第44話 仕事探し
こちらは夜具画町に到着したヒメとコサメ。
ケンイチに紹介されたシェアハウスに住んで居る彼女達は仕事を探すも、なかなか見つからない。
家の荷物がこちらに送られているのが不思議だったが、すぐに理解させられた。
それは直接見たからである。
市役所の男性が〇こでもドアの様に次元を開き、女性の念力で部屋の物を運ばれたところを見た。
この町では当たり前の光景なのだと、慣れて行かなければならないのだと唾を飲んだ。
そもそもヒメは保育士に成りたいと大学に入った。
しかしこれでは退学になってしまう。
(てか警察に指名手配されてるんだろうし、もう大学には戻れないよね)
鏡を見つめながら深いため息を吐き、仕事を見つけるため今日も3人で就職案内所に向かう。
この町では主人公だと思われる者達がよく見られた。
救いの暗示もここで生活するために小学校に通わせなければならないし、残酷な映画の暗示も仕事を見つけなければいけない。
援助金があるとはいえ2人の服を買ったため生活は苦しい。
「救いの暗示、これから学校で勉強するんだから生徒と仲良くするんだよ」
「ヒメが言うならそうするけど、あなたが事件に巻き込まれないか心配なの」
赤いヘアゴムで長い髪を短く纏め、黒いシャツの上に紅色のジャケット、黒きスカートをブラウンのベルトで止めている。
そんな親友の憂鬱そうな表情に、〈残酷〉と書かれた白いTシャツとジーパンを着た残酷な映画の暗示はクスクスと笑う。
「なによ?」
「いや、本当にお前はヒメと居たいんだなってな。冷静そうに見えて甘えん坊さんなのが分かったぜ」
その発言に対して彼女は図星を突かれるが、表情に出さないようにしたい。
しかし顔を引き攣らせ、マスターを困惑させる。
「あなたは戦場で戦い抜いて来た。でも今の生活に慣れないと。私達は率先して戦わなくて良いんだから」
戦わなくて良い。
その言葉が彼女にとって今度苦しめる物になるとはヒメも思わなかった。
就職案内所に到着し、2人はとりあえず仕事場の案内が張り付けられた掲示板を見つめる。
どれもこれも自分の合う仕事がなく、思わずため息を吐いた。
「見つからないか?」
残酷な映画の暗示は「俺はヒメに合う仕事を見つけたぜ」と自信有り気にグッジョブをする。
「どんな仕事?」
いやな予感がするが一応聞いてみる。
「グループホームのヘルパーだ。月額25万で、しかも交代制で昼は休みだとよ。ヒメにピッタリじゃないか?」
「でも2人の晩ご飯はどうするの? その仕事が上手く行ったとして、誰があなた達の晩ご飯を作るの?」
「よく言うぜ。俺を執事にするために大量の料理の本を読ませたのはヒメだろうが」
そう言えばそんなこともしてたなと苦笑いをするヒメに、呆れたように左手の指をバキバキと鳴らす。
ストレスを発散するのによくやる癖なので、見てると自分までイライラする。
しかしここはグッと堪え、右指し指を顎に当てながら笑みを浮かべる。
「それなら残酷な映画の暗示に晩ご飯は任せようかな」
「分かった。任せとけ」
ようやく仕事が見つかり、2人は書類を貰うと、待たせていた救いの暗示と共にシェアハウスに戻っていく。
「そう言えば残酷な映画の暗示、あなたはどんな仕事を選んだの?」
ヒメのさり気ない質問に、彼は「俺か? 俺はなぁ」と言おうとしたその時、3人の高校生らしき男女がこちらを睨みつけてくる。
(なんだあいつら。ガンを飛ばしやがって。あー、こう言う時は無視だ無視)
そっぽを向き、話を続ける。
その後シェアハウスに帰宅し、お昼ご飯を作り始めるのだった。
仕事当日、エプロンを着たヒメはかなり大きなグループホームを見て驚きながらも、担当の1階に入る。
そこは何十部屋もある中、施設長に挨拶をするため手前の事務室のドアをノックする。
「どうぞ〜」
返事がきたので中に入り、ぺこりとお辞儀する。
「失礼します。今日からヘルパーをさせていただくヒグラシヒメと申しま………えっ?」
施設長の姿に目を丸くし、声を漏らす。
そこにいたのはなんと金髪の少女だった。
エプロン姿でポニーテールの彼女は当然の反応だとイスから立ち、微笑みを返す。
「驚くのも当然ちゃ当然よね。私はブラッド、こんなナリだけど施設長をやってるわ。ヒグラシさん、この仕事を受けてくれて感謝してる。人手が足りなくて困ってたのよ」
話している時に口の中に見えたのは鋭い2本の牙。
コスプレに使われる付け歯じゃない、本物の牙だ。
「あの、その牙は?」
「あ〜これ? 信じてはくれないでしょうけど、私はいわゆる吸血鬼。今時だとバンパイアとかヴァンパイアって言うのかしら。まああまり気にしないで、血なんて吸うようなマネはしないから」
施設長であるブラッドの優しい笑みとは対象的に、ヒメは内心恐怖を感じていた。
ここはヴァンパイアの住処、そんな場所で働くなんて命が何個あっても足りない。
しかし仕事初日で逃げ出す訳にもいかない。
「ブラッドさん、まずなにをすれば良いですか?」
「そうね、まずは支給された食材をレシピ通りに調理してくれる。できたらこの書類に書いてある時間に合わせて利用者を呼んでね。返事がない時は食中毒が危険だから食事は処分してちょうだい。仕事で帰って来れない人もいるから」
書類を渡され、「分かりました」とハキハキした声で返事を返し、事務室を出るのだった。




