第43話 これこそ最強
燃え盛る自衛隊基地の中、セイギ、正義の暗示、そして魂の暗示は戦闘を続けていた。
「お前達はなぜ戦う? こんな無謀な行為をして何になる」
チーターの獣人、神速の暗示の姿で対等に赤き戦士とハイスピードの殴り合いをしている。
「知れたことを! 俺達は自分自身の正義のために戦うだけだ!」
「なるほど。だがその程度の理由で俺に勝てるかよ!」
左手に装備している鉄製の鉤爪で切り裂きに掛かるが、バックステップで躱される。
2対1の状況だが相手は究極の主人公の1人、油断できない。
「次はこいつだ」
魂を取り込み変身したのは人型兵器、遊びの暗示。
「さあ、死の遊びを始めるぞ」
そう言って出てきたのはコイントス用のコイン。
「俺は裏を選択、コイントス」
上に投げ、クルクルと回る運命を見守る。
実はこのコイントス、もし当たった場合1人指名してあの世に送ることできる。
しかも攻撃を受けない体制付きだ。
(これでマスターを指名すれば俺の完全勝利)
ギャンブルに勝てばこの戦いに勝利する。
そう思った束の間、ビーム弾でコインが撃ち抜かれ貫通、使い物にならなくなる。
正義の暗示は知っていた。
魂となった彼の〈意味〉を。
レジスタンスに居た時共闘したことがあり、知るタイミングはあった。
「意味を知っている以上、そんな危険物を使わせる物か。スピードアップ」
シューティングシルバーの銃口を向けながら右サイドスイッチを叩き、足の血管が浮き出ると、人間の肉眼では捉え切れないスピードで走り出しベルトのスクリューからブレードゴールドを取り出し斬り掛かる。
それに合わせセイギも青き姿で一気に加速、魂の暗示の後ろを取る。
(もらった!)
浴びせ蹴りをくらわせようとすると、素早く魂を切り替えられ、今度は魔法使いの女性、障壁の暗示に変身し、バリアで攻撃を防がれる。
「次はこいつだ」
魂を取り込み、次になったのはオオアタリの主人公、 水の暗示。
その姿はまるでピンク色の少女の半魚人。
右手に水の弾を生み出し、レーザーの様に正義の暗示に撃ち放つ。
だがスピードアップした彼に当たるはずがない、そう思われていた。
なんと水流が急に曲がり左肩に命中、貫通し血が水と混じりながら溢れ出す。
あまりの激痛に悲鳴を上げ、さらに後ろから右肩を貫かれる。
「フハハ! こいつは水を自由に生み出し、自由に操ることができる。今のはダイヤモンドカッター、つまり1番硬い宝石を切り裂くほどの斬れ味だ!」
ダイヤモンドカッターを解除し、今度は激流が彼らを襲う。
「トォー!」
「タァー!」
2人は高く飛び上がり、激流を上から飛び超える。
(そんな無防備の体勢を見過ごすとでも思っているのか?)
隙を見逃さず、ダイヤモンドカッターを放とうとすると、突然セイギがドロップキックの体勢に入り、瞬間移動でいきなり腹を蹴り飛ばし、大きく吹き飛ばす。
「たとえどんな能力を使えこなせても、俺達は負けない!」
「そうだ。主人公だろうと究極の主人公だろうと、悪である以上、お前を必ず倒す!」
正義を語る彼らに、魂の暗示は不敵に笑いを上げる。
「なにがおかしい!」
正義の暗示の怒りの叫びに、憑依させていた魂を解除し、体中の魔法陣を光らせる。
「おかしいことを言っているから笑っただけだ。この世に正義しかない者などどこにもいない。正義と悪、両方持ってこそ生物。勧善懲悪が成立するのは物語ぐらいなんだよ」
呆れた様子で5つの魂を憑依させ、光から現れたのは白き騎士。
全身が霧のヴェールに包まれ、右手には水でできたダイヤモンドカッターの剣、左手にはブラックホールの盾を構えている。
「これが俺の本気の状態、白き亡霊騎士。今まで死んで行った最高ランクの主人公達の力を味合わせてやる」
神速の暗示の肉眼では捉えきれないスピードで走り出し、剣を振りかぶる。
そしてセイギに向けて左斜めに振り下ろす。
しかし赤く光り出した複眼はその動きを読み取っていた。
クロスカウンターの要領で攻撃をギリギリで躱し、右ストレートが顔に決まった。
そう思った次の瞬間、顔がスライム状に分裂、すぐに再生し再び斬り掛かる。
バックステップで躱そうとするがブラックホールの盾の強力な吸引力に距離を離すことができない。
「これで終わりだー!」
文字通りこれで終わると魂の暗示は確信した。
こんなにもくだらない戦いをするならば最初から本気を出しておけば良かったと。
「終わるのはお前だ!」
声の先を確認すると、正義の暗示のドロップキックをくらった。
すり抜けた攻撃だが、確かにエネルギーが注入される。
全身に回った破壊の力に耐えられなくなった肉体は崩壊を始める。
「バカな、再生幻獣の暗示の再生力でも耐えられない、だと」
「俺の意味には〈悪の絶対排除〉がある。魂を欲張ったのが仇になったな」
主人公の悪のランクはAと固定されている。
それを5つも憑依させていれば、破壊力は凄まじい物になるのだ。
「離れろ2人共! 爆発するぞ!」
相棒の指示に従い、バックステップで距離を取る。
その数秒後、大爆発を引き起こした白き騎士。
炎がさらに燃え広がり、3人の体を蝕んでいく。
その時だった。
赤き戦士の前に現れたのは光の集合体、怨念の様な禍々しいそれは口を開く。
「お前は俺を倒した。つまりこの力を継承する義務がある。受け取れ、そして存分に使いこなせ」
体に取り込まれていく光は正義の暗示を変貌させていく。
白い2本の角、頭の真ん中にイナズマの様な白い傷、すべての者を威圧する白い複眼、胸下に埋め込められている白き宝石、背中にはカブトムシを思わせる羽、腕から放出する白いビームカッター、足と一体化しているギアが搭載された白く鋭いレッグトリガー。
「ジャ………スティス?」
あまりの変貌っぷりにセイギは驚きが隠せない。
「俺はもう正義の暗示じゃない。大量の力の代わりに悪に染まった。だからこそ改名しよう。俺の名は最強の暗示。今日からそう呼んでくれ」
「君がそう言うなら、これからもよろしくね」
2人は握手を交わし、自衛隊基地を後にした。
次はレジスタンスを葬る番となった。
この戦いを知らない消防隊が到着したのはその10分後だった。




