第39話 彼女のいなければ
「僕はカワギケンイチ。君達も主人公のマスターなんだろう? 自衛隊に扱き使われて大変だったでしょ?」
ケンイチの口振りからヒメとコサメは彼もマスターだと理解する。
だがこの状況で出会うのはおかしい。
軍勢の暗示によって気配を感じ取られ、すぐに捕まってしまうはずなのだから。
「どうしてあなたは戦いに参加してないの?」
ヒメの質問に対してケンイチは自分の家族である娘の事を喋り始める。
「僕の主人公は減少の暗示でね。自分の気配を消せるんだよ」
「それが本当だとして、私達をどこへ連れて行くつもり?」
十字路を左に曲がり、夜の道を走る。
カーナビを確認し、高速道路へ向かう。
「君達にとって安全な場所だよ。能力者の集まる町でね、主人公とのびのびと生活できる」
「そんな話信じられないんだけど。そうですよねヒメ先輩」
後輩の振り向きながらの発言に対し、先輩は同感の表情を浮かべる。
彼が善意でやっているのか、それとも罠にかけようとしているのか。
それが分からない以上は警戒を怠れない。
「ケンイチさんでしたっけ? その町に着いて、ちゃんとした生活ができる保証はあるのかしら?」
「疑うのは無理もないよね。僕は元々主人公狩りをしていたんだよ。妻と娘の復讐のために。そんな時に出会ったのがあの町の救助隊だった訳だ。彼らは特殊能力を持つ者や共に暮らしている者を〈夜具画町〉に送り届けることを仕事としている」
夜具画町、そこは一体どの様な町なのか。
それとも真っ赤なウソなのか。
彼女らはどっちにしろ逃れることはできないのだった。
一方その頃セイギは隠れ家で不安定な状態になり、金髪の男性に小部屋で気絶するまで暴力を振るわれていた。
あまりにも理不尽な行為に正義の暗示と槍の暗示は我慢ができずライトノベルから飛び出す。
「いい加減にしろ!」
「これ以上の暴力行為はセイギ様が死んでしまいます!」
2人の発言に対し男性は腰を抜かし、尻から倒れ込む。
分かっている。
あれは自分達を引っ掛けようとするあからさまな罠だと。
引っ掛かればレジスタンス総動員で襲われる。
暴力行為をしていることなど当たり前であり、反撃をすれば味方がいない現状ここはライトノベルに戻るしかなかった。
『俺達がお前達のセイギに対しての非道な扱いを固唾を飲んで見続けていると思っているのか?』
『もしまたこの様なことが繰り返される場合、その代償として命を頂きます。良いですね?』
脅迫され逃げ出す男性は監視していたシゲルに足を引っ掛けられ転ばされる。
「あんたら、セイギ君に随分と酷い扱いをしてたそうだねぇ。仲間同士、仲良くしてもらいたいんだが」
表情を見て分かる鬼の形相。
言い訳を考え終わるのにそう時間は掛からない。
なぜならセイギの悪いところを言えば良いのだから。
「こいつは頭がおかしいんだよ。キレたら暴れるし、殺そうともしてくる。お前が連れて来たんだから責任はとってもらおうか」
この様に言えばシゲルも納得するはず。
内心そう思っていた。
「確かにそれは申し訳ないことをした」
「だったら………」
「だが暴力行為をしたのは事実。それはお互い様でそもそも隠れてやってたんならさすがに謝る必要性が失われるぜ」
言葉を遮られた挙句謝罪を拒否された。
男性は苛立ち始め、歯を食いしばる。
「殺されそうなら警察を呼べば良い。最も、レジスタンスであるあんたが行けばお縄になるのが落ちだけどな」
逆に丸め込まれ舌打ちをすると、小部屋から首を鳴らしながら出て行った。
シゲルが倒れ込んでいる彼に駆け寄ると、セイギは笑みを浮かべながら涙を流していた。
「シゲル………さん………」
喜びとつらさで涙が止まらない。
失いかけた意識が蓄積した激痛によって覚醒する。
「俺は正義の味方には成れないんですね………こんなにも不安定な人間がヒーローなんて成れるはずがない………」
抵抗ができなかった。
レジスタンスの人達の考えが理解できなかった。
正義の暗示と槍の暗示のおまけだと思われるのがいやだった。
絶対の正義でありたいと思いたかった。
しかし障害を持つ自分がそんなものに成れるはずがない。
「セイギ君、とりあえず治療だ。立てるかい?」
「はっ………はい………」
差し伸べられた手を掴み立ち上がるとシゲルの肩を借り医務室に向かう。
その道中ミウに腕を大きく広げ道を塞がれ、足を止める。
「うん? どうした?」
その呼びかけに「いえ!? なんでもないです!?」と驚いたように返事を返す。
「セイギ君、本当は気づいてるんだよね。私達が君の妄想だってこと」
泣きそうな表情で見つめ、彼に問いかける。
「セイギ君はきっと私達がいなくても大丈夫。話を色々してくれてありがとう。そしてさようなら」
右手を振り、彼女は徐々に消えていく。
その光景に唯一の支えだった者を失う衝撃を受ける。
「ミウさん! ミウさーーーーーーーーーーーーーん!?」




