使いパスワードを解除、動画を削除し、さらにバックアップも消す。
「俺達の邪魔をするとろくなことがないよ。じゃあね」
スマホを彼女達の胸ポケットにしまい、彼らは高く飛び上がるとその場から姿を消すのだった。




