第40話 逆位置の主人公
妄想だったとは言え今まで心の支えだった者を失い、彼女の名を叫ぶセイギに、シゲルは察した。
不安定になってしまった彼が自分には見えないなにかにすがっていたことを。
あの事件から2年、見ていない間に深刻な方向に進んでいるのが分かる。
(ここまで自分を追い詰めるほど暴力に苦しんでいたのは事実。だけどなセイギ君。君は正義の味方には決して成れない。成れるとすれば悪だと気づけない者だろう)
ヒーローは誰でも成れる者ではない。
現実で言われるヒーローとは警察や消防士などを指す。
それ以外は一時的にしかヒーローとは言われない。
しかしこの世には正義と言う曖昧なものでは解決できないことがある。
悪と言う都合がいい言葉を織り交ぜ、語ることしかできないのが人間なのだから。
歩みを進め始める彼らは医務室に向かう。
すると険しい表情でリボルバーの銃口をセイギに向けるカゲタの姿が視認できた。
「話は聞かせてもらった。彼の危険性はお前が1番知っているはず。ここをワガママで壊滅される前に消すことがレジスタンス全員の答えなんだよ」
刑事としてではなく、レジスタンスとしてその銃口を向けている。
カゲタの本気の眼差しに、死を覚悟したセイギは目を塞ぎその時を待つ。
それを見兼ねた槍の暗示が飛び出し、次元の裂け目から赤き槍ゲイボルグを取り出した。
ゲイボルグとはクーフーリンと言う男性の英雄が師匠スカサハから授かった伝説の槍である。
槍先には16の棘があり、貫かれた者は大量の傷を負い死亡する。
さらに追尾性能が備わっており、投げれば百発百中なのだ。
「セイギ様を殺らせはしません」
「従順な奴め。良いだろう。銃の暗示を失った代わりに手にした新たな相棒の実力を試すとしよう」
「なんですって?」
首を傾げる黄金の騎士を他所に胸ポケットからライトノベルを取り出し、相棒を召喚する。
その姿を見て、正義の暗示は驚愕した。
なんと救いの暗示にそっくりな少女が息を荒くしながら不敵な笑みを浮かべていた。
違いとすれば彼女の髪が正反対の黒、同じく服装も真逆の白、瞳は青く輝き、包帯を巻いておらず、代わりに古傷が見えるぐらいだろう。
「キャハハ! 私の名前は挫くの暗示! あなた達を殺したくて古傷がうずくのー! 」
明らかにテンションが高い彼女に、赤き戦士は理解する。
『お前、あの女のコピーだな?』
「コピー? キャハハ! それは少し違うわ! 私は逆位置の主人公の1人! つまり主人公の写鏡な訳!」
よく分からない説明にイマイチピンとこない彼らへ、ため息を吐くカゲタが口を開く。
「名前と意味が真逆の存在、実際悪の暗示と言う正義の暗示の 逆位置の主人公とそのマスターが夜具画町に逃走しているマスターを排除に向かった」
話を聞いてセイギはこの状況に危機感を覚える。
逆位置の主人公のステータスの事は語られていない。
と言うことは元の主人公と変わらないかそれ以上の可能性があり、ランクがアタリの正義の暗示を撤退に追い込んだ主人公と同じランクならばフツウの槍の暗示が単独で勝てるはずがない。
正義の暗示の傷はまだ癒えていない。
シゲルの変身の暗示は出す隙もないだろう。
「槍の暗示! シゲルさんが変身するまで時間を稼いでく…………」
続きを言おうしたその時、シゲルが突然倒れてしまう。
「キャハハ! 遅い遅い!」
後ろから聞こえた挫くの暗示の笑い声。
良く見ると彼の背中に刺された痕が数えきれないほどあった。
「シゲルさん? そんな………ウソですよね………」
信じられなかった。
あのシゲルがこんなにも呆気なく死ぬなんて。
傷口から血が服に滲み出し、さらに床に流れ出すのを見て涙が再び溢れ出す。
「次はあなたの番よ。ヒーローの偽物さん。キャハハ!」
足を踏みしめ神速から繰り出されるサバイバルナイフによる高速突き。
それを防いだのは黄金の騎士、槍の暗示だった。
「私のマスターを侮辱したこと、後悔させてあげましょう」
サバイバルナイフを弾き返そうとする彼に、ニタリと笑みを浮かべる黒髪の少女。
(う、動かない!? なんですかこの力は!? 私のパワーを遥かに超えている!?)
力量を弁えなかった結果だと悟った時にはもう遅い。
次元の裂け目からハンドガンを取り出し、彼女は相手の腹に銃口を突き付ける。
トリガーが弾かれ、鎧を銃弾が貫通し、吹き飛ぶ彼に「キャハハ! キャハハハハ!」と狂ったように笑う。
「無謀。そう、無謀な戦いを仕掛けたあなたが悪いんだから!」
笑いが止まらない彼女、銃口を向けるカゲタ、この状況で思いついたセイギにとっての最前の行動。
(チャンスは1回だけ。覚悟を決めてやる)
その腰には変身の暗示が巻かれている。
「変身………」
右サイドスイッチを手の平で勢い良く押す。
(だから遅いって言ってるの!)
銃口を向けた挫くの暗示はハンドガンを連射し、銃弾が彼に迫る。
しかし光り出した体がそれを跳ね返し、黒き戦士の姿が現れるのだった。




